最長老と次世代の王 1
今回は天変地異の際に生き残ったハイエルフの最長老様の視点の話になります。
日本オタクで暴走気味なの描けてるかどうか。
最長老様の名前が出ないのは名前で呼ぶと不敬に当たるからです。その辺は某皇族と扱いが一緒です。
少し遡る。
我々の世界と地球世界が融合してから35年が経過した。
此処に元々あった大陸は我々が島々を空に引き揚げたせいで大津波に呑まれ嘗ての文明は今や海底の中にその姿を残すのみだ。
元々は我々の世界の人族共が覇権争いの為に地球人を呼びまくったせいで次元同士が衝突したのだ。
一歩間違えれば大量の浮遊大陸群がこの星自体を粉々にする所だったのだ。
大陸には多くの民達が暮らしていたのだと聞いた。救えるものなら救いたかった。
だが、神々の力と妖精王達の力。仲間達の力を結集しても日本といくつかの島々を引き上げ、我々の住む浮遊大陸群の衝突回避するのが精一杯だった。幸いなのは地球人達が我々を許し、手を取ってくれた事だろう。
今のこの世界は大量の浮遊大陸群の島々で細々と生活を営んでいた。
我々が持ち込んだ魔法とこちらに元々あった科学。その力で少しずつだがこの日本という国も復興している。
我はこの日本から最も遠いエルフの隠れ里の出身のハイエルフで年齢も460歳。それ故に仲間達からは最長老様と呼ばれておる。自分で様をつけるとはいささか可笑しくもあるが、要はエルフの中で一番の爺いという事に過ぎぬ。だが、我が住んでいるのはエルフの隠れ里ではなく最愛の妻の出身地である日本に住んでおる。
いやはや、日本という国はかくも魅力的であろうか。
薄っぺらい額縁で見る時代劇というものは実に面白い。
絵が動くというのにも驚いたが、話が実に痛快でワクワクするものがある。
特にお気に入りなのは某将軍が悪者をばっさばっさと退治する話じゃ。
夢中になると気がつけば夜になっているがの。
そうそう。ゲームとやらにも挑戦してみたぞ。
あれもムキになるとついつい時間を忘れてしまうのう。
特に面白いのはイカやらタコとかになって色を塗りまくるゲームじゃ。あれは実に良い。
上手くいかぬと頭に来ることがあるが、ズルとかの類は無いからの。
そうそう。我の家族の事も少し話さねばならぬの。
今一緒に日本に住んでいるのは妻の綾女のみじゃ。
エルフ族の大使公邸に住んでいるから何名かの身の回りを世話する者達もいるがの。
綾女と知り合ったのは天変地異が起こっている最中じゃ。
我は子供達や孫達と一緒にいくつかの島々を引き上げ、日本を引き上げた所で魔力が尽きて大火のど真ん中で墜落してしまったのじゃ。子供達も孫達も魔力が尽き次々海に沈んで逝ったからの。これも天命と思って死を覚悟しておったのよ。じゃが、何やら銀色ぽい服を着た者達に引っ張られてのう。何が起こっていたのか記憶は曖昧じゃ。気がつけば我は戦場と化した廊下に寝かされておったわい。病院と言う場所での。見れば重度の火傷を両腕と上半身。顔の一部とかも焼けて実に痛かったのだが、我は痛い痛いと泣き叫ぶ負傷した子供達を見て見ぬ振りは出来ぬと思い魔法で治療を手伝ったのじゃ。その時大事そうに刀を携えた女子に
「弟の命を救って下さりありがとうございました。」
とお礼を言われてしもうての。泣き腫らした目が実に美しくその姿に我は惚けてしもうたんじゃ。
傷物の爺いなのに綾女は色々気にかけてくれてのう。綾女の弟殿が無事巣立ったのを機会に再婚したと言う訳じゃ。子供も一人生まれた。女の子じゃ。我に瓜二つでのう。目に入れても痛くない程に可愛かった。里にいれば幾ら我が妻でも差別は免れん。じゃから日本で子供を育てていたんじゃが、年頃になると我の娘という事でエルフの隠れ里で留守を任せている部下が是非にと言うので嫁に行かせたんじゃ。
娘夫婦も実に仲睦まじいと風の噂で聞いている。
しかも直ぐに子供に恵まれたと聞く。どちらが生まれて来るのであろう。男の子でも女の子でも楽しみじゃわい。
「旦那様。お客様がお見えですよ。」
「あい分かった。応接間に案内を頼む。」
「かしこまりました。」
綾女が部屋から退出したのを機にいそいそと被り物の準備じゃ。
最近のお気に入りはつるっ禿げに上に1本だけ髪が付いている。所謂ズラと言う奴じゃな。
ぐるぐるメガネと今日の主役のタスキも欠かせない。
この間、たまたまこの姿のままお客様と面会した事がある。あれは実に愉快じゃった。
相手は日本の高官の様子じゃったが、全身を震わせながら笑いを堪えている姿に我も笑いが止まらんかったわい。まぁ、普通なら失礼に当たるが、たまたまジョークの分かる男で助かったわい。
あれまぁ、部下共はこの姿を見てエルフ族の威厳がとか抜かしおるわ。
我に言わせると威厳なんかの前に他の種族に対する差別意識の方をどうにかして欲しいもんじゃ。
