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エピローグ「next world」

「お兄ちゃん!!」

 身体を揺さぶられながら聞こえて来た声に反応して天河鏡夜は目を覚ました。

 一瞬、何処に居るのか解らなかったがすぐに思い直す。

 電車の中だ。対面の席には莉奈と加奈が並んで座っている。

「椅子に座った途端に爆睡するんだから」

「疲れてたのかな?」

「お疲れ様です」

 藤林はよく気が利く性格で労いの言葉を言いながら紙コップに注いだお茶を鏡夜に手渡す。

 紙コップを受け取った鏡夜は昨日を思い出していた。

 引っ越す為の荷作りから掃除から。何から何まで鏡夜が一人でやったのだ。

 クラスメイトは薄情なもので誰ひとりとして手伝いに来なかった。

 見送りには来たが。

 旅行用に買った大きめの鞄からアルバムを取り出し過ぎ去った青春を懐かしむ。

 程なくして電車が降りるべき駅で停車し、忘れ物がないか互いに確認しあい三人はホームに降り立った。

 お世辞にも大きいとは言えない規模の駅の改札を通り抜け外に出る。

 迎えに来てくれている人がいるはずだと鏡夜が辺りを見回しているとベンチに座っていた女の子が立ち上がり、鏡夜達に近付く。

「久しぶり、キョーヤ」

 声を掛けて来た女の子の顔を確認すると鏡夜は優しい笑顔で答える。

「桜花さん。半年ぶり……ですね」

 自然と桜花と呼ばれた女の子の視線が鏡夜の後ろにいる加奈と莉奈に注がれる。「こちらは僕達がお世話になる下宿先の娘さん。ほら自己紹介して」

 鏡夜に前に出るように促されて二人は前に出て桜花と向き合う。

「天河加奈です。お兄ちゃんの妹やってます」

「藤林莉奈です。加奈共々お世話になります」

 爽快な笑顔で桜花は頷く。

「あたしは御船桜花みふねおうか。他人行儀になることないわよあたし達は家族なんだから」

 破壊力満点のウインクを用いながら堂々と桜花は言った。 いつまでも立ち話をしている訳にもいかないので桜花を先頭に駅から歩き出す。

 道中、今までいた学校の話などを聞かれ、それに答えていると桜花が後ろを振り向く。

「加奈ちゃん達は来年受験でしょ。高校はどこ行くの?」

「当然、泉川学園。お兄ちゃんいるし」

「右に同じです」

 桜花は前に向き直ると後ろの二人には聞こえないくらい小さく囁く。

「あんたはあいつらの言ってたことを信じる?」「青葉君達のことか……僕は信じるよ。青葉君には借りもあるからね」

「ふ〜ん。だったらあたしも信じてみようかな」

「どうして?」

「だってその方が面白そうじゃない」

 黒く澄んだ双眸を輝かせながら満面の笑顔で桜花は即答した。

「さっきからコソコソなんの話をしてるの?」 

 後ろから不満そうな加奈の声が聞こえ、鏡夜と桜花は振り返り、笑顔で同時に言う。

「いつか何処か。遠い世界の話」

 加奈と莉奈は意味が解らなそうに顔を見合わせていた。

 そうこうする内にこれから下宿することになる御船家に到着する。

 家に入ると挨拶と歓迎会などで慌ただしく時間が過ぎて行き、次の日の朝。

 真新しいブレザーに袖を通しネクタイを締め、紺色のスラックスを履くと鞄を片手に鏡夜は割り当てられた部屋を出る。

「おっはよ〜。良く眠れた?」

 廊下の壁に背中を預けて立っていた桜花が鏡夜の肩を叩きながら言う。

「おかげさまで。桜花さんは?」

 笑顔でバッチリと答えた桜花と一緒に一階に降り、リビングで朝食を取る。

 加奈と莉奈は桜花の弟の智樹と一緒に中学に向かい、鏡夜と桜花は二人で高校に向かう。

 校門前の坂を登り切り昇降口前で立ち止まる。

「あれかな。クラス割りの掲示板って」

