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第1話「変わり始める日」

 朝の目覚めは小鳥の囀り……なんて清々しいものではない。

 朝の八時。突如として大音量のアニメソング。略してアニソンが流れ始め、鏡夜は目を覚ます。

 このままでは誰かが殴り込んでくるな。

 寝ぼけながらも冷静に判断し音楽を止めようとベットから降りる。

「ぐぇ……」

 変な呻き声も今の鏡夜の耳には届いていない。

 部屋のどこかに落ちているであろう音の発信源。携帯電話を探すが見つからない。

 そうこうしている内に大音量の音楽は静まる。

 やれやれと鏡夜は軽く伸びをする。

 壁の時計を確認すると八時少し過ぎ。

 待ち合わせの時間まで一時間はある。しかし、二度寝してしまうと寝過ごすのは目に見えているし。

 計算した結果。駅前のコンビニで時間を潰すのが最適という答えを導き出し自分の部屋に戻り私服に着替える。

 無地の黒い半袖のパーカーの上に黄緑色をした半袖の上着を着る。

 下は黒のジーンズにするか灰色のハーツパンツにするか少し悩んだが、暑くなりそうだったのでハーツパンツに決める。

 ベルトも忘れずに締めて、準備は整った。

 部屋を出て施錠をしてから食堂に向かう。

 休日なのに食堂には既に大勢の生徒が群れをなしている。部活動をしている者や鏡夜のように用事がある者達だろう。

「あら? 今日は早いねぇ。デートかい?」

 いつもなら軽く流すおばちゃんの言葉だが、今日は的を射ている。

 鏡夜は造り笑いをしながら曖昧な返事をする。

 朝食のトレイを両手で持ちながら座る場所を探していると。

「こっち空いてるよ」

 鏡夜は自分に向けられた声だと理解するには少しの時間を要した。周囲を見ても突っ立っているのは自分しかいない。となればやはり今の声は自分に向けられたものだろう。

 手招きしている谷原藍の隣の席に腰を下ろす。

「どうも、ありがとう」

「いえいえ。どう致しまして! えっと三組の天河君だよね」

 肯定した鏡夜は少し意外に思った。話したことはないはずだがどうして知っているのだろうか。

「入学式で新入生代表挨拶してたよね。そういうのやったことないからさ憧れるなぁ。ね、どんな気分だった? やっぱり緊張する?」

 積極的に質問を投げ掛けてくる谷原は人見知りをしないタイプなのだろう。

 初対面の人間の人となりをつい分析してしまうのは鏡夜の癖だ。もっとも解るのは表層の部分だけだが。

「そんなに緊張はしなかったかな」

「へ〜。どうして?」

「ほんとはさ生徒代表挨拶をするのは俺じゃなかったんだよ。当日に予定してた奴が休んだらしくて、国語の成績が入試トップだった俺に白羽の矢が立った訳で半ばヤケクソだったからかな」

「ふふっ。面白い裏話だね。よっと」

 愉快そうに笑いながら谷原は茶碗を片手に立ち上がる。

 白いご飯を食べながら谷原の行き先を見ていると目当ては炊飯器らしかった。

 ここではライスに限りお代わりし放題というどこぞのラーメンショップかファミレスみたいなルールが決められている。

 鏡夜もたまにお代わりをすることがあるのでその行為自体には驚かないが、さすがに戻って来た谷原の茶碗を見た時は本気で驚く。

 茶碗から、はみ出し山のように盛られているのを見たら誰だって驚くだろう。それを食べているのが華奢な女の子なら尚更だ。

「よく食べるね……」

「そうかなぁ? 普通だよ」

 普通とは思えないから言っているのだがどうやら谷原には普通らしい。

「これあげるよ」

「いいの? ほんとにもらうよ?」

「じゃあもらって」

 主菜の野菜炒めを惜し気もなく差し出し、鏡夜は納豆をご飯にかけ、食べる。

「ごちそうさま」

「早っ! もしかして天河君って少食?」

 君が食べ過ぎなんだよと手話で表現した後にトレイを指定の場所に置き、食堂を後にする。

 腕時計で時間を確認すると八時二十五分。

 ロビーを通り抜け寮の外に出ると眩しい日差しが鏡夜を出迎えた。

 六月でも下旬になると日差しが強く暑い日が多い。もうすぐ本格的に夏の季節が訪れるだろう。

 駐輪場に停めてある自転車のロックを外し、自転車に跨がりペダルを踏み込む。

 校門を通り抜けるとすぐに下り坂で結構長い。行きは天国。帰りは地獄とは正にこのことか。

 駅前のコンビニでなんの本を立ち読みしようか考えながら自転車を走らせる。

 ようやく駅が見えて来た時になりようやく最初に立ち読みする本が決まった鏡夜だったが、その予定は打ち消された。

 既に桜花が駅前に立っていた。鏡夜は自転車から降りて自転車を押しながら急いで駆け寄る。

「ごめん! 時間、間違えたかな? 九時集合だと思ってたんだけど」

「間違えてないわよ。わたしが早く来ただけだから。それに今、来たばかりだから気にしないで」

 笑いながら首を横に振る桜花に鏡夜は安堵のため息をつく。

 時間にルーズだとは思われたくない。

 自転車を駐輪場に停めてから鏡夜はこれからの予定はあるのかと尋ねると桜花は鏡夜の手を取りグイグイ引っ張りながら満面の笑顔で、

「任せてっ!」

 と答えた。

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