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第3話「御船一家異常あり……!?」

 案内された先は閑散とした住宅街にある一軒のラーメン屋だった。

 お世辞にも新しいとか綺麗だね。なんて言えないボロい店である。

 入り口の横開き式のドアに貼ってあるスーパーのチラシには『臨時休業』と黒くて太いマジックで殴り書きされていた。

「ここが御船さんの家? ラーメン屋だったのか……でも今日は休みみたいだね?」

「あ〜。いや……あぁもう! あんのダメ親父。真面目に働きなさいよ」

「ん? 何か言った?」

「ううん。何でもないよ? ついて来て裏手に回るから」

 桜香は明るい笑顔で答えた。

 聞き違いだったのだろうか。何か今までとは違う口調だったような気がしないでもないが。

 店の裏の方には川が流れていて、鏡夜は羨ましいそうに眺める。

「川か。いいね心が和むね」

「そう? 毎日見ていると和んだりはしないけど。そんなことよりこっちこっち」

 桜香の後に続いて玄関の門をくぐり、玄関のドアを開けて中に入る。

 どうやら表側が店で裏側半分が居住スペースになっているようだ。

 中に入ると真っ直ぐに続く木造の床と右側の階段が目につく。

「お邪魔しま〜す」

「わたしの部屋は二階だから。まずは荷物を置きましょ」

 靴を脱いで家に上がると階段を上がり二階に行く。

 二階は通路が一本通っていて右側に行くとベランダとトイレ。左側に行くと手前に一部屋。奥に一部屋。桜香の部屋は奥の方らしい。

「荷物は適当に置いていいよ、少し下に行って来るからくつろいでいて」

「あ、うん」

 部屋から出ていく桜香を見送ると、カーペットが敷かれた床にあぐらをかいて座る。

 初めて同年代の異性の部屋で鏡夜は落ち着かなかった。

 普通、こういうのってしかるべき手順を踏んでからじゃないのかな。というか年頃の女の子って自分の部屋には入れたくないと思うんじゃないかな。

 などと考えていた。

 部屋を見渡すと流石に女の子の部屋らしく、犬や熊、羊や猪のぬいぐるみがベットを占領している。しかし、少し視線をずらせばぬいぐるみと同じくらいの割合でゲームソフトやグッズがひしめいている。

 三段もある本棚は漫画のコミックとゲームソフトで埋めつくされているし、天井にはアニメのヒロインのポスターが貼ってあった。

 大きめの黒いテレビには最近発売したばかりでかなり高価な(確か六万円)ゲーム機の配線が繋がれている。

 その隣にはひと世代前のゲーム機が無造作に置かれていた。

 ふと壁を見ると黒くてごつくて物騒な物が掛けてあった。

 モデルガンだろうが端から見れば本物とそんなに違わないような気がするので余計に驚く。

 掛けられているのはハンドガンにショットガン。スナイパーライフルにアサルトライフル。

 およそ女の子の部屋には似つかわしくない。どちらかと言えば男の部屋にあるべき物だろう。

 この部屋は実は桜香の部屋ではないんじゃないか。

 鏡夜はふとそう思ったが、すぐに打ち消した。

 この部屋には匂いがある。桜香の心地良い匂いがする。

 そこまで思ってから鏡夜は少し怖くなった。

 自分にはかなり危ない性癖でもあるんじゃないだろうか。

「オイスターソース」

 いきなり意味不明な挨拶と共にドアを開けて入って来たのは長身で髭面の男だった。

 髪はスポーツ刈りで服越しでも筋肉質な身体をしているのがよく解る。

 渋いおじさん風だが、昔はイケメンだったのではないだろうか。

「あ……えっと、俺。いや僕は桜香さんの友達で……」

「おっかしいな〜。先週のキズナ、DVDに録画しといたよな? 何処にもないんだが」

 いや解りませんから。というか無視ですか。と突っ込みそうになるのを堪える。

 ちなみにキズナとは正式名称は地上兵器キズナ。主人公が色んな物に反逆していくロボット(?)アニメである。

「おい少年。探すの手伝え」

「は? はぁ……」

 一応、鏡夜が居るというのは認識出来ているらしい。

 普通、娘の部屋に男が居たらもっと別なリアクションをしやしないか。と鏡夜は思う。

「てか、勝手に部屋を漁ってもいいんですか?」

「あぁ? 良いに決まってんだろ。世間のルールだ」

 そんな無茶苦茶なルールは聞いたことありません。

「むっ!? この感じ……奴か!! 少年! 後は任せたぞ!!」

 DVDボックスを漁っていた御船父は素早く押し入れの中に身を隠す。

 というか奴って誰ですか?