 言いながら鏡夜は白い掲示板を指差す。

「うっわ〜。凄い人だかり……もう少し待ちましょ」

 鏡夜も人込みは嫌いなので桜花の意見に従いしばらくその場で他愛もない話に花を咲かせていると、

「よっ。ご両人! 入学早々お熱いね〜」

 茶化す声の方を向くとみるからに軽そうで背が高い今風の男子生徒が右手を挙げながら近付いて来る。

 入学式だと言うのにブレザーの前のボタンを全開にしていて、ネクタイも緩めている。

「なんだ。あんたも受かったの? 落ちれば良かったのに」

「相変わらずひどいな、桜花はさ」

 桜花の辛口コメントにオーバーなリアクションをした男子生徒は鏡夜を見る。

「よぅ、久しぶり。俺のこと覚えてるよな?」

 男子生徒は自分のことを親指で差しながら爽やかな笑顔で尋ねる。

「あんな体験入学を忘れろ……ってのが無理ですよ。相田君」

 体験入学について少し補足すると。

 中学が同じ桜花と相田光輝は体験入学の日に一緒に泉川学園に来た。 既に鏡夜と桜花は知り合いで自然的な流れで三人が一緒に居る時に野犬に襲われたのだ。

 ちなみに襲って来た野犬は桜花が難無く撃退した。

 そんな訳で光輝とは野犬の仲とも言える。

「光輝でいいよ、それとタメ語で話せよ。俺たちタメだろ?」

「あっ、それあたしも思ってた」

「癖……なんだよね」

 同じ歳といえど敬語気味になってしまうのは鏡夜の人となりだろう。

 努力はしてみると鏡夜が言うと、桜花は既に別の話題。クラス割りのことについて話していた。

 光輝が三人で同じクラスが良いと言うが桜花は却下する。

「あんたはいらない。あたしとキョーヤだけ」

「ちょ、仲間ハズレははやんねえぞ!」

 校門前で桜花と光輝は言い合い、鏡夜が困ったように笑っている。

 二人は口論に夢中で気付かなかったが鏡夜は上級生の女子生徒が近付いて来るのに気付いた。

 何処かで見たような気がする。

「久しぶりだな。三人共、無事合格したようで、なによりだ……もっとも」

 声を掛けてきたのは泉川学園生徒会長の泉川ユキナ。彼女もまた野犬の仲と言えるだろう。

 そのユキナは光輝を見て艶やかな笑みを作る。

「一人だけいらないのがいるようだが」

「だってよ天河」

 ほぼ即答で光輝は鏡夜に振った。

「僕っすか!?」

 と鏡夜。

「あんたでしょ相田光輝!」

 と桜花。

 久しぶりに会った四人は積もる話もあるようでしばらく立ち話に花を咲かせていた。

「ところでさ」

 ふいに光輝が真剣な表情で切り出した。

「俺達、ずっと昔に会ったことあるか?」

「体験入学の時、以前にか?」

 ユキナの問いに光輝は頷く。

 それを見たユキナも何かを考えた後に口を開いた。

「……実はわたしもそんな気がしていた。上手くは言えないが……」

 突然の二人の疑問に鏡夜と桜花は示し合わせたように同時に答えた。

「きっと僕たち(あたしたち)は出会っていたんだよ……」

 ここじゃない遠い遠い世界でね。


See you Next World

という訳でラノベな季節も完結。ということになりました。最初から見て下さった方々、全話を拝読して下さった方々。ありがとうございました。少しの謎が解決(?)され数多の謎が残った今作なのです。ラノベな季節のコンセプトは『少し有り得ない青春』なのですが、実を言いますればこの物語、ノンフィクションが少しばかり含まれていたりもするのです。さてさて、少しばかり長くなってしまいましたね。では僕の小説をここまで読んで下さった方々、本当にありがとうございました。次回作もよろしくお願いします。

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