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002 私は独り

雨の昼下がり…、彼女は顰めっ面で、

いつも通り、清潔に保たれた真白いベットの上に横になりました……。


彼女の居る、白い部屋の中に彩りを添えるのは、

母がゴリ押しし、許可された白い花瓶に活けられた「花」と、

点滴スタンドに飾られた「千羽鶴」…、

飾り気の無い真黒な「備え付けのカード式TV」に、

花モチーフの御見舞に渡されたTV用の「未使用のカード」…、

愛用のピンク色の「小さな携帯ラジオ」くらいなモノです……。

今、ラジオは…、

「個室である」と言う「特権」で、FM番組を流しっぱなしにしています。


彼女は深い溜息をつきました。

「家族控室」で「御見舞に来たクラスメイト」の相手をし、

見送り帰って来て、どっと疲れが出たのです。


担任教師が良い人振って連れて来たのは、

嘗ては友人だったかも知れない相手とかでも無く、

クラスの代表として連れて来られた顔見知り…、

下手すると、話した事あったっけかな?って相手です・

『見舞いって何の為にあるんだろう?』

彼女は小さく無意味に呟きました。


自分を見舞う人が必ず口にする言葉…、

『頑張ってね』・『早く元気になってね』・『心配してるんだよ』が、

今の自分を苦しめているのです……。

勿論、御見舞に来た人達に悪意はありません。


でも、『頑張ってね』って…何を頑張ればいいのでしょう?

自分は精いっぱい出来得る限り頑張っているつもりです……。

これ以上、見舞いに来る人達は…、

自分に、何をどう…『頑張れ』と言うのでしょうか?

それに…『早く元気になってね』って、

自分じゃどうする事も出来ない事を言われても困りますし…、

『心配してるんだよ』って…私は、どうすればいいのですか?

等と…色々、言いたい事を胸に秘め…、

御見舞に来てくれた人達に『ありがとう』を言って…皆が帰った後…、

いつも、いつまでも、

「憤り」と「遣る瀬無い思い」に泣きたくなるのです……。


不意に…、

『君がいないと寂しいよ』大好きだった人の言葉が脳裏を掠めます……。

健康な人達の中で笑顔で語る彼の言葉に、胸が痛くなりました。

「私の方が、もっと寂しいのにね…」目に涙が滲みます。

『ココに居たくてココに居る訳でも、

自分が選んだ事で、結果的にココに居る訳でもないのよ?

「私の所為」みたいに「私が悪い」みたいに言わないで!』


彼女が孤独感に襲われる中、俯き、翼を閉じ…、

自分を憐れんでいる様に見えるカラフルで色鮮やかな「折り鶴」が、

彼女を更に不快にさせました……。

彼女は花瓶に手を伸ばし、「千羽鶴」に思いっきり投げ付けます。

花瓶は「千羽鶴」と「点滴スタンド」に当り、勢い良く倒れました。


『憐れみなんて要らない!屈辱だわ!!

私は私なりに精一杯生きてるの!馬鹿にしないで!!』

静かな病院内に「点滴スタンド」の倒れる音と、

「花瓶」が割れる音が響きます。


「見舞いに来たついでに、皆で遊びに行く」と、楽しげに言っていた。

「同世代の者達」に「言えない気持ち」が自分を支配し、

須らく嫌になっていきます。

自己満足の為に来た者、世間体の為だけに見舞いに参加した者、

見舞いを出汁に見舞いに行く者達との交友を深めに来た者、

それぞれが持つ、ここへ来た者の思惑に苛立ちだけが残りました。


そんな中、ラジオからいつものDJの声と、聞き馴染んだラジオネーム。

そして、リクエスト曲が流れます。

『去年のヘビロテだ…』彼女は呟き小さく微笑みました。


ラジオから流れる音楽だけが、彼女を受け入れた世界なのです。


去年…まだ、入院していなかった頃の「自由な自分」を思い出し…、

彼女は真剣に願います……。

『いつかまた、私も…ラジオ番組に何かリクエストしたいなぁ……』

彼女は「退院する事ができたら、やりたい事」に、思いを巡らしました。


「てるてる坊主」は…今日も、彼女の傍で…、

彼女の気持ちが晴れるように俯きながら空に祈っていました。

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