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第7話「歪んでいる世界〜前編〜」

 簡単にライフルの撃ち方を講義した桜香は続いて作戦概略を説明する。

 欧米風だとブリーフィングともいう。

 作戦概略。スーパーボールを散乱させた犯人を見つけ出しボコボコにすること。以上。

 十秒でブリーフィングを終わらせ、桜香と鏡夜はライフルを構えながらスーパーボールに足元をすくわれないように慎重に廊下を歩く。

 前を歩いているのが桜香なので鏡夜は何処に行こうとしているのか解らないまま桜香の後をついていく。

 ふと前を向くと職員室と書かれた白いプレートが闇に浮かんでいた。

 どうやら復讐の念に駆られていても当初の予定を忘れてはいなかったようだ。

 桜香が職員室のドアに手を掛け、音を立てないようにスライドさせる。

 人が一人通れるくらいの隙間が出来るまでドアをスライドさせ、隙間が出来ると態勢を低くして職員室に入って行く。

 鏡夜も桜香に習い机よりも低くなるように身を屈めながら移動していると。

「部長。これで今回のテストもばっちりですね」

 男子生徒の嬉しそうな声が前の方から聞こえて来た。

 鏡夜と桜香は机の陰に留まり、耳を澄ませる。

「……油断はするなよ。先程の奴らも気になる」

「っ! この声……」

 部長と思われる人物の声を聞いた桜香が反応する。

 もしかしたら知り合いなのかもしれない。

「大丈夫ですよ。あいつらはスーパーボールの幽霊の話に腰を抜かして逃げ帰ってますよ」

 最初の声とは違う男子生徒の声だ。その男子生徒の考えを鏡夜はないない。と首を横に振って否定する。

 もしスーパーボールの幽霊の話で怖がる人間が居たら見てみたいものだと鏡夜は思った。

「よし……そろそろ行くぞ。目的を果たした以上、長居する必要は……」

「ざ〜んねんだけど……それは無理ねっ!!」

 机の上に上がり大声を上げた桜香と共に職員室に明かりが灯る。

 勿論、蛍光灯が自然に光る訳はなく、鏡夜が電気のスイッチを入れたのだ。

 男子生徒は全員で四人いたが誰が部長かは一目で解る。

 三人は突然、桜香が登場したことにより失禁でもするんじゃないかと思うほど怖かったのか顔を歪めている。

 それに対して一人だけが全く動じなかった。

 前髪が目に触れるくらいの長さはあるだろうが、整髪剤ワックスを使ってうまく整えられている髪。長身痩躯で憂いを秘めたクールな外見は美少年と呼ぶに相応しいだろう。

 部長は机の上に立ちライフルを構える桜香と鏡夜を値踏みするような目で見つめ、失笑した。

「何がおかしいのよっ!? 言っておくけどあたしたちは生徒会公正執行部。つまり正義はあたしたちにあるの。だから、あんた達が盗んだ答案を素直に渡しなさい。そうすれば見逃してあげてもいいわ」

