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「ところで、なんのパーティーなの?」
「T大学のイベントサークルのパーティー。ここの大学に行っている先輩が招待券くれたんだけどね」
「ふぅん」
「真美や悠子は、そういうとこでいい男探して、玉の輿に乗りたがってるからね。」
亜希子は、他の短大に通ってる友人の名前を出してそう言った。
「ーとは言え、私もあの子達出し抜いちゃったもんだけど…」
亜希子の現在の彼氏は、w大の教育学生だった。「彼が出来た」という亜希子の報告を聞いて、直子は心から喜んだ。付き合い始めた頃は、何でも話してくれたものだ。
しかし、最近は彼の話を亜希子から聞いていない。うまくいっていない筈はないが、付き合って1年が過ぎたから、毎回毎回報告する程の事はないのだろう。
でも、今回のパーティーには、一緒にこなかった。
少し心配だったが、元気そうにも見えるから、敢えて直子からは聞かなかった。何しろ亜希子にとって自慢の彼氏なんだから、幸せに違いない。
パーティー会場に、緩やかなピアノが流れ、たちまち亜希子は雰囲気に溶け込んでいったが、直子はやはり臆してしまい、隅へ隅へ後退してしまう。
「」つょっと、何やってんのよ!
「だって、亜希子…」
いろいろな所から人を集めたパーティーなのに、楽しそうに言葉を交わしたり、お酒を飲みながら笑いあったりしている人たちみんなが知り合いみたいに見えた。着飾った女の子達は自信ありげに見え、それを迎える男達もまた手慣れたものだった。
もちろん、きらびやかなホールで踊る人たちの中に入る勇気も、直子にはない。
自分は、酷く場違いな所にきてしまった、と感じていた。
「折角、お洒落したのに、もっと前の方に出ないと…」
「私はいいわ。ここで座ってるから…」
そんな言葉に亜希子は顔をしかめ、どこかへ消えてしまった。
身体が埋もれそうなソファーに座り、不安げな視線をあたりに配っていた。
程なくして、亜希子が男の子を二人連れて帰ってきた。
「さぁ、4人で飲みましょう」
亜希子は、直子とその二人をテーブルに座らせた。二人は、とても感じが似ていて、兄弟かと思ったが、違っていた。
「この子、ちょっと引っ込み思案だから、話しかけてあげてよ」
自信溢れた笑みを浮かべて、二人の男の子が直子を見た。直子は、恥ずかしくなって、下を向いた。
『いい、直子。秘訣を教えてあげるわ』
亜希子が、耳打ちをした。
『芝居だと思えばいいの。』
「芝居?」
『自分は、自分じゃない。ほら、高校の文化祭でやったでしょ?』
「んー、でも、あれは…」
『そうね、亜希子だったら外資系企業でバリバリとキャリアを築こうと思ってる女子大生なんてどう?』
「でも、それって嘘じゃない」
『その位は、嘘なんて言わないの。ゲームよゲーム。直子だったら、そこらの英文科の子よりも、ずっとそれらしく見えるわ』
「…亜希子は、いつも…?」
「うん。私の場合は、バイトでモデルをしてる美大生。主に造形を勉強してるの…」
まるで本当のことのように、スラスラと亜希子は言った。
「そんなこと…」
「出来ない?私、出来るって言ったよね?女の子は、変われるの。簡単に嘘がつけちゃうものなの」
直子は、亜希子につけて貰ったルージュの色を思い出した。吸い込まれるような深い赤。自分では、絶対につけない色だし、進められても断るだろう。
その色が、いま自分の唇を染めているのだ。
もしかしたら、亜希子が言う通り、嘘がつけるのかも知れない。
それでも、まだ直子は思いきれそうになかった。