第十一話〜命への嫉妬〜
霊夢と椛は目の前が真っ白になった。それはほんの一瞬の事であったが、かなり時間が経ったような、変な感覚だった。
「いたた、椛、大丈夫?」
「はい、何とか....。っ!!」
「大丈夫じゃ無いじゃない、背中が痛むの!?」
霊夢は椛を抱き抱え、岩に寄り掛からせた。
「(この怪我、多分骨折してるわね....。椛はもう戦うのは無理ね....。)」
しょっぱな飛び蹴りを喰らい、ぶっ飛ばされた挙句岩に背中を強打した割には頑張った方だろう。
「あいつは、やったのかしら....。いや、こんなにあっさり終わるわけないか....。」
霊夢が独り言を呟いていた次の瞬間、煙の中から無数の黒い触手とサソリの尻尾が、霊夢を目がけて襲い掛かった。霊夢はすんでのところで回避したが、着地した瞬間霊夢の足には激痛が走った。先程奈落刃がスペルカードを発動した時にばら撒かれた針が、足に突き刺さっていたのである。
「くっ、このくらいの痛み....!」
霊夢は針を抜き、歯を食いしばって立ち上がると、地面は危険と判断した為、すぐに宙に浮いた。
「....はクれーの巫女....。お前ダけハ逃がさなイ。絶対に魂ヲ食べテやる....!!」
煙の中から姿を現した奈落刃は目を血に飢えた獣のようにぎらつかせ、すぐさま空へ飛び上がると、霊夢に触手の弾幕、そして、サソリの尻尾のような腕を鞭のようにしならせ攻撃した。その音速を超える弾幕の嵐を、霊夢は必死に回避した。しかし、息も上がって来た霊夢は、視界がぼやけ始めた。それでもこの攻撃を喰らうわけにはいかないと触手を避けつつ、針や弾幕を放って攻撃した。
「アははッ!!はくれーの巫女....!さっさと落ちロ!腹ガ減っタんだヨ....!!!」
奈落刃は攻撃の手を休める気配は無い。恐らく元々『死んでいる』ので、疲れるもへったくりも無いのだろう。確実に最初の頃の冷静さを失い、暴走しかけている奈落刃。必死に攻撃を避け続ける霊夢。そして、
「もうサァっ!!ちょこマかスルなよ!!!スペルカード発動!!憎悪・黒イ炎!!!」
二つ目のスペルカードを発動した奈落刃。サソリの尻尾のような腕が黒い炎を纏い出し、それを力任せに振り回した。霊夢は初めは避けまくったが、下で横たわる椛が目に入り、霊夢は迷わず椛を守りに向かった。ぐったりとする椛に覆い被さるようにして、霊夢は椛を庇った。霊夢の頭上には、すでに黒い火の玉が接近して来ている。
「(ダメ、ここで逃げたらダメ....。私が焼け死んだとしても、絶対に逃げない!絶対に椛....。ここにいる仲間は守る!)」
迫り来る炎。霊夢は死の覚悟を決めた。しかしその時、
「(助けて....カズマ!)」
脳裏をカズマへのSOSの言葉が過ぎったその瞬間だった。
ダァン!!
どこからともなく、見えないくらいの勢いで弾丸が飛んできた。そして霊夢の目に映ったのは、胸から黒い血を吹き出し、地面に落ちる奈落刃の姿だった。
「え?....カズ....マ?」
「ク、ソっ....!なニが、起キた!?」
奈落刃は立ち上がるが、立ち上がったと同時に、カズマはもう四発続けて発砲した。そしてその四発の弾丸は、奈落刃の両手足を確実に撃ち抜いていた。思わずその場に倒れ込む奈落刃は、何が起きたか理解出来ずにただ蹲っていた。
「今だ!魔理沙!!」
スコープでそれを確認したカズマが、魔理沙に合図を出した。
「分かったぜ!!恋符・マスタースパーク!!」
魔理沙が叫ぶと、魔理沙の八卦路から光の光線が打ち出され、奈落刃に直撃した。奈落刃は数十メートル吹き飛び、地面に体を叩きつけられた。しかし、それでも容赦はしないカズマと魔理沙。
「とどめだ!!霊夢!」
スコープで状況を確認するカズマ、ほうきで空を飛ぶ魔理沙が一斉に霊夢に叫んだ。そして....。
「....ええっ!霊符・夢想....封印!!」
霊夢は最後の力を振り絞り、スペルカードを発動した。
夢想封印が奈落刃を飲み込む寸前、霊夢には奈落刃の嘆きが聞こえた気がした。
「はくれーの巫女....。私は....。」
その瞬間、夢想封印が奈落刃を飲み込んだ。しばらくして煙が消えると、奈落刃が居たはずの場所には、骨と黒い浴衣のみが残っていた。
「霊夢!大丈夫か!」
魔理沙はほうきから降りると、霊夢に駆け寄った。
「紫から聞いて椛の家に向かったんだけど、丁度カズマが走って行くところだったんだ!それでカズマもほうきに乗せたら、敵に気付かれない遠い所に下ろしてくれって言うからそうしたんだ。まさかあんな武器持ってるとは思わなかったけどな〜。」
「心配掛けたわね、それで、その肝心の紫は?」
「ここよ、遅くなって悪かったわね。」
そう言いながらスキマを開き、紫が姿を現した。
「紫!あんた、何でこんな遅いのよ!」
「ごめんなさいね、ちょーっとドタバタしてたものだから〜。」
霊夢は問いただすが、紫はいつものように笑っていた。
「まあまあ、私が一早く察知したから魔理沙とカズマが助太刀しに来たのよ〜?だから今回は許して?」
「分かったわ。今回は許してあげる。それより、椛が大怪我してるの!すぐに手当てしないと!」
深くため息をついた霊夢だったが、今は紫を許す許さない以前に椛の事が心配だった。
「その事なら大丈夫よ〜。事前に永遠亭に言っておいたの。霊夢たちが妖怪の山で悪霊と戦っていて、もしかしたら怪我人が出るから準備しておいてってね。その証拠に....。」
紫はそう言ってスキマを開くと、中から人が一人出てきた。
「鈴仙!」
中から出てきたのは、鈴仙・優曇華院・イナバだ。
「紫様に話は聞いております。私と師匠で診察の準備をしておりましたので、怪我人はお任せ下さい!」
鈴仙はそう言うと、倒れていた椛を抱え、スキマの中へと戻って行った。
「ああ、そうそう!あともう一人回収しなくっちゃ!」
紫は再びスキマを開くと、中に手を突っ込み、カズマを引きずり出した。
「うあっと!!ありがとうございます。紫さん。」
カズマは紫に一礼すると、銃をケースにしまった。
「霊夢、ごめん。もっと早くに気づいていれば、椛さんも怪我はしなかったかもしれないのに....。」
カズマは霊夢に謝った。しかし、霊夢は怒らなかった。
「いいの、助けてくれてありがとう。カズマ....。」
すると、横で見ていた紫と魔理沙がニヤけ出した。
「あらあら、それじゃあ私はお邪魔の様だから、これで失礼するわね。霊夢、貴女も足の怪我、診てもらいなさい。」
「ああ、私も魔法の研究しないとだから、じゃあな!霊夢、カズマ!」
「ちょっ、あんた達!!何勘違いしてんのよ!!」
二人をおちょくりながら去ってゆく紫と魔理沙。それを追いかけようとする霊夢を無理矢理永遠亭へ通じるスキマに押し込むカズマ。悪霊『奈落刃』との戦いは、それを以て収束したのであった。




