甘美な嘘
大都会の真ん中にたたずんで、花はどう咲くのでしょうか。
行きかう人の群れに踏まれながらどう咲くのでしょうか。
無邪気に摘まれ、それでも種を残し、もう一度咲く花は何を思うでしょうか。
自分とは、何なのでしょうか。
小さい頃私は嘘をついた。私にないモノを持っている人に嫉妬していた。
そのたびに母は泣き、父は激怒した。
無い、私には無い。ならば得ればいい。奪えばいい。
幼い欲望は浅い闇をはらんでいて少しずつ少しずつ私を蝕んでいく。
足りない、足りない。私には足りないものばかりだ。幼い欲望は何時しか私の全身を蝕んでいた。
「またね!」彩夏は笑顔で小さく手を振った。
「エミちゃん、また連絡する」30半ば、もしくは40辺りであろう男を見送る。
相手が見えなくなれば作った表情が一気に緩んで闇を孕む。
携帯を手に取り≪終わりました。≫と短くメッセージを送る。
≪今日は、○○で≫返信はすぐやってきた。
「えーっと…」少し考えながら歩きだす。
その足取りは決して軽いものではない。
何度ももうやめたいと思いながらも辞められずにいる。一人が耐えられないから。
指を折りながら今日あった人を数える。
街頭から少し離れた場所。外はもう夜の色に変わっている。
行きかう人の波から離れた場所でたばこをふかしながら明日のことを漠然と考えていた。
「エミちゃんおまたせ」
小走りでやってきたのは、10人に聞けば10人ともやばい人と答えるであろうそんな風貌の男。私は好きではない。
「お疲れ様です」そうやって笑顔で答えて私は封筒を渡した。
…当時、20歳。派遣型風俗嬢。それが私。
普段使う名前は彩夏
風俗の源氏名はエミ
キャバクラの源氏名は美桜
パパ活はさくら
自分の本当の名前なんてしばらく使ってもなければうっかり忘れてることすらある。




