4
顔をあげて、期待に満ちた顔で自分の方を見てる男の子達の視線をまともに受け止める度胸さえないのに、作り話など出来るだろうか。
「ね、君たち、T大?」
右側の男の子が、訊ねてくる。
「ううん。友達がいるから誘われたの。あなた達は?」
にこやかに亜希子が、答える。直子は、曖昧に笑ったままだ。
「俺達、3年なんだ。」
「あら、そう」
「一応、このパーティーのスタッフ」
「忙しいとこ、連れてきちゃったかしら」
亜希子が言うと、二人は同時に首を振った。
「そんなこと、ないない。こんな風に話すのもスタッフの仕事のひとつだからさ」
「それに、こんな可愛い女の子達だったら、スタッフでなくても声かけるよ」
「うん。そうだよ。で、どこの大学?」
二人は、ポンポンと言葉を発した。亜希子は、そんな二人を楽しそうに見比べ、適当に笑って相槌を打っていたが、直子はテンポの速さについていけなかったし、二人の区別も、まだつかなかった。
「学生なんでしょ?」
「ええ。私は、美術やってるの」
「へー、専攻は?」
「造形」
亜希子は、スラスラと淀みなく答えている。
「君も?このこと同じなの?どこの大学?」
今度は、左側に座った男の子が、いきなり質問してきて、直子は焦った。
「えっ……あの……」
亜希子が、脇をつついた。
「あ、えーっと…」
『英文科の3年よって、言ってごらん』
亜希子が、囁いてくる。
「英文科の……」
「えっ?」
「なに?聞こえなかった?」
訊き返されてしまって、直子の顔はさらに真っ赤になる。
「ごめんなさい。私ちょっと……」
突然、直子はソファーから立ち上がると、急ぎ足で化粧室に向かった。
音のこもった化粧室で、直子は顔に水を当てた。
『んぅ、やっぱダメェ…』
とても亜希子のようには出来ない。
もしかしたら、このまま一生、何も出来ないまま終わるのではないか、という不安感が込み上げてきて、涙が出そうになった。
けれど、どうしたらいいのか、やっぱりわからないのだ。戸惑って、パニックになって、こんな風にいつも逃げてしまう。
『どうしよう、もう帰りたい…』
「直子!」
化粧室に亜希子が、心配そうな顔で入ってきた。
「ごめん。やっぱ、ダメ。ごめんね…」
「いいわよ。こっちこそ、無理させてごめんね。あの二人には、適当に言っとくから…」
「帰りたい…」
「うん。帰ろ。今回は、だめねー。楽しくないわ。さっきのとこにいるからさ、気分直ったらおいで」
「うん。ごめんね。亜希子…」
亜希子は、自分のバッグからルージュを出して、直子の手に納めてから、化粧室を出て行った。
直子は、鏡によりかかりながら、そのルージュを眺めた。
さっきは、もしかしたら、嘘をつけるかも知れないと思ったのに…やっぱりただのルージュだった。他の女の子だったら、これだけで嘘がつけるかも知れないけど、私にはやっぱり無理みたいだ。
直子は、微かに笑うとルージュを丁寧にひき直した。