 質の悪い追いはぎみたいなものだ。

 ちなみに生徒会公正執行部などという組織は泉川学園には何処を探しても存在しない。

「ぶ、部長……」

「どどどうするんですか? 生徒会なんて……。まさかあの人が……」

 どよめく男子生徒三人を尻目に鏡夜は呆れ顔で見物していた。

 スラスラ、デマを言う桜香に対してもだが、泉川学園に通っているのにデマだと気付けない男子生徒にも呆れてしまう。

「ふっ。案ずるな。ユキナに感づかれたのだとしたらあいつの性格上、自分で来るだろう。それに生徒会公正執行部などただのデマに過ぎない」

 流石は纏っているオーラが違うだけある。常に冷静さを保ち完全にリーダーの器だ。

「どうして言い切れるのよ?」

「ふっ。簡単な話だ」

 そこで部長の後ろに隠れていた男子生徒三人が気が付く。

「そ、そうかっ!」

「生徒会副会長である部長が知らなければ……」

「それは嘘ということだ!」

 今度は桜香と鏡夜が驚く番だ。驚愕の真実を知った二人は開いた口が塞がらないのかぽかんと口を開けていた。

「あんたが……テスト泥棒が生徒会副会長〜っ!?」

 桜香が驚くのは無理もない。鏡夜でさえも予想をしていなかった。

「そういうことだ」

 部長は自信に満ちた冷笑を浮かべながら言う。

 嘘を見抜かれた桜香は悔しそうに顔を歪めながる。

「くっ……」

 瞳を閉じて浅い深呼吸と深い深呼吸を交互に三回程、繰り返した桜香は気を落ち着けた。

「……まぁいいわ。あんたが会長だろうが副会長だろうが。やることは変わらない。スーパーボールに転ばされた怨みを晴らし、数学のテストの答案を手に入れる。強引にでもね!」

