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「何かお探しですか?」
と、店員が訊いてくれないだろうか、と直子は思っていた。
自分から相談してみる勇気が湧かないのだ。かと言って、訊かれたとしても、どう答えればいいのかもわからない。
チラチラ店員を見ても、気がつかないみたいなので、仕方なく直子は手近にかけてあったワンピースを手にとった。
『わっ、ポティコンだ…ひぇっ…』
シンプルなデザインで、胸元が大胆に開いているだけ。ミニ丈で、色は薄手のピンク。手にとったら、軽くて、着やすそうな素材だった。
直子は、誰も気にも止めてないと思って、その服を鏡の前で当ててみた。似合うかどうかなんてわからなかったが、着てみたいと思った。でも、この店に入るだけで勇気を使い果たした直子には、とても言い出せなかった。
「それはね、とても着やすいんですよ」
急に後ろから声をかけられ、ギクッとなって振り向くと、先程までレジで客対応をしていた店員がニッコリと笑っていた。
「シンプルだから、色々と応用が効くんです。スカーフやベルトで遊んだり、少し肌寒かったら上に薄手の物を羽織っても見映えがいいんですよ」
更に、ニコニコしている。
「」試着出来ますから、どうぞ…
「あ…でも…」
「着てみて!本当にいいから。私も着てみたいんだけど、腰回りがきつくて。それに、これ一点もので、そのサイズしかないの。ね、着るだけでもいいので、お願い!」
店員は、サッとワンピースを手に取り、彼女と洋服をフィッティングルームに押し込んだ。
入ったからには、着てみないと損だ。店員の言い方が、どことなく亜希子に似ていて、少し楽になった。直子は、ジーンズを脱いで、薄いピンクのワンピースに袖を通した。
着る前は、少しきついかと思ったが、実際に着ると、驚くほどその服は、直子の身体に馴染んでいた。
そうきつくなく、軽いし、動きやすい。
「宜しいですか?」
コンコンとドアが叩かれた。直子は、ドアを細目に開けた。
ガバッとドアを開けてしまった店員は、直子を見て、
「あらー、いいじゃないですか!」
と言った。
「ちょっとこれ履いて、外に出てみません?」
彼女は、直子の履いていたスポーツシューズを脇にどけて、ディスプレイされていたハイヒールを置いた。
直子は、よろけながらハイヒールを履き、明るい証明の下に出た。
鏡の中の直子は、今までとは別人のように見えた。どことなく、ディズニーのシンデレラが、頭に浮かんだ。
「おにあいですよー。ほんとに!」
そんな店員の声が、直子の耳を…身体を…心を…くすぐってくる。