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チート転生はできましたか?

 輪廻転生――


 死んであの世に還った霊魂がこの世に何度も生まれ変わるという仏教の教えだ。小説や漫画のネタとしても取り上げられることからメジャー的な考え方である。死んでも新たに人生を歩むことが出来る希望的観点から宗教に興味がない人物でも簡単に受け入れられた。実際に信じている者は少ないだろう。現に俺、月端九郎もその一人だ。寧ろ転生チートを題材とした小説を愛読していたことから一般人より希望的かつ楽観的な考えの持ち主である。だからこそ過去の自分を叱りたい。


「俺はどうして人間に転生できると信じていたんだ⁉」


 頭を抱えて両膝を地面につき叫ぶ。生前は人間の転生は人間になるものだと勝手に信じ込んでいたが、何も生物は人間だけに限らない。それを証明するように俺の五つ前の霊魂はフジツボに転生を決定された。決定が下った時の霊魂の叫び声は断末魔にしか聞こえなかった。既に死んでいるから断末魔というのもおかしな話だが。


 刻々と輪廻転生の審判が迫る。出番が訪れるまでの間に歓喜と悲哀の声が霊魂に響く。どう足掻いても対処方法がなく、この時ほど肉体を恋しく思ったことはない。


 心臓があるはずもないのに緊張のあまり激しく鼓動を打つ。答えを知るのが怖くて立ち止まりたいのに呼び声が届けば抗えず進んでしまう。そしてとうとう自分の出番に回ってきた。


「はじめまして、輪廻転生を司る死神です」


 黒装束の女の子が頭を下げて出迎えた。容姿だけなら年端も行かぬ少女だ。それだけに背に担がれた巨大な鎌が異質な雰囲気を漂わせている。


月端九郎(つきばたくろう)さん、故二十歳。死亡理由は強盗犯から妹を庇った末に刺殺。ううう、酷い死に方です……」


 両目に涙を浮かべながら悲しむ死神少女の姿と態度に希望の光を見た。同情を引くことで有利に力が働くかもしれない。そんな期待を霊魂に宿したのと同時に泡沫のように消えた。


「ですが、同情はしても温情を掛けるつもりはありません。そもそも私が転生先や種族を選べるわけではありませんので」


「え? そうなの?」


「はい。死神の役目は斡旋。生命体に空きのある世界と種族を提示するだけですから」


 自分の立場を説明した死神少女は一枚の紙を机の上に置いた。どこにでもある白い紙だ。そしてそこに書かれているのは生前で誰しもが一度はお目にかかる複数の線。それが縦や横や斜めと線同士を結んでいてそれぞれ終点が用意されている。


「これってあみだくじですよね?」


「はい。あみだくじです」


「え? 俺の転生先ってあみだくじで決まるんですか?」


「決まります。それに転生先だけではありません。貴方がどのような才能を持ち、何に生まれ変わるのか。それら全てをこのあみだくじで決めます」


 衝撃の方法に愕然とする。あまりにも運試しの感覚が強い。そして前世で運試しが上手くいったことがないのだ。初詣でおみくじを引けば常に大凶。家族はある意味、運が強いと逆転発想をしていたが、引いた当人は想像以上にダメージを負っている。


「後も押していますのでさくっと決めてください」


「軽いな! 俺の人生がこれで決まるんだぞ⁉」


「どれだけ悩んでも結局は運ですので。考えるだけ無意味です」


 感情の起伏がない口調に死神ならではの冷酷さを感じさせる。だが彼女の言葉に反論する余地はない。仮にあみだくじに細工がされていたとしても俺がそれを知るすべはない。霊魂に還った時点で全ては死神少女の掌で踊らされる存在でしかない。そう考えると理不尽なこの状況にも合点がいき、冷静に受け入れることができた。


 四本並ぶ線の右端を選ぶ。死神少女は軽快なリズムを刻みながら線を指でなぞっていく。着実に終点へと進んでいく指が左端の線の終点が止まった。どれどれ、と若干口調を弾ませながら折っていた紙端を開けた。


「転生先は幻想世界“パンタシア”です」


 名前から察するにファンタジー系統の世界と考えて問題ないだろう。だがそうなってくると与えられる才能が重要になってくる。そうなるとどうしてもチート能力を夢見てしまうのは致し方ないと思う。


「では次に才能を決めます。先程と同様に一本の線をお選びください」


 死神少女が新たに出された紙には計二十本の線が並んでいた。このことから才能が幅広いものではなく、何かひとつに特化したものだと判断できる。普段なら悩む場面だが、既に運任せだと吹っ切れている俺は迷うことなく直感で一本の線を選んだ。そしてまたしても軽快なリズムを今度は鼻歌で弾ませる。


「おっ!」


 折られた紙端を開けた死神少女が驚きの声をあげた。


「おめでとうございます! 付与される能力は無限魔力。とてもレアでチートな能力ですよ!」


「よ、よ、よっしゃあ―――――!」


 肉体があれば両腕を頭上に突き出す豪快なガッツポーズを決めていただろう。死神少女の太鼓判が押された才能なのだから本当に期待できる。それもおそらくファンタジー世界であるパンタシアでは最大限に活用できる才能だ。


「それではこれで最後になります」


 死神少女は種族を決定するあみだくじを机の上に出した。だが怖気つくことはない。ここまで最高の形で運が働いているのだから種族も大丈夫だろう。直感で一本の線を選び、死神少女の鼻歌を聴く。それに俺自身も乗っかる。共に鼻歌でリズムを刻みながら死神少女の指は終点に到着して折られた紙端を開いた。


「種族はフジツボです」


「…………はい?」


「ですから種族はフジツボです」


 改めて種族の名前を口にした死神少女は証明するようにあみだくじの結果を見せてつけてきた。そこにはフジツボの四文字が達筆に書かれている。何かの間違いだと何度も何度も見返す。しかし結果は変わらない。


「月端九郎さんの転生は無限魔力の才能を持ったフジツボの姿で幻想世界パンタシアに決定です。おめでとうございます!」


 無事に転生条件が決定したことに死神少女は拍手を送る。対して俺は本日二度目になる絶叫をあげるのだった。


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