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いいえ、友達が出来そうです。


 「よーし、じゃあ20分休憩なぁ~。スポドリが支給されてるから各自取ってけよ~」


 陽達が走り始めてから一時間半ほど経った時、禿田先生は休憩を告げた。


 「あ、そうだ、この時間は脳力を使ってもいいぞ。治療系の脳力を持っているやつは回復してもよし、氷雪系はアイシングしてもよし。もちろん他のやつらに使うのも許可するが、自分の疲労度を考えながら行え。もちろんこの後も走ることを忘れるなよ」


 脳力は使えば使うほど、肉体的には疲れないが精神的疲労が溜まり、最終的に耐えがたい頭痛がする。わざわざ他人に使って首を絞める人はいないと思われる。案の定、それぞれが自分に使ったり脳力を使うそぶりのない人ばかりだ。


 陽は自分の分のスポドリを取りに行くついでに左隣の女子の分と右隣の男子の分も取ってあげることにした。途中で気づいたが、右の男子は最初に飛ばしすぎたみたいで毎回ペナルティで走ってた。二人とも休憩になったとたん疲れからか微動だにしない。まるで屍のようだ。


 「二人とも、どうぞ」


 「お、おぉ、恩に着るぜ…」

 「あ、あぁ、ありがとうですわ…」


 よほどのどが渇いてたのか二人とも一気に飲み干してしまった。


 「確か龍野陽だよな。教室でも隣で気になってたんだよ。おれは明智進(あけちすすむ)。進って呼んでくれ」


 (あぁ、確かに教室で右の人だった!)

 

 いつも右向いて喋ってるから陽は進の顔をあまり覚えてなかった。


 「(わたくし)は遠藤百合ですわ。百合と呼んでくださいまし」


 ぽっちゃりの女子の口調がお嬢様のようだ。実家がお金持ちで育ちがいいのかもしれない。色々と。


 「進くん、百合さんよろしく。僕のことは陽って呼んでください」


 「あ、おれのことは呼び捨てでいいよ~。そんかわり陽って呼んでもいいか?」


 「あ、うん、了解。進よろしく」


 進は笑顔で陽の肩に手をまわしてきた。


 (こ、これが友達が出来るやつと僕との違いかっ)


 きっといつも喋っている人も進から声をかけられたのだろう。距離の詰め方がえげつない。


 「いやぁ~、このシャトランまじできついよな~。剣持が想像以上に速くてよ、それにつられてペースあげちまってよ。まじで後悔だわ。その点、陽は頭いいよなぁ。60秒ピッタリだもんな。一回もペナルティ受けてないっしょ」


 「流石は火炎の明家ですわね。私なんて毎回ペナルティで走らなくてはなりませんの。もう足が上がらないですわ…」


 百合は足をさすり、ぎこちない笑みを浮かべている。二人とも陽を責めているような雰囲気ではないけれど疲労からか悲壮感が凄く漂っている。


 「褒められたことじゃないけどね。僕は最初から手を抜いて走ってたってことだから。皆がペナルティで走ってる際中、罪悪感をすごく感じるよ」


 「それでも60秒以内に毎回走ってるってことですわよね?凄いことですわ」


 「そうそう、おれなんか最初のタイムどころか60秒だってきれなくなってるからな。なぁ脳力専門校ってのは中学でもこんな厳しいのか?」


 進は百合に目を向けながら首を傾げた。


 「いいえ、中学は脳力をコントロールするための訓練ばかりでしたわ」


 「あれ、百合さんは中学も専門校に通ってたの?」


 「えぇ、王林中学校という所に通ってましたわ」


 王林。陽にも聞き覚えがあった。確か円が月野に行くと決める際に迷っていた学校だ。優秀な脳力専門校でありながら女子校でもあり、入るためには相当な学力と脳力が求められると聞いた。


 「ちなみに百合ちゃんは王林を次席で卒業してるんだぜ~!脳力以外も重視される学校なだけに相当優秀だぜ!」


 「進さんはよく知ってますわね。でも主席があちらにいらっしゃいますわ」


 百合はとある休んでる生徒に目線を向けた。そこには金髪をツインテールで結んだ日本人離れした顔立ちの女の子が座っていた。


 「あの方は風間(かざま)アリサさんですわ。美人でありながら勉学も脳力も一流。そしてなによりも私よりも圧倒的にスポーツ万能ですの」


 百合は自分を自嘲するように言った。しかし、陽にとってはまだ運動できるか出来ないかの違いしか知らず、また百合はお世辞にも運動が出来る体型ではないのでしょうがないのではと思った。


 「風間アリサってこのシャトラン二位のタイムの子だよね?確かにすごいけど比べる対象じゃないと思うよ」


 「そうそう、運動科目で差をつけられただけで脳力を使った試合では百合ちゃんが勝ち越してるんだろ?全然悲観することじゃないぜ!」


 進はなぜか二人の事を知っていた風に話していた。しかし、陽には二人はさっき初めて話したように見えていたので不思議に思った。それは百合も同じようで驚いた表情をしていた。


 「どうしてそんな詳しいことまで知っていますの?誰か王林に知り合いでもいらしたのですか?」


 「あぁ、違う違う。おれは情報収集が趣味でな、クラスで印象に残った人をちょっと調べたんだよ。あ、やましいことじゃないぜ?!会話のきっかけとかに使いたかっただけだから!」


 そうは言うものの、どこか焦っている進は怪しく見えた。しかし会話のきっかけと聞いた陽は自分のことも調べられたのかなとちょっと期待していた。


 「なるほどですわ。でもその情報は誤りがございますわ。集団戦の脳力試合では確かに私は彼女に勝つことが出来てましたが、一対一の試合で勝てたことは一度もありませんわ。脳力の相性もありますが、彼女は脳力においても一流でしたわ」


 百合はどこか風間アリサを庇うように話した。もしかしたら二人の仲は悪くないのかもしれない。まぁ脳力専門校で主席卒業の人が脳力が劣っているなんてことはありえないことは陽にもわかってはいたが。


 「まぁ同じクラスだし、いつか僕達も風間さんと仲良くできたらいいね。というか剣持くんといい、うちのクラスは優秀な人が多いね」


 「確かにな。でもA組にも明家が一人いるみたいだ。まだ名前を入手出来てないけど必ず暴いてみせる!」


 「流石に他のクラスの人の名前は頑張らなくてもすぐに手に入ると思いますわ」


 陽達が進の言葉に笑っていると、禿田先生が戻ってきてシャトルランの続きの準備を指示された。


 進も百合も話している間に少し回復したのか自分達で飲み終わった容器を戻しに行き、三人でまた同じように並んだ。


 「…そういえば」


 そろそろ始まるかと陽が思い気合をいれている時、少し悪い顔をした百合から話しかけられた。


 「私、王林出身ということは自己紹介の時に話していたのですわ。陽さんよりも前に話していたのですが忘れられてしまったのですわね…」


 「え?!」


円「お兄、友達出来なかったって」

美雪「あら…でも高校にはあの子がいるから大丈夫よ」

円「ダメ…あの人だけはお兄に近づかせない…」

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