 誰に言うともなしに鏡夜は呟いてみた。

 ギィィと音を立てドアを開けて入って来たのは般若だった。いや、般若の如き表情をした桜香だった。

 思わず唾を飲み込む鏡夜。

「ここに変な親父来なかった? 短く刈った髪にマッチョで挨拶代わりに『オイスターソース』って意味不明なことを言うんだけど」

 オイスターソースとは挨拶だったのか。などと呑気なことを考えながら鏡夜は押し入れを指差した。

「そこの押し入れに隠れているけど……」

「んなぁ!? 少年よっ!! お前は一度交わした男の約束を違えるのか!?」

 勢いよく飛び出した御船父はそれ以上の勢いで鏡夜の両肩を掴みガクガク揺らしながら熱く語り始める。

「いや、そんな約束した覚えが……」

「おぉとこは魂で語るもんだろうが!! ソウルでコミュニケーションを取るもんだろうが!!」

「色々と意味が解らないのですが。というか全てにおいて意味不明です」

 御船父は鏡夜の肩を掴んだまま両膝をつきその場にうなだれる。

「あぁ、嘆かわしい。そんな軟弱者に育てた覚えはないぞぉ」

「奇遇ですね。俺も育てられた覚えがまったくないです」

「それでも俺の息子かぁ!? 俺が今一度、修正してやるわぁ!」

「いや、俺はあなたの息子じゃないですし!?」

 突然のことに至極当然の反応をする鏡夜。

「げへぇ!?」

 襲い掛かったはずなのに変な奇声を発した御船父。

 よく見てみると鏡夜に襲い掛かった御船父の後頭部に木刀が直撃していた。

「ったく。修正されるのは父さんの方でしょ!? こんのダメ親父!! どうして勝手に店を休みにしてるのよ!」

「いででで、か、母さんは休みにしても良いって言っていたぞ!!」

「問答無用! ってゆうかお母さんは基本反対しない人なのよ!」

「痛い、痛い、痛いぃ。グリグリ回すのは止めろ、は、反則だ!! レフリー!!」 

 左手と右手を合わせてTを作り鏡夜に何かを訴える。

 止めなければならないのだろうか。

「あ、あの。もうその辺で……」

「あんた……じゃなくて! 天河君。これは私たちの問題だから。しばらくそこで静かにしていてね」

 明らかにあんたって言ったように聞こえたのは気のせいだろうか。

「なんだぁ。お前、キャラ変わってねえか? 気色わりぃ、なぁにが『ね』だっての……いでで、止めろ! すいません、すいませぇん〜!!」

 バタン!

 勢いよくドアが閉まり、再度、部屋に取り残されてしまう鏡夜は過ぎ去った嵐に安堵のため息を漏らす。

 それにしても凄い家族だ。仲が良いというか何と言うか。

 正直、鏡夜は桜香の事が羨ましかった。あんな風に友達みたいに接することが出来る親が居て。

「姉ちゃん? ドンクエで解らないことが……って、あれ? 姉ちゃんはいないの?」

 今度は鏡夜よりひとつか二つ程、年下の少年が部屋のドアを開けて顔を覗かせた。

 歳の割には身長が高く、鏡夜よりも頭一つ高い。男にしては長い黒髪は乱れている。

 というよりもワックスを使ってあえてそうしているようだ。

 長身、童顔とも取れる甘いルックス。なにか部活をしているのか引き締まった身体。今流行りの知的なメガネ。

 さぞかしモテるに違いない。御船父も顔は良かったから、もしかしたら御船家は美形の集まりなのかもしれない。

「姉ちゃん。何処にいるか知らない?」

 それよりもこの家の住人は見知らぬ男が居ても驚かないのか。

「多分、下に行ったんじゃないかな?」

「ふ〜ん。まっいいや」

 桜香弟は何かを考えるそぶりを見せた後に部屋に入り、ベットの上に腰を降ろす。

「兄ちゃんって。もしかして天河鏡夜さん?」

 肘を右膝に置き、手で顎を支える態勢で御船弟が尋ねる。

 自分の名前を知っていることに少し意外に感じながら鏡夜は首を縦に振りながら肯定した。

「そっか。やっぱ、鏡夜さんか……うん。大体はイメージ通り」

「イメージ通り?」

 またも意外な言葉に思わず聞き返してしまう。

 イメージという事は御船弟は普段から鏡夜のことを聞かされているのだろう。勿論、桜香に。

 それは解っても、鏡夜にはどうして桜香が自分のことを弟に話しているのかが解らない。

 まさか気になっている人がいる的な話題で夜な夜な盛り上がっているとか……。

「鏡夜さんはどう思ってんの?」

 想像もとい妄想を中断した鏡夜は真剣な表情で何を? と聞き返す。

「姉ちゃんのことを。好きなの?」

「……はい? どうしてそうなる?」

 大体、鏡夜は昨日まで桜香とろくに話をしたことが無い。

 遠くからクラスメイトと談笑している姿を度々見ていただけだ。それでどうして恋愛感情が生まれよう。

「それは危ないね。ストーカー願望しか生まれなさそう」

 余計なお世話だ。

 御船弟には学校のことは二度と教えないでおこう。鏡夜は心に固く誓いを立てた。

「まっ。いっか。鏡夜さん楽しそうな人だし。我が家には常識人がいないからさ、鏡夜さんにはその役割を担ってもらわないと」

「……すいません。辞職願いの書き方を教えて下さい」

 そんな物はないよと御船弟は笑いながら言う。

 ベットから立ち上がると部屋から出ていこうと歩き出した。

「あっ。そうだ」

 部屋のドアを半開きにしたままで鏡夜を振り返る。

「良いことを教えて欲しい?」

「そりゃもちろん」

「昨日、姉ちゃんが上機嫌で帰って来て言っていたよ『初めて友達が出来るかもしれない』だってさ」

「友達って……御船さんには友達がいるじゃないか。クラスの奴らと楽しそうに話してるし」

 鏡夜の言葉に返答は帰って来なかった。

 聞こえなかったのかそれとも聞こえないふりをしたのか。どちらにしても不思議な奴だと思う。

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