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花園の天使

作者: Sena Kisui

 もしも願いが叶うなら、あなたは何を祈りますか?


 これは、少女と兄の愛と絆の物語。



 トゥーナは体が弱かった。

昔からよく熱を出していたものだ。

 今年の冬、7歳になったトィーナには一つの願いがあった。


”花園を見たい”


 だが、トゥーナは流行りの病にかかってしまった。

生まれてから一度も見たことのない花園。

(一輪でもあんなに綺麗なのに、たくさん集まったらどんなに素敵かしら)

寝台の上でもそればかりを考えていた。

 だが、命は儚い。

トィーナはあっけなく亡くなった。

昔からトゥーナと共にいた兄アーチは、旅立ちの時も隣にいた。

そんな兄にトィーナが残したのは、花のように美しい微笑みだった。

 アーチはどうしてもトィーナの最後の望みを叶えてあげたかった。

トゥーナの生前は両親が家を留守にすることも多かった。

寂しかっただろうに、わがままも言わず窓の外を見ていたトゥーナ。

そんなトゥーナが望んだことを叶えたい、アーチは心からそう望んだ。

 二人の家には代々伝わる宝石がある。

一定のリズムで叩くと、精霊が唯一無二の願いを叶えてくれるという。

 家の近くの湖のほとりで、アーチは精霊を呼び出した。

太陽が西へ傾きかけ、木々が美しく染まっていた。

「我が名はリリアス、気高き月の使いである。願いを一つ叶えてやろう」

リリアスは美しい女人の姿をしていた。

だが、柔らかな容姿に反して表情は冷たく、鋭い刃のようだった。

「願いを述べよ。我は月の使い、太陽のもとに長くはいられん」

「…トゥーナに…妹に、花園を見せてあげたい」

リリアスは瞳をすがめた。

「おまえの妹は死んでいるのであろう?我にどうしろと?願いは一つだ」

 花園があればトゥーナは見にくる。

きっとトゥーナはまだ近くにいるだろう。

なぜかアーチはそう確信した。

自分とは会えなくても、トゥーナの願いが叶うのならば。

アーチは震える声で願いを述べた。

「…ここに大きな花園を!」

 リリアスはそれを聞くとパッと姿を消した。

それと同時に、太陽が一筋の輝きを残し、西の山々へと沈んでいった。


 鳥の声でアーチは目を覚ました。

いつの間にか朝日が高く昇っていた。

ふっと花の香りが鼻をくすぐる。

 アーチが起き上がると、辺りには花が咲き乱れていた。

「お兄ちゃんっ!」

どこからか、トゥーナの声がする。

「ありがとうっ!花園だねっ、すっごく綺麗!」

声はするのに姿は見えない。

きっと幻聴だ。

トゥーナに会いたいという思いが聞かせる幻聴だ。

 アーチは花冠を作った。

そろそろ家に帰らなくてはいけない。

両親が心配しているだろう。

「トゥーナ、兄はもう帰らなくてはいけない。また来るよ。この花冠をトゥーナにあげよう。きっと似合うから」

いないとわかっていても、話しかけずにはいられなかった。

 家に帰ると両親が駆け寄ってきた。

母に至っては、泣いていたのか目元が腫れている。

「お前まで失ったら…私たち…心配したのよっ…」

両親に抱きしめられて初めてアーチは空腹を感じた。

まるで夢から醒めたかのようだ。

 アーチにとってトゥーナは世界の全てだった。

幼い頃から共に過ごした妹。

できることならもっとたくさんの願いを叶えてあげたかった。


 そんなアーチを両親がそのままにするはずもなく、アーチは都会の親戚に預けられた。

アーチは学校へ通った。

遠くて通えなかった場所。

今までは家で自分で勉強をしていた。

アーチは成績も良く、すぐに人気者になった。

それでも心はトゥーナにとらわれ、ふとした時に哀しくなるのだ。


 アーチが学校を卒業した年の冬。

トゥーナの誕生日の頃だった。

アーチはトゥーナの夢を見た。

楽しそうに駆け回る姿。

美しく咲き乱れる花に囲まれて。

現実にはありえないトゥーナの望み。

そんな夢の中でトゥーナは言った。

「春は花園がとっても綺麗なの!お兄ちゃんも見にきてっ!」

アーチはリリアスが作り出した幻のような花園を思い出した。

トゥーナのための願い。


 アーチは不思議な力に引かれるように、花園へ向けて旅立った。

「お兄ちゃんっ!」

 花に囲まれてトゥーナが立っていた。

あの頃と何も変わらぬ姿。

7歳のままのトゥーナがそこにいた。

「…トゥーナ?」

「どうしたの?」

 なぜトゥーナが見えるのか。

あの日は見えなかったのに。

そして…

見つけた。

この世とトゥーナを結んでいるもの。

それは、あの日アーチが残した花冠だった。

トゥーナへの贈り物。

何年も前の花たちが、トゥーナの頭の上で輝いていた。

あの日のアーチの想いが奇跡を起こしたのだ。

「叶ったねっ!」

「え…?」

「約束!いつか一緒に花園を見ようってお兄ちゃん言ったでしょ?」

 トゥーナはアーチの手を引く。

「だから待ってたんだよ?…あっ、見てっ!これはね…」

トゥーナは一つ一つの花をアーチに紹介する。

「…お兄ちゃん、ありがとう。私の願いを叶えてくれて」

お礼しなきゃ、というトゥーナをそっと抱きしめてアーチは微笑む。

「トゥーナが笑顔でいられるなら、兄はそれだけで幸せだよ」

トゥーナも今までで一番の笑顔を浮かべる。

「お兄ちゃん大好き!お兄ちゃんは、トゥーナの特別だよっ!」

 トゥーナの体が光に包まれていく。

やがてトゥーナの姿は消え、アーチの手の中にはしおれた花冠だけが残っていた。


 優しい風がアーチの頰を撫で、トゥーナの声を追うように天に昇っていった。




初めましてSenaです。中学二年生やってます。中世の西洋っぽい感じで、ファンタジー要素を取り入れつつ兄妹の絆を書いてみました。物語を書くのは初めてなので文章が下手です…ごめんなさい。私は昔から従兄弟姉妹たちと遊んでいたので、彼らをモデルにして書きました。拙い文章ですが、書いていてとても楽しかったです。読んでくださり、ありがとうございました。

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