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第23話「家族」

 立ち話もそこそこに夏雪達と別れ、朝食が用意されている部屋に向かった。

 部屋に入ると待たされていた光輝が文句を言って鏡夜は軽く謝罪をしておく。

 桜香は藍とユキナの間に座り、鏡夜はその向かい側に座った。

「みなさん、揃いましたね。では。いただきましょう」

 桜が手を合わせると御船一家全員が同じ事をする。

 普段からご飯を食べる前にいただきますを全員で言うのだろう。

 今までにそんな経験がない鏡夜は少し照れ臭いと感じながら手を合わせる。

 ユキナも同じ気持ちなんじゃないかと鏡夜はふと思った。

 朝食を食べ終わると、部屋に戻りテレビを見たり横になったりとゆっくり過ごした後に財布と携帯だけを持ち部屋から外に出た。

 フロントで御船父と桜と合流して鍵を預け、旅館から外に出る。

 強い太陽の光りと蝉の鳴き声が出迎えた。

 今日も暑くなるだろうな。

 誰もがそんな予感をする朝だ。

 車に乗り込み予定していた観光名所に向かう。

 最初に行ったのはお城。天守閣から見た景色は良かったがやはり見えるのはビルや建造物ばかりでユキナはあまりお気に召さなかったようだ。

 藍は桜香に引っ張られて城内を連れ回されていた。

 光輝と鏡夜はと言うと城の外の土産物屋で難しい顔をしながら商品を眺めていた。

 ここでしか売られていないという置物を光輝は手に取り、孤児院の子供達がどうと呟き、鏡夜は可愛いらしいペンダントを見つめていた。

「何を見ているんだ?」

 ユキナの声が隣から聞こえた。鏡夜はそのままペンダントを見ながら答える。

「もうすぐ妹の誕生日なんで、これをプレゼントしようかと」

「君には妹がいるのか? 初耳だな」

 思ってもいなかったのか驚きながらユキナは言った。

 そういえば誰にも言っていなかったと鏡夜は思う。

「君は自分の事をあまり話さないからな。良ければ教えてくれないか?」

 少しの間の後に鏡夜はベンチに座る事を促し、お土産屋の外にあるベンチに座った。

「……大して面白みのない話ですが」

 二人の兄と一人の姉。そして妹が居ると鏡夜は話を始めた。

「五人も居たから毎日、喧嘩が絶えなかったけど、楽しい日々でした」

「御家族は今、何を?」

 兄達と姉はもう成人して家から出て行った。

 そう言った鏡夜の顔は笑っていたが何処か悲しげな言葉だった。

「妹は今年で中学最後だから部活に励んでいますよ」

「そうか……私は一人っ子だから妹が居るのは羨ましいかな」

「おぅおぅ。人の女になにしとんじゃい!」

 ユキナが言い終わるか終わらないかのタイミングでお土産物屋のサングラスをした光輝が文句を言う。

「……誰が……お前なんかと付き合うものか!」

 勢いよくベンチから立ち上がり右足で腹部を蹴り上げ、すかさず左足の回し蹴りとコンボを繋げるユキナを鏡夜は凄いなと光輝の心配をせずに見ていた。

「元気で良いですね〜」

「そうですね」

 何時の間にか鏡夜の隣に笑顔で座っている桜。少し前までは驚いたりしていたが、やはり人間は慣れるのだろう。

 最近の鏡夜はそんなこともあると取り乱さなくなるまで成長した。

「おっさんはどうしたんですか?」

「今頃、お城の中を駆け回っているはずですよ」

 不憫だなおっさんよ。

 まじまじと城を見上げた鏡夜は御船父に同情していた。

 時折、光輝の断末魔が聞こえるが無視を決め込んでいる二人はただ傍観しているだけだ。

「長閑ですね〜」

「そうですか」

 目の前には阿鼻叫喚の地獄絵図が広がっているとは言わない鏡夜。

「あぁ。そういえば、昨日の深夜に旅館の麓のコンビニに強盗が押し入ったそうですよ」

 無意識に身体が反応したが、どうしてなのかは鏡夜にも解らなかった。

 言えることはただ一つしかない。

「そうなんですか?」

「あら。知らなかったのですか? てっきり知っているものかと」

 言葉とは裏腹に驚いた様子は桜には微塵もない。どちらかと言えば知らなくて当然と言いたいのかもしれない。

「キョーヤ、ジュース奢りなさい!」

 ベンチの後ろ側から突然、現れた桜香は鏡夜の後頭部を叩きながら言った。

「おいこら。意味が解らないぞ。どうして俺が奢らないといけない? 桜さんも何か言ってやって下さいよ。って……あれ?」

「何言ってんのよキョーヤ。お母さんなんていないじゃない」

 桜香の言う通りだった。今まで隣にいたはずの桜の姿はそこになく、辺りを見回してもユキナと光輝。桜香と藍。それと観光客の姿しかない。

 桜の姿を鏡夜が探しているとズボンのポケットで何かが振動した。一瞬だけ考えすぐに携帯電話だと思い当たる。というかそれしかない。

 携帯を取り出し画面を見ると、実家という二文字が躍っていた。不審に思いながら鏡夜は電話に出る。

「お兄ちゃん!? たすけ……」

「加奈か!?」

 すぐに電話は切れた。声色から察するに何か急を要する事態に直面しているようだが。

 ここから実家まではどれくらい掛るかが問題だ。方角的でいうと泉川学園からはかなり近いはずだが。こうして考えて居ても仕方がないか。

「キョーヤ、加奈って誰よ?」

「妹だ。悪い、桜香、俺すぐに帰らないと!!」

 早口で言うと鏡夜はそのまま駆け出した。後ろから桜香の声が聞こえてきたが時間がない。

 後で適当な言い訳と何かを奢らないといけないだろうな。

 そんな事を考えながら鏡夜は観光名所の城内の敷地から飛び出し、一人で駅を目指した。

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