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異世界日本記  作者: はくあんせいぼ
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最長老と次世代の王 2

最長老様視点の話、2話目です。

どうにか次から本編いけそうです。

 我はライアンを伴って集落で一番大きい部族長の家を出た。

 日本には無い森の澄んだ空気が実に心地良い。

 綾女に任せておけば伊織の事は大丈夫であろう。だが、心配にならないと言えばそれは嘘になるだろう。


 村の集落に出れば多くの民が我が出て来るのを待っていた様じゃ。

 他種族を受け入れない閉鎖的な集落ではあるが、我を生み育ててくれた母なる大地じゃ。

 たまたま正装を着ていて良かった。

 目の前で跪いている御婦人方は皆赤子を抱えておる。どうやら、我の到着を知った民達が我先にと参っている様じゃ。この様子では、子供たちの将来を占って欲しいと言ったところであろう。我は水晶を子供たちに当ててどの職業が適しているか教えて回ったが、大事な事は伏せているままだ。


 15年後、母なる大地から精霊達は去って行き、空からの光がこの大地を粉々に砕く未来。

 この預言を話しているのはここの面々では唯一ライアンのみじゃ。

 15年後となるとこの子達は一般的なエルフだと普通の人間で言う7歳から8歳位に相当する。当然、個人単位で未来は見えるが、正直、どれも見たいとは思わぬ。エルフは性別問わず皆見目麗しい者ばかりじゃ。それ故にこの預言を回避出来なければどれも見る事自体が憚られる内容でしかない。人族の貴族の妾ならばまだマシだと思う程度に。祝福は与えた。じゃが、この子達の未来はここに居る親たちが新世代の王を受け入れなければ預言の通りとなるものじゃ。今のところ、これと言った力を指し示した子供はいない。何故、未来を教えず適正な職業のみ伝えているのか不審がってる親たちもいたが、流浪の民になるかもしれないのに安易な事を伝える事が出来なかった。


 辟易しながらも、子供たちに祝福を与え終え、不味いMP ポーションを飲んで一息ついていたら


「最長老様、何故本当の事を言わないのですか?」


 側に控えているライアンがそう尋ねて来た。それもそうだ。彼奴にだけは預言を伝えているからの。


「我の口から子供たちが皆不幸になるなどと口が裂けても言えぬ。この先、純潔種と言われるハイエルフは徐々にその数を減らしながら地球の民になる定めじゃ。命がありさえすれば良い。誇りが矜持がと言った所でそれは何一つ役には立たん。種として成り立たなくなったとしても他種族と地球人と手を取り合って生きていくのじゃ。種としての命運だけで言うなら35年前の天変地異を阻止出来なかった時点で既に尽きておったのよ。我の一族総出で事に当たっても生き残ったのは我だけじゃ。他のハイエルフ達も生き残れなかった。空を飛べる種族、そうでない種族、魔族の連中も魔王を先頭に大軍を率いて最善を尽くしたのじゃが強大な魔力を誇る魔王でさえ生き残れなかった。」

「…」


 ライアンは黙って聞く事にした様じゃ。


「一族で生き残ったのは我と数多の成人前の子供たち、戦う事が出来なかった負傷兵ぐらいじゃ。種として維持するには数が減り過ぎたのじゃ。近親婚も考えたがあれはダメじゃ。血が濃すぎると奇形が産まれると日本にある資料にそう書かれてあっての。ハイエルフの王としては非常に残念だが我が最後の王となろう。そして今度産まれる次世代の王もまた然り。エルフの王として産まれはするが君臨すらしないであろうな。何故なら、王は民に手を差し伸べるが、民はその手を振り払って地獄の道を選んでしまうのだから。」

「何とかならないのでしょうか?」

「産まれる側から殺そうとする者を何故我が庇わねばならぬ?その様な必要はない。自分の価値観だけでしか物事を見ないのであれば神も精霊達も見放すだけの事じゃ。自分達の過ちが取り返しのつかないものだとしても後は自分達でどうにかせねばの。命だけは助けるが、誰にとっても苛烈なものに変わりはないのじゃ。」


 ライアンも難しい顔をしておる。

 エルフ族だけなら全世界にごまんといるからその者達と合流するのも一つの手じゃが、多民族の血を受け入れる事を基本良しとはしていない我等ハイエルフ。当然だが歩み寄るという事も考えつきにくい。

 現在、点在しているエルフの集落に保護を求めたがいずれも


「あの様な高慢な方々の受け入れは幾ら最長老様の頼みと言えども出来かねます。」


 と断られておる。我等エルフの事を理解して下さっている最長老様は幾らでも滞在して下さいとも言われたが。

 今日面会する英国魔術協会の面々にも国王陛下への親書をお願いしてその返答待ちというタイミングじゃった。それだけにどんな返答じゃったか気になって仕方がない。難しい顔をして考え事をしてたからか。日本から来た供の者が抹茶を点ててくれた様じゃ。我は作法に気をつけながら口をつけて飲み干した。


「ありがとう。非常に美味しい茶であった。」


 我は茶器を供の者に返した。

 椅子から立ち上がり、結界を起動して綻びを丁寧に見て回る。魔物が突き破ったと見られる箇所や恐らくは希少種である我等を攫って売ろうとした者が結界を破壊しようと画策したのであろう。結界が無ければ空から攫おうという不逞な輩は後を絶たぬ。我は散々保護して来たのだが、いつ限界が来てもおかしくはない。


