007 僕の思い
昨日、医療売店横のコンビニで購入した本。
「懸賞付きクロスワードパズル」を前に、僕はイラついていました。
クロスワードが難しいのではありません。
勿論、懸賞の品物に不服がある訳でもないのです。
ただ、昨日の晩から集中力を欠いているだけなのです。
集中しようとすればする程…、昨日の記憶が甦るのです……。
・・・『全部、ママに任せて』・・・
昨日、自宅に電話した時の母親の嬉しそうに弾んだ声が…、
耳から離れませんでした……。
遣る瀬無い程…、もう、本当に止め処なく…、
不安な気持ちは募るばかりなのです……。
『母よ…貴女は何をするつもりなのですか?』
窓ガラスに映る僕の表情は、虚ろな感じで、
朝日の差し込む窓辺、祈る事しかできない自分に歯痒さを覚えます。
又もや僕は、自分の迂闊な発言に後悔していました。
眠れぬ夜を過ごし…、何度も、何度も繰り返し…、
母親との電話での会話を思い出していたりします……。
・・・『隣の病室の女の子に御詫びがしたくて…』・・・
僕は昨日…、電話で正直に、
相手が「女の子」だと母親に伝えてしまっていたのです。
その時点で…、
女の子が欲しかった母のテンションは上がっていた事でしょう……。
・・・『中学生か、高校生くらいだと思う』・・・
母親に相手の年齢を聞かれ…、
僕は正直過ぎる答えを返してしまっていました……。
僕に何の意図が無くとも…、母はきっと、こう推測した筈だ!
相手は「顔立ち的に平均以上」で、
僕好みの「可愛い系の女の子」であるだろう…と……。
僕の趣味嗜好は100%母親にバレていたりするのです。
ここで余談だが…、僕は過去の小さな失敗で、
取り返しがつかない程、日常生活を母親に浸食されていたりします……。
どんなのがあるかと言うと…、僕が彼女持ちだった頃…、
その彼女とペアで購入した「動物のヌイグルミ」の変化が、
一目瞭然だと言えるサンプルとなるだろう……。
ある日、学校から家に帰ると…、
ヌイグルミが首に巻いていた「ネクタイ」が取り外され、
可愛いリボンをリボン結びにしている仕様に変更されていたのだ。
紛れもなく…母の仕業に違いない!そんな事が日常だった為、
僕はその事を忘れ…、彼女を部屋に読んだ後、
僕は彼女と微妙な空気になり、御別れする次第となったのだ……。
他にも色々ある。
見られたくない物を出しっぱなしにして出掛けてしまった筈なのに、
何事も無かったように隠し場所に戻されていたり…、
親に内緒で購入した本等を入れた隠し本棚が綺麗に整頓されてたり……。
話を持ちかけると『知らない』と、返されるが…、
どう考えても母親以外に、片付けた犯人が存在する筈がない……。
しかも、母は時に、確信犯的犯行をもする…、
立派な「男子高校生」である僕への「今年の誕生日プレゼント」に…、
「皇帝ペンギンの等身大ヌイグルミ」を選び…、学校から帰るなり、
玄関先で『お誕生日おめでとう』と叫びながら御出迎え…、
なぁ~んて事をしてくれたり……。
ある日、家に帰ると…、PCに繋がっていた「普通のマウス」が、
「赤い金魚の型」の物に変更され、
「マウスパッド」までもが「魚鉢の形」になっていたり……。
部屋に敷いていた「シックな色の絨毯」が、
「ファンシーな物」に張り替えられていたり…と、
魂が抜けるような脱力感を幾度も繰り返し、母から与えられている……。
その母からの攻撃の末、女の子みたいな可愛い部屋が嫌で、
祖父母に泣き付き作り上げた「大人のカタログ仕様」だった僕の部屋は、
祖父母の死後…母親の侵略を阻止する免罪符を無くし…、
もう二度と、御客様を御通しする訳にはいかない…、
母好みの「ファンタジーな御部屋」へと変貌してしまっていた……。
もう、こうなってくると…、
僕的に、母が僕にとって最悪な事をしでかしてくれる自信がある……。
今回も、絶対に何かしらヤラカシテくれるに違いない。
想像するだけで、絶望感が僕の上に重く重ぉ~く圧し掛かる。
そう、面会開始時間は13時からだが…、
それまでに、僕はストレスで倒れるかもしれない……。
そんな気さえしてきた。
『もし、神様が存在するのならば…、
昨日の様に、面会時間前に、大雨を降らしてください!
そして、母よ!洗濯物を取り込む為に家に戻り、病院に来るな!』
僕は苦し紛れに天に祈っていた…祈る事しかできなかった……。
自由で、気紛れで…、
突拍子もない事をしでかす母親の暴挙を止める事が出来るのは、
今では「悪天候」、つまり「雨が降る」と言う事だけだと思う。
雨が降ると…、僕の母親は、家を一歩も出ないのだ。雨に濡れて…、
干しても乾かない洗濯物を増やす事を極端に嫌うタイプなのだ……。
『雨が降って…、父さんが、来てくれますように…』
僕は「類は友を呼ぶ」と言う言葉がある事を忘れ、祈り続けた。
そして…、祈りは届かなかったのか?
届いたけど…無視されたのか?
もしくは、神様って「天の邪鬼」だったのか?ってよりも、
そうだ!寧ろ、歴史上、神様のが生贄を所望してる方が多い。
神様に気に入られると、天に召されると言う言葉通り早死にするから、
そう言う物だったのかもしれない。
勿論、この日の午後…、
昨日の様に、面会時間に雨が降るなんて事は無かった……。
僕の病室には、幸せそうな両親が揃って現れ…
僕の心を深淵へと突き落としてくれている……。
父と母は、類友だった御様子なのです。
そう言えば、思い返せば…、祖父母の意見より、
父は母の意見に賛成する事が多かったかもしれない……。
だからホント、スゴク…ステキナモノヲ…ジュンビシテクダスッタ……。
「ウエディング仕様に着飾った大きい熊のヌイグルミセット」と、
「2段の華美なケーキ」を両親がプレゼント用に持参したのだ。
僕が、その場を走って逃げだしたくなったのは言うまでも無い。
唯一の救いは…、御詫びをする相手だった彼女が治療の為、
面会時間内に病室に戻る事が無かった……。と、言う事だけであろう。
そして後になって、
僕だけ『病室への御見舞いは、第三親等までだけ』と、
看護師さんに叱られた事をブログにでも書いて残そうと思っています。