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いいえ、汗だくです。


 今日は授業開始日である。


 一般的な高校では教養科目などを勉強するが、この月野学園は脳力の専門学校という扱いらしく座学は必修ではない。もちろん受けたいと申請すれば受けられるし、脳力研究学という専門的な授業もあるらしい。


 一年の前期は午前中にクラスで基礎練、午後からそれぞれ自由に学校の施設を使って脳力の強化にあたるみたいだ。基礎練で何をするかはまだわからないけれど、禿田先生の指示により陽達B組は体操服に着替えてグラウンドに集合させられていた。


 「よし、これからお前達にはシャトルランをやってもらう。全員一列に並べ〜」


 シャトルラン?陽だけでなく他の生徒もポカンとした顔をしていた。


 「失礼ですが禿田先生、シャトルランに何の意味があるのでしょうか?基本的な戦闘訓練とかならまだわかるのですが、ただ走るだけで何か得られるんでしょうか?」


 すると、やはり疑問に思ったのか剣持が禿田先生に質問をした。顔合わせからわずか一日で剣持はすでにクラスの中心人物と言ってもいいほどの存在になっている。


 「皆が皆、中学の頃から訓練していたわけではねぇぞ。体力に差がありすぎると怪我もしやすいし、効率が悪りぃ。皆で揃って走れば、誰が遅くて誰が速いか一目瞭然だろ?それをもとに組む相手だったりを考えることができる。それにだ、脳力がいかに凄かろうと体力がなきゃ相手に遊ばれてやられるだけだぞ」


 言っている意味はなんとなくは理解できる、と陽は思った。剣持も完璧には納得いってないようだが、一応列に並んだので他の人がそれ以上何か言うことはないようだ。


 「この線から向こうの線まで走ってまた戻ってくる。それを60秒以内に走れ。余裕があるやつは出来るだけ早く走ってもいいぞ。ちなみに2年生には30秒で走るやつもいるぞ」


 禿田先生は部活とかでよく使われてるカウントダウンの機能がついた電子板を叩きながら言った。わざわざ二年のタイムを言うのは出来るだけ速く走るよう煽ってるとかと陽は感じた。


 距離をぱっと見た感じ普通に走れば60秒は簡単に切れそうだ。といっても陽は龍野家の跡取りとして毎日走り込み、自分自身で訓練を行っている。陽は隣のふくよかな女子を見て、彼女は絶対に走り切るのは無理だろうなと思った。


 「じゃあいくぞ〜」


 案の定隣の女子が遅かったが、想像以上に遅く、隣で速く走るのが気まずくなり陽は60秒ぴったりに走った。女の子自体はかなり遅れて帰ってきたが精一杯走った結果のように見えた。


 次もまた同じ感じで走るのかなと思い陽は先生の顔を見たが、なにやら悪い顔をしているのが見えてしまった。


 「よし、いま60秒切れなかったやつはもう一回走れ。ペナルティだ」


 「「えっ…」」


 隣の女の子を含めた何人かの悲痛な声が聞こえた。


 (そりゃ皆が見てる前でペナルティで走るのは恥ずかしいし嫌だろうな)


 大多数の人が同情の目で見る中、走りきれなかった人達がもう一回走った。このペナルティには時間制限はないみたいだが、少しでも早く視線から逃げたいという気持ちからか皆ちゃんと走ってた。


 陽があまり見てても気持ちいいものではないからもう終わってほしいなと思った瞬間、更に悪い顔をした先生の顔が見えてしまった。


 「じゃあ全員もう一回走れ。もちろんまた60秒以内だ」


 (これもしかして全員が60秒切れるまでってやつでは?見た感じ、隣の女の子は今日明日で切れるとは思えないんだけど)


 「待ってください!」


 流石に許容出来なかったのか、剣持が声を上げた。


 「なんだ?」

 

 「人によって体力の差があるといったのは先生ではありませんか!なのに皆同じ時間で走れなんておかしくないですか?!それに見世物のようなペナルティも真っ当なものではないと思いますが!」


 「ほぉ、じゃあお前は戦場においてこの程度の距離もまともに走れないやつが生き残ると思ってんのか?」


 「そ、それは…しかし、高校入学したてでは難しいのではないでしょうか?」


 すると先生はやれやれといった仕草を取り、ため息をついた。


 「いま、おれが走れといった時間は全国の高校生の平均だ。実際に一般の中学から来たやつらだってほとんどが間に合っている。逆にこの時間内で走れないやつを脳力者として訓練することの方がおかしくねぇか?」


 「けれどこんな見世物のようなペナルティはおかしいですよ。見てるボクらだって心苦しいです」


 剣持だけではなく、周りの人達も先生に非難するような目を向けている。しかし、禿田先生は何がおかしいのか急に笑い出した。


 「ぶはっ、見てるボクらねぇ。何か勘違いしてねぇか?ペナルティはまだあるぞ」


 「「えっ…」」


 「これから全員が60秒切れるまで、さっき自分が走った時間よりタイムが遅れたやつらはもう一周走れ。安心しろ、さっきのタイムはこちらで計測してある。あそこの掲示板に表示されるからちゃんと確認しろよ」


 言われた通り電光掲示板をみると、それぞれのタイムが速い順に表示されてる。一位は剣持で37秒、二位は風間アリサという女の子で38秒、それ以降は大きく離れほとんどの人が50秒台だ。トップの二人は先生の煽りに釣られたんだな。ちなみに陽は60秒ジャスト、つまり時間内に走ればペナルティはないということだ。


 剣持らはまだ抗議をしていたが、先生はこれ以上取り合うつもりはないようで電子板に触れだした。まぁ陽にとってはそこまで苦ではないし、正直どうでもいい。もっと理不尽なペナルティありの訓練を行った経験もある。ただ隣の女の子は見てて気の毒だとは思う陽であった。


 陽が走る準備をしていると先生の声がかすかに聞こえた。

 

 「今年も始まるぜぇ、地獄のシャトランがよ…」

円「お兄友達出来た?」

陽「いや…」

円「そっか…」

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