「ヒーローは遅れてくる」っていうフレーズよく聞くけど、遅れてきた理由が『目覚ましかけ忘れたせいで寝坊してしまった』とは口が裂けても絶対に言えないんだが。
「寝過ごした!!」
男は時計を見ながら、バタバタと慌てて右へ左へ移動しながらそう呟いた。
この男はヒーロー...なのだが彼の言う通り、寝過ごしてしまったのだ。
朝に弱い...というわけではないが、よく寝坊をよくしてしまう。
ヒーロースーツに着替え、ファスナーをしめ、仮面をかぶる。
「もーこの時間帯に出てこなくてもいいのにさー!!!」
そう呟きながら外に出た。外には太陽が出ていて、時々雲がそれを遮っていた。
「キャッキャッキャー!!この街は俺様のものだー!!こいつは俺の部下にしてやろうか!!」
虫のような容姿の怪人が嬉しそうに捕らえた女性を
「くそ、どうすれば...こういうときにスーパーレンジャーがいたら...!」
「そこまでだ!!」
その時声がした。声の先にいたのはみんなが「スーパーレンジャー」と言っているヒーローの姿。
「むむっ!!貴様は!!」
「俺は正義のヒーロースーパーレンジャー!!怪人め!!その汚い手を離せ!!!」
「ヒーローは遅れてくるって本当だったのね!!」
そんな常套句を人質の女性は呟いた。だが、実際は寝坊しただけだとは口が裂けても言えない。
「お前、今日は変だな。息は荒いし衣装逆だし」
「えっ?」
よく考えると何か違和感があると思ったらそう言うことだったのか。急いでいたため衣装を逆にきてしまったのだ。
いつもは急いでいる中でもちゃんと着替えているが、今日はうっかりしていた。
「ハァハァ...うるさい!お前はここで倒されるんだ!」
と言うとあっという間に怪人を倒してしまった。
「スーパーレンジャーっていつもピンチの時に来るよな」
「そうね。ほんとかっこいいわ」
事情を何も知らない人々は口々にそう評価した。この人ったち本当のことも知ったらどう思うだろうか。そう不安になりながらもどこかに飛んで行った。
「くそう、なにか、ヒーローレンジャーの弱みがあれば...!」
悪党のボスは負けていく部下たちに苛立ちを見せていた。
何をどうやってもヒーローレンジャーには勝てない。一体どうすれば...。
「ボス!いつものことなのですが、なんか今日のは様子がおかしかったんです」
「ほー。というと?」
「今日は衣装が逆だったようです。まるで急いで着替えて急いで来たような...」
「そういえばなんかいつもハァハァ言ってるな。遅れてくるのも気になる。おい、ヒーローの家に偵察に行かせろ!」
「はっ!!」
「ほー..これは使えるな」
ボスはそう不気味に呟いた。それを見ていた車の怪人は、
「家わかってるなら直接乗り込んで倒せばいいのに...」
とだけ呟いた。
「ボス!人間の使う『スマートフォン』とかいうものを使い、奴の家を偵察したところ、こんなものを入手したのですが..!」
別の日、偵察していたスライム状の怪人が戻ってきた。その手に持ってきたのはスマホだった。そこに何やら録画がされてある。
「寝坊したー!!」
再生されるとそこにあったのはヒーローレンジャーの寝坊して慌てふためく無様な姿だった。
「はっはっは、これは使えるぞ!よくやった!」
「ありがたきお言葉。早速これで奴をやっちまいましょう!!」
それを見ていた車のような怪人は
「だから、家分かってるならそんな回りくどいことせずに直接襲えよバカじゃねえの?」
とだけ小さく言った。
「そこまでだ!!」
場面は変わり例によって怪人の元に遅れてヒーローレンジャーがやってきた。
「ふっ、今度は負けないぞ!」
「なんだって?」
手招きをし、近くに呼び寄せる。そして例の動画を見せる。その様子にヒーローレンジャー驚いた様子をみせた。
「これをバラされたくなかったら負けろ、いいな?」
「わかった」
小さく話し合ったのち、ぐああああ!とヒーローレンジャーがわざとらしく苦しみはじめ、倒れた。
「はっはっは!ヒーローレンジャー破れたり!!」
「なんかわからないけどヒーローめレンジャーがやられた!!」
「どうする?」
いつもと違う展開に町の人はそう口々に言い合う。もうこれで終わりなのかもしれないのだ。
「くそう...どうすれば...」
「まてぇーい!!」
そこに現れたのは同じような服装で衣装の色が黒いヒーロー。そいつは現れるとあっという間に怪人を倒し、スマホを奪い取った。
「大丈夫かい?ヒーローレンジャー」
「ありがとうございます。あ、あなたは..?」
「僕はヒーローレンジャーブラック!!」
そう名乗り決めポーズを決める。どうやら悪い人ではないようだ。
それじゃ、僕はまたパトロールに行かなければ!じゃ!」
「あぁ...」
スマホを返してもらおうと口を開こうとするときにはもう行ってしまった。
「まあ、バレないからいいか」
そうほっと息をついたが、何か嫌な予感のようなものがしていた。
「あ!ねぼすけのマサキ君よ!」
「今日も頑張ってねー!」
その嫌な予感は的中した。寝坊していたことはおろか、身元までバレバレになっていたのだ。一体何が..?まさかブラックが吹聴しているのか...!
そこにちょうどブラックがやってきた。何が起こっているのかと尋ねるが、全くわからないとだけ言われた。
「そういえば、スマホが家に戻ると無くなっていたなあ」
「えっ...」
「あのスマホなんだったんだろう?」
不運なことに、戻る最中にポケットにしまっていたスマホが落ちて、悪意ある人間によって拡散されてしまったのだろう。
「なんか、君のことすごい噂になってるけど、どうかしたのかい?」
「いや、なんでもないです...」
一方その頃、悪党のボスは新しいヒーローの登場にに頭を悩ませていた。
「おい!なんとか弱みを握れないのか!!」
ボスはそう言うが、部下の怪人たちは黙ったままあたりをみる。
「何が何でも弱みを握るんだ!!」
それを見ていた怪人は、
「はぁー、ダメそうだなこの組織。退職しよう」
とだけ呟いた。