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第22話「天河鏡夜と青葉夏雪〜ラノベな軌跡編〜」

 警察に見られる訳にはいかないのか青葉夏雪と名乗った少年は着いてくるように鏡夜に促した。

 レジの袋を拾ってくれた優希から袋を受け取り、鏡夜も歩き出す。

 旅館までの上り坂を歩き、途中の公園に入って行った。

 夏雪と瑞希が二つあるブランコに座り、優希と少女は両脇に立ちながら振り返り鏡夜の方を向いた。

 月明かりをバックに佇む少年少女達。それはとても絵になっているような気がする。

「危ない所でしたね。人の忠告は聞いた方が身の為ですよ?」

 夏雪が最初に口を開いた。それは責める訳ではなく諭すような響きを持っていた。

「……あんた達は一体、何なんだ? どうして強盗が来るって解った?」

 まるで本当に未来を知っているかのように。

 未来の予知。最近も何処かで聴いた言葉だ。

 二日前。桜香の家で遊んだ時にネットでかなり話題になっている事があると桜香は面白がりながら見せてきた。

 それは正義のヒーローの話題で犯罪を事前に察知し未然に防いだ何人かの集団がいるとの事だった。おまけに何回も。

 それは予知能力が実在する事を裏付けていると桜香はチャット仲間と語り合っていた。

 鏡夜もそれが事実なら興味があった。未来を予知出来る人間に会って見たかった。だが、その時は誰かが流したデマだとしか思わなかった。

 しかし、こうして目の前に居る得体の知れない四人。まさかこの四人が……。

「……教えて欲しい。あなた達は本当に未来を予知出来るのか? 知っているのか? 未来を」

 瑞希は夏雪の顔色を伺い、夏雪は鏡夜を見つめながら頷く。

「私は未来の予知は出来ません。こんな恰好をしているのもただの演出です。ですが、未来は知っています。私達は最初から決まった道の上を歩いているのですから」

 人の未来は運命で決められているとでも言いたいのだろうか。

「どうして俺を……いや、関わりのない人達を助けているんだ? ネットの一部で話題になっているのはあんたらなんだろ……?」

「鏡夜君。僕達は罪もない人達が理不尽に殺されるのが許せないだけですよ」

 鏡夜が夏雪に向けた問いに優希が口を挟み、

「上手く言えないけど……懸命に楽しく日々を過ごしていたらある日、突然さようなら。なんてあんまりじゃない?」

 まだ名乗っていないショートヘアーの少女も優希に続いて言う。

「もちろん全ての人達を救える程の力は俺達にはない。でも、何もしないで見て見ぬふりはもう沢山だから」

 まるで今までに大勢の人間が死んでいく様を見て来たかのような悲しみ溢れる口調で夏雪は言った。

「人は二つに区別される。護る人間と護られる人間」

 支配される人間と支配する人間の区別なら鏡夜も聞いた事があるが、瑞希の言った事は初耳だった。

 そんな格言、もしくは諺があっただろうか。

「俺達の事は他言無用で居てほしい……と言っても無駄だろうね。優希」

 夏雪はブランコから立ち上がりながら、指でパチンと音を立て誰かに何かの合図を送る。

 鏡夜が夏雪の隣に居たはずの優希の姿が見えない事に気付いた。次の瞬間、首筋に何かが触れたと感じ、そのま鏡夜の意識は暗く閉ざされた。




 遠くで誰かが呼んでいるような気がする。

 誰だろう。心地良いような怖いような。

「このネボスケぇ!!」

 大声と共に布団が剥ぎ取られた。

 夢の世界から強制的に現実の世界へと引き戻された鏡夜は寝ぼけ眼で室内を見渡す。

「……寝るか」

「寝るな。起きろって言ってるのよ」

 呆れながら寝ようとした鏡夜の頭を桜香は足で小突いた。

 顔を険しく歪めながらも鏡夜は何とか上半身だけを起こす。

「あんたって本当に寝起きは別人ね」

 珍しく桜香はため息をつく。

 桜香の言う通り。今の鏡夜には何時もの愛想のよさが微塵もない。完全に無愛想だ。

「……他のみんなは?」

 怒っているようにも聞こえる。

 それ程、朝の鏡夜の声は低音だと言う事か。

「とっくに朝ご飯を食べに行ったわよ。あたしはあんたが目を醒ました時に誰もいなかったら可哀相だと思ったから残ってあげたの。感謝しなさいよ?」

 返事は無かった。

「キョーヤ……?」

 怪訝そうに鏡夜を見つめながら桜香は鏡夜の顔に自分の顔を近づける。

 意味もなく心臓が高鳴るのが解るがどうする事も出来ない。

 他に誰もいない。二人きりだ。

 規則正しい寝息を立てながら無防備な寝顔を桜香はタバコ一本分もない距離で見つめていたがゆっくりと身体ごと鏡夜の方に傾かせる。

 二人の距離は更に縮まり鼻と鼻が触れそうになり、そして、

「ん……?」

 最悪のタイミングで鏡夜が再び目を醒ました。

 慌てて顔を離した桜香は頬を真っ赤に染めながらそっぽを向く。

「おはよう、桜香。他のみんなは?」

 呑気な口調で鏡夜は言った。

 鏡夜は今の出来事を気にも留めていないようだが、桜香は相変わらず紅潮した顔を鏡夜に向けずにいた。

「知らないわよ! あんたもさっさと顔を洗って朝ご飯食べに来なさい!!」

 知らないと言っているのに朝ご飯を食べに行けとは支離滅裂じゃないかと鏡夜が突っ込むと桜香は問答無用で鏡夜を蹴り飛ばした。

「ふんっ」

 それで満足したのか桜香は背を向けて部屋を横切り、出口を目指す。

「いってぇ……俺が何か悪いことしたか!? ……昨日の事以外で」

 桜香の背中に投げ付けた問いに答えは帰ってこなかった。

 何か怒らせるような事をしたかな。昨日の事以外で。

 立ち上がった鏡夜は洗面台で顔を洗い、歯を磨いて部屋に戻り机の上に放置されていた鍵を手に部屋を出ると、律義にも廊下で桜香は待っていてくれた。

「……何か言う事は?」

 ないと言ったらまた蹴り飛ばされそうだ。

「ありがとう、待っていてくれて」

 部屋の鍵を閉めて桜香に向き直り鏡夜は礼を言う。

 満足そうに桜香は頷き、朝食が用意されている部屋に向かう。

 途中で鏡夜が昨日、露天風呂で会った柏木優希ともう一人の少年と擦れ違う時に挨拶をされたので挨拶を返す。

 知り合いかと桜香に尋ねられた鏡夜は昨日、会った事を告げ、自然ともう一人の少年を見た。

「初めまして、天河鏡夜君。俺は青葉夏雪。よろしく」

「初めまし……て?」

 握手をした少年。青葉夏雪とは初めて会うはずなのに以前、何処かで会ったような気がするのは何故だろう。

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