「ふっ。いかに飛び道具を使おうと正面からの対決において俺に勝てる者はそうはいない」

 右手に持っていた布で覆われた長い棒を振りかざす。

 覆っていた布が取り払われ中にあったそれが見えた。

「えっ……」

「……剣?」

 青白い刀身に宝石のような飾りが付いている。

 長さと曲線を描いているのはは日本古来の刀と同じくらいだが、刀身の暑さが違っている。まるで日本刀と西洋の剣の長所を合わせたような剣である。

 深刻な表情でライフルを副会長に向ける桜香を制し鏡夜は副会長と正対する。

「副会長。どうしてあなたはこんなことをするのですか? 仮にも生徒会副会長なのに」

 鏡夜の言葉に副会長は少しだけ意外そうな顔をしたが、すぐに冷静な微笑を浮かべる。

「……お前達は下がっていろ」

 男子生徒三人を後ろに下がらせ副会長は剣の刃先を鏡夜に向ける。

「あいつらに少しだけでもこの社会……いや、学生の世界の在り方を教える為だ」

「学生の世界の在り方……?」

 副会長が何を言おうとしているのか鏡夜には見当がつかない。

 次に何かを言おうと鏡夜が口を開きかけた瞬間、右耳をライフルの弾が掠める。

「オウカさ〜ん? 目茶苦茶痛いんでスケド」

「あたしはまどろっこしいのは嫌いなの! そのテスト泥棒が何の為にこんなことをしているのか、ボコボコにしてから聞き出せばいいのよ!」

 ついでに答案も奪うけどね。

 桜香はそう付け足してライフルのセレクターレバーを単射から連射に切り替え、文字通り乱射する。

 鏡夜は身を空中に投げだし机の陰に転がり込み、危機を脱する。

 まさか、仲間ごと撃つとは恐ろしい人だ。

 副会長はと言うと弾丸の嵐が吹き荒れる中でも臆することなく悠然と立ち剣を構える。

「俺にも譲れない物がある……お前達が正しいと。正義だと言うのなら力でそれを俺に証明して見せろ!」

 語気を荒げた叫びと共に副会長は一瞬で桜香との間合いを詰め接近戦に持ち込む。

 銃弾の嵐を無傷で摺り抜けた副会長は無駄のない動作で上段から剣を振り下ろす。

 咄嗟にライフルで防ごうとした桜香だが剣が触れるより一瞬早く両足で机を蹴り後ろに退いた。

 それでも少し遅かったのかライフルが真っ二つに割れる。

「勘は鋭いようだな。俺の剣は生半可な物では防ぐことなど不可能だ」

「……どうやらそのようね。はぁ、しょうがない昔の人も言うように目には目を歯には歯を。剣には……」

 置いておいた桜香の鞄の中から布に包まれた物を取り出す。

 その中身が何であるのか鏡夜は興味があったが副会長は興味がないのかそれとも脅威と感じたのか屈んでいる桜香に容赦なく斬り掛かる。

 淀みのない太刀筋から放たれた高速の剣撃の前に桜香の逃げ道はない。

「桜香さんっ!」

 鏡夜の声に次いで鋭く高い音が職員室に響き渡り、冷静な副会長の顔が初めて強張った。

「それは……!」

 布が取り払われ桜の色を思わせる鞘が姿を現した。そう、それはまさしく日本刀。柏木家に伝わる銘刀の中の一つ。護身刀『桜花』と名付けられた刀だ。

「剣には剣で答えるのが礼儀。お母さんから受け継いだこの護身刀であんたを……斬るっ!」

 鞘に納められた太刀を脇に構えた。

 と思えば次の瞬間には刀身が引き抜かれ副会長の銅を両断しようと一閃が放たれる。

 鏡夜には桜香が太刀を鞘から抜くのが見えなかった。

 神速の居合斬り。その表現こそが相応しいだろう。

 再び職員室に鋭い音が響き渡る。

 桜香の初手を難無く防いだ副会長は力で桜香の太刀を弾き懐に踏み込み下段から斬り上げる。

 下からの剣撃を右足を半歩後ろにずらし半身で回避した桜香だが、副会長はすかさず左足で桜香の脇腹を蹴り飛ばす。

 衝撃で桜香の身体は宙 に浮き、入口のドアを通り廊下まで吹き飛ぶ。

 そのまま副会長も職員室から飛び出して行き、鏡夜とその他三人は取り残された。

「……え〜と……あの人達って人間?」

 凄く素朴な疑問を鏡夜は投げ掛ける。

 その他三人は皆が皆、首を横に振った。どうやら考えは同じらしい。

「……聞いた話ですが。部長は幼い頃から古武術を学んでいたそうで、厳しく辛い修行に耐え今ではその道の人達から『剣閃』と呼ばれ恐れられているそうです」

 無駄のない太刀筋から繰り出される剣はさながら閃光のように鋭いことから『剣閃』と呼ばれる由来になったらしい。

 話を聞き終えた鏡夜は正直どうでも良かった。

 もはや常軌を逸した祭典でも開いてくれとさえも思う。

 そういえば光輝が前にこの学校には馬鹿みたいに強い正義の味方がいると言っていたことを思い出す。

 別にどうでもいいか。

 散らばった書類を集め、職員室を掃除していた鏡夜はふと副会長の部活が気になった。

「あの、あなた達の部活って何なんですか?」

「あぁ。パソコン部だよ。だから警備システムとかを切れたんだ。我がパソコン部は部長と共に日々ハッカーとして努力をしているからね」

 どう突っ込めばいいのかもはや解らなくなってきた。

 深い溜め息を鏡夜は漏らし黙々と掃除をする。

「あのさ。物は頼みなんだけど答案用紙をコピーさせて貰えないかな? 連れが酷く欲していて」

 一緒に掃除をしたせいかよく解らない親近感みたいな物が生まれ、掃除をし終えた鏡夜は頼んでいた。

「別にいいよ。ただ、僕たちは現物は盗んでないけどね」

 と男子A。

「そうそう。現物を盗ったら数が合わなくなってばれちゃうから。スキャナーを使ってパソコンに取り込み、その後、プリントアウトするんだ。君達の為に、二枚、多く印刷するよ」

 と男子B。

 どうやらこの二人は専門分野になると饒舌になるらしい。

「……二人?」

「二人……?」

「んっ? 二人?」

「ウヒョヒョ、ウヒョ」 三人が頭を傾げていると後ろから気持ちよさそうな奇声が聞こえた。

 振り返ると男子Cがすやすやと夢の世界に旅立っていた。

 静寂の中。鏡夜と男子A、Bは鬼の形相でゆっくりと進軍する。

「ウヒョ……ウヒョヒョ? ウ……アンギャアアアア!?」

 夜の学校に奇声が響き渡ったことで後に『アンギャアアアア』の幽霊として語り継がれて行くことになるのであった。

「ったく。人が片付けしてるってのに……さて。行こうか」

 粛清を終えた鏡夜は電気を消して職員室のドアに手を掛ける。

 男子二名は互いに顔を見合わせた。

「何処に行くんだ?」

「あの二人もそろそろ暴れ疲れたことだろうし迎えに行こう」

 男子二名も納得の顔で職員室を後にする。無論、男子Cを一人、置き去りにして。

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