見咎めようにも我には逆らえぬからな。止められるもんなら…
次の瞬間、頭上に激痛が走った。
「旦那様。御付きの者たちが困るのでお戯れは程々になさいませ!」
ぐるぐるメガネを外してみれば椿をあしらった美しい留袖を着た綾女が木刀片手に控えておった。
「わ、分かっておるわ。ヒールっ!」
つるっ禿げの下に盛大なタンコブを作っていたので自分の頭上に魔法を唱えた。困った顔をしている綾女も可愛いのぉ。彼女はコロコロと表情を変える。それが見たいが為に悪ふざけをしている節がある。ふと、人気に問うてみる。
「誰じゃ。」
「はい。伊織様の使いです。産気付いたとの事でございます。」
「あい分かった。御来客はどなたか聞いておるか?」
「はい。英国魔術協会の方です。」
「そうか。我々が来てから地球人にも魔法を使える者が増えてきたのであったな。申し訳ないが、伊織の頼みを無碍には出来ぬ。後日日を改めて頂くよう頼んでは貰えまいか?日程調整は任せる。」
「かしこまりました!」
執事が慌てて応接間に向かって行った。さて、気が乗らんが転移魔法を使うとしよう。
転移魔法は距離によって消費MP が違う。なので、我の故郷に帰るとなると自分の魔力ほぼ8割を消費する羽目になるので余程でなければあんな閉鎖的な場所に帰ろうとは思わぬ。前回は伊織の婚儀の宴だった。魔力回復の為、日帰りで帰る様にはまずならないので部下が泊まりの用意をしてくれた様だ。
我は綾女と数人の部下を連れて転移魔法を唱えた。視界がグニャリと曲がって次の瞬間、見慣れた部屋に着いた様だ。いつもなら無人の我の家。どうやら定期的に手入れをしてくれていた様だ。実にいい。
バタバタと忙しなく走る足音が聞こえて切迫詰まった様なノックが
ドンドン!
と聞こえた。恐らく伊織の旦那だろう。いつも冷静な男が随分とらしくない事をするもんじゃ。
「入るが良い!」
「失礼致します…」
年を取っても老けないからか、入ってきたのは見目麗しい切れ長の目をしたエルフだ。伊織の旦那で名は確かライアンじゃったかのう。
「息災であったか?」
「はい、お陰様で。一族皆最長老様のお帰りをお待ち申しあげておりました。」
「うむ。先ずは伊織の回復手段をどうにかせねばなるまい。我が一族の出産はその細身ゆえに難産になる事が多々あるからのぉ。」
我は9つの宝石が嵌め込まれた杖を持ち魔力を込めた。精霊達を呼び寄せるのだ。
「我が願いに応え現れるが良い!水の精霊、風の精霊。そして精霊の王よ!」
我の魔力を媒介に3柱の精霊達が顕現した。我は彼らに指示を出す。幾ら魔力が枯渇しそうでもこの程度ならどうにかなるのじゃ。
「精霊達に命じる!水の精霊はヒールウォーターを。風の精霊はヒールを継続的に唱えて伊織を楽にしてやってくれ!」
「「分かった!」」
そう言って2柱の精霊達は伊織の元へと飛び去った。続いて、セクハラじじい(と書いて精霊王)にも指示を出さねばなるまいて。
「精霊王は主に綾女の護衛を頼む。くれぐれも伊織にはちょっかいかけるなよ?但し、綾女を侮辱する様な不埒者は好きにして構わぬ。」
「フォッフォッフォッ。承知した。」
「綾女、悪いが伊織の事を頼む。この様な事、我らには門外漢故にな。」
「分かりました。旦那様。ですが、幾らなんでもやりすぎではないですか?」
「何を言う。前回帰省した時にもそなたを暗殺しようと不埒者が命を狙っていたではないか!そなたが居合抜き免許皆伝の腕前であったが故に我が出る前に事無きを得たに過ぎぬ!もしもそなたに万が一の事が起きれば我は我慢がならん!我が悪く言われるのは大目に見よう。じゃが、日本人が咎人である我らを暖かく受け入れてくれたのじゃ。ならば、我々も新しい風をいい加減受け入れるべきではないかと思っておるのじゃ。」
「ですが、旦那様。日本人も良い人ばかりでは無いのですよ?」
「…それは勿論承知している。何、そなたが伊織の元に行ってしまえば我も手元無沙汰になるじゃろうて。ライアンもいる事じゃし、結界に綻びが無いか見て回るとしよう。ライアンもそれで良いかの?」
「承知致しました。」
ライアンは頭を下げてくれた。
「では、行って参ります。」
「ああ、くれぐれも気をつけるのじゃぞ。」
「ふふっ。かしこまりました。」
綾女は心なしか嬉しそうにセクハラじじいを伴って伊織の部屋へと向かって行った。
そんな爺さんを護衛なんぞにして大丈夫かと思うだろうが、綾女には魔力自体が無く食指が伸びない事は既に確認済みで、伊織に至っては妖精魔法よりも神聖魔法に素養があったものだからエルフの神に帰依し僧侶になったぐらいだ。何故名前が伊織かって?ふっ。決まっているだろう。某ドラマの崇高な医者から名前を頂いたのだよ。
本当なら1話で終わらせて本編行くつもりだったんですが、終わりませんでした。
次で本編行く段取りになると良いなぁ。うん。