不良少年の非日常
初めましてこんにちは、神影です。
今回はキャラクター関係から無理矢理作った物語を小説にしてみた、一番やっちゃいけない長続きしないパターンです(オワタ)
今回は私達の中では邪険に思う方が多いと思われる不良に焦点を当てて物語を作りました。
フィクションなので実際こんな人がいたら逃げてください危険です。
書ける機会もどんどん少なくなってきてる中、少しずつ少しずつ(半年に一回くらい)進めにきているのでお暇になったら是非見ていただけると幸いです。
けたたましい目覚まし時計の鳴る朝6:00。
何の不都合も無く目を覚まし、誘惑に負けじと布団から身をのりだしむくりと起き上がり洋服棚へ向かう。
吊るしてあるワイシャツとズボン、靴下にベルト、ネクタイに手を伸ばし慣れた手つきで身につけて、一息をついてから部屋を後にする。
速足で向かったのは、ほとんど人など立ち入らないというのに無駄に広く、そして若干古びた空気の残る厨房。
そこで軽く顔を洗いタオルを洗濯機にぶちこんでくる。
そしてから、冷蔵庫から昨日漬けておいた生姜焼きの肉、生卵、野菜炒めセットなどいくつも取りだし台に並べる。
乾燥機にかけておいた弁当箱が乾いてるのを確認すると、腕を捲り上げ、フライパンに油を注ぎ溶き卵を入れる。
そこに微量の醤油を付け足す。
フライパンからジューッジューッと良い音がした。
しかしその音を堪能してる間も無く素早く薄く敷いた卵を丸めていく、その腕の凄さといったら形容し難い。
再びフライパンに卵を注いでは丸め、注いでは丸め…
やがてなんとも形も焼き加減も綺麗な卵焼きが完成した。
フライパンからまな板にその卵焼きを乗せ、少年は振り返る。
「…今日は何人だ?」
振り返った先には厨房の出入り口で調理の様子を待ちきれず見ていた野郎共が数名。少年に問われたうちの一人がその人数を数え「6人です!」と答えた。
「今日は多いな。」
確認をとると少年は卵焼きを6等分し、そのうちの6切れを皿に乗せ、空いていた台にポンと置いて出した。
それを待ち望んでいた野郎の目も思わずキラキラ輝き息を飲む。
「おぉ…!久々の若の出来たて卵焼き…!」
「い、いただいてもいいんですか?若」
次の調理に取りかかろうとしていた若と呼ばれる少年に、咄嗟に問いかける野郎共。
若はというと特に気にした様子もなく、
「つまみ食いに許可も何も要らないだろ。」
軽くあしらうと、再び卵を手にとり今度は大量の溶き卵を作っては、フライパンに入れ、巻いては入れ、出来たらまな板に避けてまた入れ…その繰り返しで幾つもの卵焼きを作り上げる。
若の作った絶品卵焼きを頬張った後、野郎共は直ぐ様1人はそのまな板にある卵焼きを何等分かに切り分け、1人は皿を用意し、1人はテーブルを拭きにいき、1人は皿洗いを始め、1人は弁当箱に卵焼きを詰め、残りの1人はゴミを纏めてなどテキパキと若の手伝いを始めた。
「いやぁ久々に若の卵焼き食べれて良かったぁ…」
「良い嫁貰えますよ若!」
「ハイハイ。」
この家では、朝早く起きた者だけが若の作る卵焼きをつまむことが出来るらしいのであった。
とは言え、人数の微調整は行っており、若に迷惑をかけない程度の人数、10人は越さないようにはしてあるとかここだけの話。
そんなことを言っているうちに次の料理が完成する。
家の奴らの飯を作るだけで1時間はかかる。
学校の支度もある若は野郎共に厨房をバトンタッチして、自分の朝食をとる。おかずは弁当の余り…というよりは、野郎共の朝食の余りを弁当に詰め、その余りを食すのが日課のようなものだ。
「!!お頭!お早う御座います!!」
突然食べる手を止めた野郎が頭を深々と下げる。
「…親父、はよ。」
「…………ん。」
襖が開き、親父…この家のお頭が姿を現す。
「…今日はいい。」
「ウッス!!」
部屋にある何かを探しに来たのか、部下にも息子にもあまり目を配らせず、それだけ言うとお頭はまた部屋を後にした。
今のは、朝飯はこちらで食べないから部屋に持ってこいという合図である。無論、普通の人じゃわからないだろう。
若もそれ以上父親に関わろうとはしなかった。
朝食を食べ終え歯を磨き、洗面所から出るといつもそこには野郎がいる。
「若!今日も元気にいってらっしゃせぇ!」
「これ、弁当っす!」
「あぁ、ありがと。」
不器用ながらも頑張って練習した風呂敷に包まれた弁当を受け取り、鞄にしまい、チャリキーをもって玄関に歩いていく。
