003 僕は独り
普段観る事も無い、昼間のTVに飽き…、
「点滴のチュウブが邪魔だな」と思いながら僕は、
携帯電話に手を伸ばした……。これは、個室を使っている特権だ!
病室の中でも、個室だけは携帯の利用がある程度は許されている。
って、事で…僕は携帯を…、
スマホを包帯の巻かれた動かしにくい手で持ち直し…、
面白そうな、遊べそうなアプリがないか?と物色した……。
暫くして、
点滴に繋がった輸液ポンプの黄緑色の点滅を横目に、溜息が零れ出す。
『つまんねぇ~』色々あってでの…1週間程度の入院3日目…、
僕は、本気で病院が嫌いになった……。
『看護婦さん…ナースキャップしてねぇ~し…、
それ以前に、TVとかみたくなナース服じゃねぇ~んだよなぁ……。』
心の底から湧きあがる無念さが、呟きとなって零れてしまう。
実質「看護師」が定着した「この御時世」。
昔、存在していたナースってヤツは…、
医院長の趣味嗜好が出せる「個人経営の小さな病院」と、
漫画・アニメ・ドラマ…後、
18禁の世界に生き残ってくれているくらいだったりする……。
もしかしたら…僕等の思い描くナースは、
その内…、「雇用の分野における男女の均等な機会、
及び待遇の確保等に関する法律」の煽りを受けて、
「絶滅危惧種になるかもしれない」と、僕は危惧していたりする。
取敢えず今日、何度目かの溜息を吐いた所で…、
携帯に乾電池使用の充電器を接続し、部屋を見回した……。
TVカードを使って…、
24時間150円で使える冷蔵庫の中には飲みかけのコーラがあった筈だが…、
今、飲みたい気分じゃない……。
平日の午後、おやつ時…TVの番組は面白くない……。
荷物を入れて置く為のロッカーの中には…、
着替えくらいしか入っていない……。
『携帯ゲーム機が使用禁止なのが痛いなぁ…』
僕の携帯ゲームは既に、
看護師達からの注意を幾度か受けて、没収されてしまった後だった。
「入院のご案内」に記載された諸規則、「電化製品持ち込み原則禁止」。
本当は入院患者の携帯も禁止らしいってヤツの為に、
持ち込んだ「ゲーム機&ノートパソコン」は、
着払いで自宅に送り返される運命を辿る事となっていた。
個室にコンセントは沢山あるが…、
患者が勝手に使用してはイケナイって事での処置らしい……。
まぁ…、最近の電化製品は、電気食うから乾電池じゃ長持ちしないし…、
内臓バッテリーも…、コンセントで充電できなきゃ意味を成さない……。
違反者続出での、この処置は仕方が無いのかもしれないが…、
『暇すぎて、脳が腐りだしそうだ…』
枕の下に携帯と充電器を隠し…僕は、財布片手に病室を出た……。
病院内には医療売店、コンビニと喫茶店、理容店くらいしかないが…、
病室に居るよりは暇がつぶせるのだ……。
病棟を出る時に声を掛けて行きさえすれば、
ある程度の時間、病院内での御出掛けが許されている。
僕は名前だけが残った「ナースステーション」に立ち寄り。
看護師のおねぇさんに声を掛け、病棟を後にした。
僕は誰かの御見舞に来たのであろう、学生さん達を横目に、
出入り口近くにあるエレベーターのボタンを押して来るのを暫し待つ。
「僕にも誰か見舞いに来てくれねぇかなぁ~」
不意に浮かんだ「顔」と「孤独」な感情に顔を顰め…頭を振る……。
「いやいや、来たら来たで…絶望の淵に突き落とされるだけだな」
思い浮かんでしまった入院する原因を作った「大切だった者達」、
それ等を頭の中から追い出し、
僕は到着したエレベーターに乗り込み1階のボタンを押した。
視界の端に…、病院が貸し出す「水色のパジャマ」を着た少女が、
病棟から出てくるのが見えた……。
閉まりゆく扉の向こうで、少女は嬉しそうに笑い友人等と騒いでいる。
「羨ましいな…」僕はエレベーターの壁に寄りかかり、
点滴スタンドに映る自分の姿を目にした。
そして、母親が持ってきた趣味の悪いパジャマ姿に絶望する。
『もう、ヤダ!これ!!早く家に帰りてぇ…』
僕は一人、人知れず涙が滲んだのだった。