005 僕の思い
僕は…軽率過ぎる、自分の行動や言動に溜息を吐いた……。
病院内のコンビニにて、
暇潰し用の「懸賞付きクロスワード雑誌」をゲットした帰り道。
廊下で扉の下から流れ出た「水溜り」を見付け、
僕は自分の病室を通り越し、
興味本位で、その病室の扉の「覗き窓」から中を見たのだ。
中では…、
病棟を出る時に見掛けた「友達と笑顔で話していた女の子」が、
先程とは一変した暗い表情で床に落ちた花を拾っていたのだ。
その時、僕は…、彼女が、
「花瓶を落として割ってしまった」くらいにしか思っていなかったのだ。
だから、僕は…、
女の子に「恩を売る為」、女の子に「良い人に見られる為」に、
看護師さんに「雑巾」を借りに行ってから、女の子の病室を訪れた……。
そこで僕は、大きな過ちを犯す。
・・・『何にも知らない癖に』・・・
一瞬しか見てない光景で、一部分しか理解できていない状況で、
僕は、相手を単純に「悪い奴」と判断していた……。
なんて愚かしいんだろう。
あの時、僕は「千羽」の中に隠されていたイジメの痕跡、
「悪意から生まれた、数羽の折り鶴」の存在を知らないで、
彼女を断罪してしまっていた。
今、現在…、その「たった数羽の悪意」が、
「贈られた相手の心」をどれ程までに傷付けているか?
僕には想像する事しかできない……。
少なくとも、贈られた相手にとって、
「千羽鶴」総てが「悪意に満ちている」様に感じられただろう。
その上…入院患者の様な、心の弱った状態で、それを受け取った時、
どれ程、深く心を傷付けられるかは…、
想像しなくても理解できるモノの様な気がした……。
それ以前に僕は…知っていた筈だった……。
「人の心」を「トラウマになる程までに傷付ける事」は…、
割合「簡単な事」だが……。
「傷付けた心」・「傷付けられた心」を「癒す事」は…、
「只管、難しい」のだ……。
僕は…最近、それを自分自身の身で実感していた筈なのに……。
『失敗したなぁ…』
無意識ではあったのだが、自分の病室に持ち帰ってきてしまった物、
「女の子に贈られた千羽鶴」を片手に僕は頭を抱えた。
目の当たりにしてしまった「千羽鶴」に混ぜられた「悪意」に、
僕は憤りを感じる。
・・・『酷い事するなぁ』・・・
・・・『要らなくても退院まで飾っときなよ』・・・
自分が、自分の思い込みで彼女に投つけてしまった言葉を後悔する。
この後悔を…さっきの事を…
忘れて無かった事にしてしまう事もできなくはないけれども……。
『折り鶴見掛ける度に罪悪感が甦るのは美味くないな…』
僕は、自分の為に、彼女へ謝罪しに行く事を選択した。
看護師から、
『他の患者さんの病室に入るのも、禁止事項にあるのよ』と、
厳しく言われたが、速攻、無視する予定を立て、財布の中を確認する。
『あ…やべぇ…これじゃ予算が足りないか……』
病院内の花屋の値段が安くないのは、暇潰しに何度か眺めて知っていた。
フラワーアレンジメント的なのしかない上、
マジでか!ってくらい高額だったので、記憶に残っている。
女の子の部屋にはもう、花瓶はないだろうし…、
一般病棟には花瓶のレンタルがないのは確認済み……。
僕の部屋では、母親が持ってきた花束が…、
僕の病室に飾ってあげたい!と言う母の我儘の末…、
更に母が、変な所で妥協した為…、
屎尿瓶と言うプラ製の物に活けられている。
知る人ぞ知るソレは、花瓶にニツカワシクナイ物だった。
コンビニと、医療売店は勿論、
何故か花屋にも花瓶は売っていないから、そうなったのだ。
余談だが…僕の母、花瓶を持って来るつもりも無い御様子だ。
いい加減で、気分屋…、本当に僕の母は適当な女な為…、
僕の手元に、花瓶が都合よく持ち込まれる可能性は無いので…、
自分の病室の花を持ち出す……。と、言う。姑息な真似すらできない。
オマケに…、
「病院ATM」&「コンビニATM」ですら、僕を見放していた……。
僕のメインバンクは地方銀行過ぎて…、
有料でも、病院内で現金を下ろす事が出来ない……。
防犯の為にしていた事が仇となっていた。
『しゃぁねぇ…救援を頼むか……』
僕はスマホの電池節約の為に、病室に備え付けの電話の受話器を取った。
そして、幼い頃から携帯に慣れ親しんでしまったが為に、
うろ覚え状態で自宅の電話番号をプッシュし応答を待つ。
何度かのコールの後、
普段より1トーン高い母親の声に耳を傾ける事になった。
僕はつい、何時もの様に『母さん、作り声がキモイよ』と本音を零し、
その後に自分の要件を簡単に伝え…、
楽しげに断られてしまうと言う過失を犯してしまう…、で…仕方なく…、
理由を伝えると……。母は何を勘違いしたのか?
『全部、ママに任せて』と気前の良い返事をして電話を切ってしまった。
僕は電話が切れた直後『理由、話さなきゃ良かった!』と後悔し、
何だか絶望の淵に立たされた気分でベットに寝転がる事となったのだ。