奇跡の王妃と呼ばれたメアリの実情
ただのメアリだった私が「メアリ様」と呼ばれることになったあの日。
私は全てを失い全てを得た。
真逆のことなのにその言葉が全てを表すのです。
一時の過ちだったあの夜の出来事。
華麗なドレスで着飾り派手な仮面で身を隠す夜会で私は自棄になりある殿方に身を委ねました。
もうどうでもよくなったのです。
婚約者も親友も一度に失った私は、私自身のことさえどうでもよくなったのです。
「初夜の為に、あの方のために、今まで処女でいたのに。」
ああ可笑しいったらないわ。
馬鹿みたい。
婚約者と私の親友が私に婚約破棄をしてくれと申し入れてきた、と父から聞かされたときの私の動揺と憎しみと嫉妬が皆さまに分かるかしら。
あの娘は私がどれだけあの方を好きだったか知っているはずなのに。
相談も惚気も全て包み隠さす話をしていた私はまるで道化のようね。
それを親身になって聞いてくれていたのはどういうことかしら。
心の中では私を嘲笑っていたに違いないわ。
あの方は私がどれだけあの娘が大事だったか知っているはずなのに。
幼い頃からずっと一緒にいた親友と紹介したはずよ。
まさかその娘に手を出すなんて節操なしのクソ野郎。
話を聞けば何度も夜を共にしていると言う。
あの方は私には手をつけなかったのに、あの娘には手をつけたということ。
ああ、忌々しい。
私のことは無かったように笑顔で二人の婚約と結婚予定のメッセージカードがそこら中に。
ご丁寧にも私の家にまで送りつけるなんてどういう神経しているのかしら。
ええ、そうよね、あなたのおっしゃる通り。
「だから殺しましたの。」
幸いにも神は私に微笑んでくれましたわ。
私が夜会で結ばれた殿方はあの憎々しい元婚約者の敵対勢力の嫡男。
世間ではあまり評判が芳しくはありませんが実のところはとても誠実な方でしたわ。
だって包み隠さず私を利用したいと抱きしめながら囁いてくれましたもの。
私のことは知っていたと真実を語ってくれました。
私には利用価値がある、と。
あの憎々しい元婚約者は知らなかった事実。
「私ね、実は養子だそうよ。
今は亡きアンリール様の子、隠されたメアリ。
私と初めての契りを交わした殿方は絶対的な力を得るの。
あら、契りといっても体だけじゃ駄目よ。
心も体もどちらも繋がって、この証を得ることが出来るわ。」
チラリとメアリは胸元に光る花のような紋に触れた。
「ねえ、綺麗でしょう?」
メアリとその男クロアは憎しみで心が繋がった。
願いは一致していた。
「面白かったわ。
あの男とあの娘が私に許しを請いながら死んでいくのよ。
とても無様だった。
お互いを罵りながら毒薬を飲んで逝ったわ。」
ねえ?とクロアにメアリは微笑んだ。
周りの者達はメアリがクロアのもとに嫁いてからの快進撃に驚いた。
相手が火を使えばすぐに豪雨になり火は消え去り、クロアが火を使えば強い追い風が。
全ての天候がクロアに味方した。
それが続けば誰かの口から自然に噂は流れ始める。
神はクロアを勝利に導いている、と。
メアリはクロアを王に据えた。
劣勢だったクロアがメアリを娶ってから優勢にかわり、あっという間に王へ。
そしてメアリは国民から 奇跡の王妃メアリ様 と呼ばれることとなる。
勝てないはずだと思われていたクロアを王にさせたのだから当たり前だろう。
敗者となった彼等は全員処刑、没落となった。
逆賊ですもの、当たり前じゃないの。
どんな雑草でも根を残せば生えてきてしまう。
必ず根まで取らなければ。
メアリはクスクス笑った。
「本当わからないものよねえ。
あの方とあの娘が私をあんな風に裏切らなければクロアと私が結ばれることもなかったわ。
きっとこの王座にはアレが座っていたのでしょうね。」
今じゃ全然愛しいとも寂しいとも思わない。
何であの頃あんなに私は愛しいと思っていたのかしら。
きっと初めての恋で、まるで雛鳥が親を求めるようにアレしか目に入っていなかったからでしょうか。
だけど今は違うわ。
だってクロアがいますもの。
この証がありますもの。
「クロアに愛人ができたら?
おかしなことを聞くのね。そんなものどういいわ。」
そう、どうだっていい。
愛なんてものより深いもので繋がっているのだから。
この証がある限り私とクロアは繋がっている。
愛人でも子でも作っても構わない。
私の立場は揺るがない。
「むしろ愛人を作ってほしいほどよ。
だって毎夜クロアったら私を求めて放してくれないんですもの。
彼に嫁いてからほとんど寝不足で困っているの。」
これが世の中では美談で語られる奇跡の王妃メアリ様の実情である。