靴を履き爪先をトントンと床に叩いてかかとまで履けたことを確認して、ガララッと古びたドアを開ける。
「…いってくる。」
「「「いってらっしゃせぇ!!若!!」」」
雄々しく雄叫びのようなかけ声を背後に外に足を踏み出す。
いつもと変わらない登校時刻。
これが若こと男子高校性一之瀬律の日常だった。
律の家は此処等ではわりかし有名な組の1つ、一之瀬組。要約すれば不良一家だった。律はそこの次男である。
毎朝自分の昼食と野郎の朝食を作り帰宅すれば夕食を作る。
この一家には女家族はおらず、家事は全て律がこなしている。
母親は律がまだ幼い時に死去していた。
野郎に飯を任せるわけにもいかず、身につけたスキルだという。
野郎は野郎で、一之瀬組に仕える男共。
刺青が入ったり片目が無かったり、とても人目に晒せたものではないので、喧嘩以外は基本家にいる。
たまに律の付き添いで出回っているのは無しにしてほしい。
車で迎えに来る時本当に困るのも律にしかわからない。
そのせいか、律は学校にはあまり友達がいなかった。
登校を友達とするようになったのもここ最近の話である。
「律君おはよー!」
「おはよう律君!」
「…はよ。」
同じく自転車で駆けてきて律に声をかける友人二人。
愛想がないように見えるかもしれないが、本人は充分愛想を振りまいているつもりなのである。
律はコミュニケーションに関しては不器用なのである。
友達出来ない理由のもう一つだ。
「…うわっ、律君また喧嘩してきたの…?頬っぺた…」
先程触れはしなかったが、律たちの怪我は日常茶飯事なので家の人は誰も気にしていない。
こういう時一般論として怪我に関して触れてもらえるのは律にとって少しありがたかった。
心配してもらうというよりは、話すきっかけとしてなのだが。
「あぁ、昨日ちょっとな。」
「ひえぇ…本当毎回痛々しいよ…気を付けてよね…」
「おう、ありがと。」
気の弱い二人だが、二人だからこそ律は普通に話せる。
数少ない友人というか、マトモに話すのはこの二人だけである。
「そういえば、律君宿題終わった?」
「終わってる。」
「ちょっ…見せてそれ!昨日ゲームしてたら忘れてて…」
「あ、僕も確認したいから見たい!」
「わかった。」
「ありがとー!神様!」
「次はやるんだぞ。」
他愛ない会話すら律には珍しいのである。
二人は和解できているからいいが、学校に行くと……
「一之瀬最近めっちゃ怪我してない?」
「それな!噂だと夜な夜な組同士喧嘩してるんだって…」
「うわ、それ絶対危ないんですけど…」
「やべ、一之瀬来た!」
ガララと教室のドアを開けて律が入るだけで視線が集まる。
それを心配そうに見つめるのが先程の二人。
律は見向きもせずに自分の一番後ろの席に座り、当たり前のように荷物を机に入れ始めた。
そうしているうちにまたヒソヒソ、ヒソヒソと声がする。
この高校で不良組の息子として悪い意味で有名になってからもうかれこれ二年。
中学からそういう扱いを受けていた律は慣れているのである。
恐れられていると声をかけてくることも特になく、喧嘩をふられたことも数回しかない。
生活にこれといった害はないのだと割りきっている。
無論、それは本人の中だけなので、周りはいつか律に逆襲されるのではないかとヒヤヒヤしているのだ。
「ねぇマジヤバいって…昨日顔面怪我してなかったじゃん…」
「本物ってヤバ…」
「ね~…」
「やめとけって、殴られるぞ。」
「ひっ…」
内気な友人二人も言い返したいのに言い返すことが出来ず今日もまごまごしている。
律は目配せで気にしてない、といつも伝えてるつもりなのだが、二人は律と目が合うと気まずそうに目を反らすのである。
二人が本当は優しいのは律は知っていた。
だからその時はそれ以上は何もしなかった。
「…あぁもう!本当ごめんね律君…言い返せなくて…」
「気にしてない。」
「でも…!律君の扱いが皆酷すぎるって!化け物みたいにさ…」
「まぁ普通の人からみたら俺は化け物なのかもな。」
「律君!」
「冗談だって。」
お昼時。
屋上が律達の特等席になっている。
無論、律が何となく屋上で食べ始め、その領地に入ったら殴られるだの殺されるだの変な噂がたち、後輩や同学は勿論先輩までも足を踏み入れなくなったからなのだが。
二人は律の付き添いとして入っているが、内心周りの目がちょっと怖い。
律の存在が有無を言わせない(そんなつもりはない)のだが。
