第2話「両手にアニメグッズ?」
駅前で待ち合わせだったから鏡夜はてっきり電車を使って近くにある大きな街に遊びに行くのかと思っていたが、桜花は駅の目の前にある商店街の方に歩先を向ける。
並んで歩く二人の身長差はほとんどない。これは桜香が長身という訳ではなく鏡夜が男にしては小柄の部類に入るからである。
行き先は気になるが、先に聞いてもつまらないといえばつまらない。それに桜香は教えてはくれない。そんな気がする。
だから鏡夜は他愛もない話題を振った。
学校は面白いかとかクラスの奴らの話。そして話題は教師に飛び火した頃にとある店先で桜香が立ち止まる。
「ここは、確か光輝が話していたな」
「最近オープンした店でアニメグッズとかゲームとかを幅広く取り扱っている大型店よ」
朝早くだというのに店は既に開店していた。
桜香に続いて店に入った鏡夜は驚く。
広いはずの店内が客で埋まっていて酷く混雑していたからだ。
よくもまあ、こんな朝早くから。
「はぐれないように手を繋ぎましょう」
「えっ?」
鏡夜が聞き返すや否や桜香は鏡夜の手を握り人込みを割くように店内を歩き出す。
駅前でも思ったことだが桜香は異性と手を繋ぐことに躊躇いがないらしい。
普通は女の子ってそういうの気にするんじゃないかな。
そんなことを考えながら鏡夜は緊張していた。
心臓の鼓動が速い。
今まで女の子と手を繋いだ経験がない鏡夜にとっては桜香の態度に戸惑う。
「UFOの日を知ってたみたいだけど、これの影響かな?」
笑顔で言いながらDVDを一つ手に取り鏡夜に見せる。
「わたしはこのアニメ好きよ。凄く大切なことを教えてくれたから」
「いや、UFOの日は昔、兄さんが教えてくれたから、覚えていただけ。……がっかりさせちゃったみたいだね」
「ううん。そんなことないよ」
否定こそした桜香だが残念そうな表情までは隠し切れてない。
「まぁ、でも。こういうのに興味が無い訳ではないし、御船さんのお勧めを教えてよ」
嬉しそうに桜香は目を細める。
さっきよりも生き生きとしてコミックやアニメのDVDを選んでいく。
「これは少し前のアニメだけど感動物で、今でも人気があるのよ。主題歌が一部では国歌として扱われているのも有名ね。
こっちは普通の三兄弟の物語を淡々と描いた物でコメディー。あ、あと男の子に人気があるのはこっちの騎士とロボットの話でこれはわたしも好きだよ。
これから放送されるアニメはこういう雑誌で情報を仕入れた方が良いよ。目当ての付録がある時は即買いでしょ。
ドラマCDもキャラソンが入っていたりしてお買い得の場合もあるけどわたしはあまり買わないかな。あと……」
「ちょ、ちょっと待った。まだあるの?」
鏡夜が両手に提げている買い物カゴは既にDVDやらグッズやらで一杯で今にも溢れそうだ。
正直、どれくらいの出費になるのかが心配だ。かなり重量もあるし。
「あっ……ご、ごめん。わたし没頭すると周りが見えなくなるから……」
どうやらそうらしい。
今日の所はこれくらいにして買い物カゴをレジに持っていく途中に桜香に鏡夜の知らない男が声を掛ける。
「あ〜……。天河君、先にレジに行ってて。すぐ行くから」
「……はいはい」
どんな関係か気になったが鏡夜は桜香に言われるままにレジに向かう。
あまりにも膨大な量のせいかレジに商品を通す店員がちらちらと鏡夜の顔を見る。
一方の鏡夜は知らない男と話す桜香が気になり、そちらばかりを見ていた。
「え〜。四万五千八百円になります」
「……」
声をまったく聞いていない鏡夜の肩を店員が叩く。
「あっ、えっと?」
「四万五千八百円になります。とっととお支払い下さい」
この店の接客マニュアル間違えてないかと訝しみながら鏡夜は財布を開く。
中には野口さんが四枚日口さんが二枚。計一万と四千円也。
足りてない。半分にも足りてない。
店員が疑わしげに鏡夜を見つめる。これ以上の間はあらぬ誤解を与えそうだ。
仕方がないか。
「カード使えますか?」
「大丈夫ですよ」
「じゃあ、カードで」
ゴールドなカードで精算をして、四つの大きな袋を左右二つずつ持つ。
「半分持つよ」
返事をする前に桜香が鏡夜の持っていた袋二つを掴んで持って行く。
「さっきの人は誰?」
「ん? ん〜少しね」
店から出てすぐの鏡夜の質問に桜香は言葉を濁す。
何か事情でもあるのだろうか。
「もうすぐお昼だけど、ご飯どうしよっか?」
「あれ、ほんとだ。もうこんな時間か」
腕時計の短針が十一と十二の狭間を指して、長針はどうでもいい。
「家に来る?」
「……はいっ?」
「だからわたしの家に来る?」
これはどういうことだろうか。初めてのデートで言われるままに家に上がり込んでも良いのか。というかこれはデートなのか。
いやしかし待て。冷静に考えろ。これはもしかして今日は家に誰もいないの的な。
いやいやいや変な妄想は止めろ。そんなはずがないじゃないか。
鏡夜の頭の中で様々な推論と憶測が飛び交い、賛成派と反対派が終わらない議論を繰り広げる。
「ね。行きましょう」
「……はあ」
反対する理由が見つからず先に歩き出した桜香を小走りで追いかけた。