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章ノ零
それは、天災のような悪魔だった。
大軍を殲滅せんと向かってくる鬼の形相。
撃退する試みは無意味だろう。
それが天災である以上、人の手に余る。
だが、大軍を屠ろうとする天災は、大軍を守ろうとする閃光に包まれた。
光が消えるとともに聞こえる華麗な音。
その実、眼前に舞い降りた音は、鋼鉄の如く。
華やかさとは正反対の、その身の鎧の蛮骨さに華麗な音など有る筈がない。
ただ、鋼鉄の響きを変えるだけの可憐さを、その騎士が持っていただけ。
「――生きてるか、少年」
恐怖を割く声で、彼女は言った。
「軍令に従い参上した。これより我が剣を解放し、彼の歪みを打ち払う」
閃光は再び大地を照らし、戦場は彼女を讃えるよう、震えた。
世界は止まっていた。
おそらくは一秒にも満たないほどの光景。
だが、その姿ならば、脳裏に刻み込まれ、生涯忘れることはないだろう。
振り向く横顔から僅かに見える、どこまでも透き通るような美しい瞳。
この瞬間だけ時は永遠となり、彼女の髪が風に揺れる。
――剣から放たれる閃光。美しい髪が、天衣のように輝いていた。