「俺は話せる人がいるだけでありがたいから、大丈夫。」
「うぅ…でも僕達でいいのかな本当に…」
「そうそう、僕達と一緒にいても良いことないよ?律君。」
何度も言うが、律によっていじめが減った彼らである。
「俺から突き放すことはしない。嫌なら離れていってもらって構わない。」
「そそそそんなことあるはずないだろっ!」
「そうだそうだ!律君は良い人だもん!」
「…ありがと。」
律はそっとはにかみながら笑おうとする。
笑顔が苦手なだけで人を睨みたいわけじゃないのを知ってる友人二人はそれを微笑ましく見ていた。
そんな穏やかな昼食の時間にある一本の電話が入る。
ピロリロリンッ ピロリロリンッ
律の家柄、携帯の電源が入っていることに文句を言える人はおらず、教師さえ黙認していた。
なのでしょっちゅう電話やメールは入る。
「…すまない。」
「いーよいーよ、家の人でしょ?出てあげな。」
律は弁当を置き二人から少し距離をとった所で電話を受けた。
二人はそれを黙って見ていた。
「…親父?………うん、今昼。……え?…………わかった、すぐ帰る。」
すぐ電話は切れたかと思えば、律は弁当箱閉じを急いで弁当袋に詰め始める。
「うぇ!?律君また帰るの?」
「こんな時間から殴り合いとかしないよね…?」
律の話しか聞こえてない二人は心配そうに尋ねる。
「殴り合いはしないけど、ちょっと急用。ごめん。」
「そっか…気を付けてね!」
「バイバイ律君!」
「あぁ、じゃ。」
これが律の友達として当然である。
律はよく授業中だの休み時間中だの構わず呼び出されている。
毎回急いで帰る律を見送るのが二人の役目である。
屋上から教室に戻ると、それでこそ昼休みがまだ終わってないのに戻ってきた律に皆ビビる。
問答無用で弁当と教科書とを鞄に詰め律は駆け足で立ち去る。
その嵐のような素早さに教室中静まり返り唖然。
「…マジ怖い…また呼び出されてるん…?」
「一之瀬大変やな…」
しばらくしてからクラス中またしきりに騒ぎだした。
あの一之瀬がまた学校早退するみたいだと…
「失礼します、2年の一之瀬です。」
次に訪れたのは職員室。
職員室にその声が聞こえた途端またもや職員室がざわっとする。
律が職員室を訪れるのは職員の恐怖であった。
あの不良組の一之瀬の息子なら、いつか殴り込みくらい…
毎回訪れる度にヒヤヒヤされているのぁ。
「い、一之瀬君。どうかしたのかい?」
担任がひきつった笑顔で直ぐ様出てきてくれる。
ご飯の途中にまで恐怖に襲われるとは思わなかったのだろう。
心の準備が出来ていなさそうだ。
「先生、俺今から早退します。」
「あ、あぁ…また呼び出されたのかい?」
「はい。」
担任も律が日頃携帯で家から呼び出されているのは知っている。
普通はそんなことで帰しはしないのだが、それを拒めば今度は本人だけではなく家から何か言われる可能性もある…
中学の時の律の噂を知る教師はそれだけは怖いのだ。
「わ、わかった。早退だね。さようなら。」
「さようなら。」
ペコッと一礼して職員室から出ていく律。
礼儀正しいただの学生なのだがどうしてここまで寒気がするのか…律がいなくなった後もしばらくその寒気は残ったのだった…
そうとも知らず律は自転車置き場に自転車をとりに行き直ぐに家へ帰ろうとした。
すると校門の前に見覚えのある車と人だかりが…
「若!お迎えにあがりましたぁ!!」
無論それは野郎共だった。
車の前に数十人ズラリも並び律を待ち構えていた。
「……いつもいいって言ってるだろ。」
端から見ればかなり悪目立ちしている。
律は心底嫌そうな顔をした。
「背には腹を何とかっす!ささ、早く乗ってくだせぇ!」
野郎の数人が律から自転車を受け取ろうととり囲む。
渋々と自転車を野郎に渡し広々とした車に乗り込む律。
自転車も後部座席に乗せると、車は一気に走り出した。
「…親父は?」
「へい、あの方とお待ちです。」
「…あの方って、本当に……」
律は口ごもる。
慌てて早退はしたがまだ信じているわけではない。
さきほどのあの電話の内容を…
「…えぇ、"一之瀬の長男"がお戻りになりやした。」
…野郎の一言に律はごくりと生唾を飲み込んだ。
一之瀬の長男…一之瀬竜。
数年前、中学卒業後行方を眩ました律の実の兄。
それが戻ったということは、律が次期頭領…若頭ではなくなるということかもしれないのだということを律は悟っていたのだった…