 不意に、目の前が真っ暗になった。今日はちと働き過ぎの様じゃ。

 我はライアンに心配をかけてしもうた様じゃ。


「術式の途中じゃが、今日は疲れた。我は…」


 と言った所で突如、頭の中に赤子の鳴き声が響いた!我は咄嗟に


「ライアンに命じる!今すぐに伊織の所に行くが良い!我もすぐ後を追う。赤子の命が最優先じゃ。」

「はっ、王命賜ります!」


 そう言って送り出しては見たものの、どうにも眠くて敵わん。さては精霊王が我の魔力で不埒者相手に色々やらかしている様じゃ。我はその場で眠る様に倒れた。ライアンよ、間に合ってくれ。




 我が目を覚ましたのは倒れてから2日目の夜じゃった。側には綾女と伊織が控えていた。

 綾女の腕には黒い髪がちょろっと生えた赤子が抱きかかえられていた。我は心底安堵した。

 我は起きようとしてふと背中を支えられた。なんじゃ。死角にライアンもいたのか。口にしたつもりは無かったが、どうやら悪態をついていた様じゃ。


「魔力が枯渇しただけじゃ。そんなに大袈裟にせずとも良い。」

「旦那様、お言葉ですが、魔力が枯渇したせいで天変地異の時、炎の中に落ちたのでしょう?今回たまたま倒れた場所が集会場だったから良かった様なものの、もう少しご自分を大事にして下さいませんと私が困ります。」

「…本当にすまん。して、その子は?」

「はい、2日前に伊織が産んだ女の子でございます。」

「ほぉ。抱いても良いかの?」

「どうぞ。父上が良ければ名前も頂戴しとうございます。」


 伊織も首を縦に振った。我は赤子を抱き留めると呼んでもないのに妖精王が出てきた。これには流石の我も驚きを隠せない。


「エロ爺い、呼んでもいないのに何用で参った?」


 周囲は?状態なので仕方なく妖精王に魔力をおすそ分けしてやった。妖精王が顕現したが、何やら絶賛暴走中だ。


「いやぁ、今まで色んな王様に仕えて来たけどさぁ、今までにない美味しい魔力なんだよ!ここの者達もそこそこの味だったんだけどさ、この子は15年で大人になるからさぁ。大人になったら…ぐひょ、ぐひょひょひょ…」


 魔力与えておいてなんだけど、これって孫娘に堂々と手を出します宣言だよなぁ。だとしたら看過出来ないのぉ。お灸を据えねばなるまいて。

 ああ、言わんこっちゃない。綾女から殺気がダダ漏れ状態じゃ。幾ら空気を読まない馬鹿でも流石に氷の様な殺気が分かった様じゃ。


「まぁまぁ、儂の話も聞いて。この子はエルフ族で最も強い子になるよ!だってさ、産まれてまだ2日しか経ってないけど彼女には既に8つの精霊が付き従ってる。しかも、気まぐれな妖精達が魔力欲しさに自主的に守ってるからさ。儂が手を出すまでもなく不埒者は精霊達が殺してしもうたわい。」

「え?8精霊が手を下した?じゃあ、お前は一体我の魔力を酷使して何を成そうとしたのじゃ?」

「それは、この子が泣き止まないと暴走した精霊達が魔法を止めてくれないから部屋が壊されたり火事にならない様に結界張ってたんだってば!」

「それは誠か?」


 見ればライアンは隅っこで呪文の様に「黒髪の子供なんて。黒髪の子供なんて。」ってぶつくさ言っていて完全に正気を失っている様だ。


「無理もありません。父上。ライアン様はこの子に殺されかけたのですから。ライアン様のお考えでは不埒者を捕らえて黒幕を捕まえるつもりでしたのに、精霊達が不埒者を保護しようとしてると勘違いを。その為、ライアン様も攻撃対象になっておりまして。埒があかないので母上がこの子をあやして落ち着かせてくれたのでライアン様に怪我はありませんが、流石にみんなこの子の力に恐怖心を抱いておりまして。父上、どう致しましょうか?」


 我は懐にある水晶を翳して目に印が無いか確認して驚いた。目は王の色とされる黄金の瞳で、瞳の奥にエルフ族の神の印がはっきり見えた。間違いない。次世代の王はこの子だ。我は祝福を与えながら自信を持って宣言した。


「この子はエルフの神の祝福受けし王の子である。黄金の瞳の奥に印がある。我としては神に殉じて欲しい所ではあるが、この子の潤沢な魔力が余程魅力的なのだろうな。妖精達がそれを許してはくれないであろう。また、風の様な神速の剣を使う未来も見えた。この子が守るのはこんなちっぽけな集落なのではない。新しい母なる大地地球という星そのものじゃ。孤高の王となる定めではあるが、同族以外の者には終生の友もできる様じゃ。この子には美しい故郷と言う意味でミサトと名付けよう。後、同族より早く成人するならここで暮らすよりかは成長の速度が一緒の日本で育てるが良かろう。」

「承知致しました。旦那様。もちろん、伊織も連れ帰るのですよね?」

「当たり前であろう。あの様に怯えてしまっては父親の助けなどとてもじゃないが望めまいて。」


 憐れだとは思ったが、我が母なる大地の命運が確定した瞬間を見た気がしたのじゃ。その後、ライアンの希望で娘夫婦の離婚と相成り、我の家族は暫し日本で生活する事になった。

 ミサトには色々教えた。我は妖精魔法を。綾女は抜刀術を。伊織は神聖魔法と剣道を。日本で暮らすが故に妖精達は森が余り無くて窮屈な思いをしただろうが、大きくなるにつれ綾女を幼くした様な美しい少女に成長した。所謂隔世遺伝というやつらしい。ミサトと過ごした時間はかけがえのない宝物の様な時間ではあったが、15年が過ぎ、遂に旅立ちの時を迎えてしまった様じゃ。

 我はミサトと共に母なる大地に旅立った。勿論、生まれ故郷を死守する為にじゃ。

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