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第17話「楽しく行こうっ!」

 空は何処までも青く広がっている。

 横を見れば流れ行く景色。前を見れば見慣れない景色。下を見れば地図と睨めっこ。

 だから鏡夜は少しだけ上を向いて空を見上げている。だって後ろを見てしまったら、

「はい! 光輝の負け〜!! これで十連敗ね。あははは」

 殺意が芽生えてしまいそうで。

 嬉しそうな桜香の笑い声が車内に響く。

 さっきから後部座席は大富豪大会で大盛り上がりだった。

 罰ゲーム、ばっつゲーム。と桜香を先頭に光輝に一発芸を強要する後部座席の御一行様。

 鏡夜は一人だけ助手席に座り空から地図に視線を戻した。

 ため息の一つや二つ、つきたくなる。鬱だ。

「ふはははは。どうだ少年! 後ろは大盛り上がり! こっちは通夜! これぞ最大の罰ゲイムだとは思わんかね!?」

 ワゴン車のハンドルを握っているのは当然、御船父である。

 父親になることは想像以上に過酷な事なんだと思いました。

 素っ気なくそう答えた後に鏡夜はそこの信号を左と指示を出す。

「ぬぉ!? もう少し早く言えよ!」

 御船父がハンドルを切る。危うく直進する所だった。

「あの、お飲み物は何にします?」

 気を利かせた桜がクーラーボックスを持って来て後ろから聞いて来た。

 御船父はいつものあれと答え、鏡夜は何があるのかを聞いた。

「炭酸飲料からお茶まで一通りありますよ」

 信号待ちをしている間に桜は御船父に缶コーヒーを手渡しながら鏡夜に笑顔を向けながら言う。

 地図から顔を上げ鏡夜はコーラを頼む。

 桜はクーラーボックスからコーラを取り出し鏡夜に手渡す。

 受け取った鏡夜はお礼を言い、すぐさま地図を確認し、右と指示する。

 だから早く言えよと御船父が文句を言いながらハンドルを操作した。

 その様子を見ていたのか桜はクスッと笑う。

「ありがとうございます。キョーヤ君」

「いえいえ。公平に決めた事ですから」

 ジャンケンで。

「違いますよ桜香の事です。キョーヤ君と会ってから明るくなったんですよあの子」

「いえ……俺は……」

「謙遜すんなよ。俺も少年には感謝している」

 否定しようとした鏡夜を御船父が制し、意外な言葉を口にした。

「もっとも桜香に手を出したらラーメンのダシにしてやるがな」

 冗談だと解る口調なのだが、それでも本気で言っているように聞こえるのは何故だろう。

「おかあさ〜ん? いつまで男二人の相手してるの?」

 後ろの方から桜香の甘えた声が聞こえた。

「あらあら。呼んでいますね」

 また男二人の悲しい時間が訪れた。

 それから三時間が経過した夕暮れ時。ついに車は目的地の駐車場で停まった。

 それぞれの荷物を持ち宿泊する旅館まで歩く途中、鏡夜は立ち止まり後ろを振り返った。

 振り返った先には四人分の荷物を持ち苦しそうな顔をしている光輝の姿があった。

「……何してんの?」

 光輝は鏡夜の右隣で立ち止まり荷物を降ろす。

「はぁ……みりゃわかんだろ?」

 所謂、罰ゲームってやつさ。

 なにかを悟ったように遠い目をしながら光輝がぼやいた。

「やれやれ。俺が桜香と藍の分を持ってやるよ」

「天河〜。我が友よ!」

 夕日に照らされて抱き合う男達。二人の友情が深まった瞬間だ。

「運送料としてジュース一本な?」

 爽やかな笑顔で鏡夜は言い残し荷物を持って歩き出した。

「おぅい。そりゃないぜよ。親友だろう?」

 荷物を持ち駆け足で鏡夜を追う光輝。

 この種類のやり取りは二人にとっては毎度の事だ。

 だから鏡夜は本気で奢ってもらおうとは思っていない。

 旅館に入るとロビーで桜香が両手を腰に当て仁王立ちしていた。

 辺りを見ても他には旅館の人しかいないから部屋に案内された後に戻って来たのだろう。

「遅い! あたしが何分待ったと思ってるのよ!?」

「それは悪かったね。はい、桜香の荷物」

 馬鹿でかい旅行鞄と桜香がプライベートで使っていた迷彩柄の鞄を手渡す。

「ありがと。さ、部屋に行くわよ」

 先頭を切って歩く桜香の後について歩く鏡夜と光輝。

 結構、大きい旅館だしこういう場合は道に迷うのが定番だよな。

 桜香に聞こえないように小声で光輝が言って来た。

 鏡夜は桜香が道に迷うかどうか賭をするか? と提案をし、光輝はその賭に乗った。

 敗者は缶ジュース一本という経済状況に優しい賭である。

 背後の二人がそんな賭事をしているなんて知らない桜香は道に迷うそぶりを見せずに鷹の間と書かれた部屋の前で止まりドアを開けて中に入って行く。

「俺の勝ちだな」

「くそぅ……無念」

 靴を脱いで部屋に上がる。

 部屋は六人が泊まれるくらいの大部屋で畳だった。何とも旅館という感じだ。

 藍は窓から川を眺め、副会長は机の前にある座布団に座りながら本を読んでいた。

 ユキナは備え付けの急須を使い人数分のお茶を入れていた。

「あれ? 親父さんと桜さんは?」

 六人分しかコップがないことに気がついた鏡夜は荷物を漁っている桜香に尋ねる。

「ん? あぁ。父さんとお母さんは別部屋」

 二つ部屋を取るのだったら普通は女と男に分けないかね。子供といっても高校生な訳だし。

 まあ、この面子でなにか間違いが起こるはずもないか。

 結論に至った鏡夜は壁に寄り掛かりながら畳に座り、携帯を取り出す。

「あっ。姉ちゃん、父さんが『お前達に新しい家族が出来るとしたら男と女どっちが良いんだ?』って言ってたよ」

「そうね〜。あたしは可愛い妹が欲しいわね!」

「妹か。奇遇だね。僕も妹が欲しいなぁって思ってたんだよ」

「……ちょっと待て」

 ほほえましい姉と弟のやり取りに鏡夜が乱入した。

 智希を見つめながら戸惑いの表情を鏡夜は見せる。

「……弟君」

「智希でいいですよ」

「じゃあ、智希君。つかぬ事を聞くが……君、居たのか?」

 朝から記憶を辿ってみても智希を目撃した記憶が全くない。

 ジャンケンをした時や途中でコンビニに寄った時に解ると思うのだが。

 ふと視線を横にスライドさせるとユキナが慌てて光輝に智希のコップを用意させていた。

 目が合ったユキナは違うわよと表情で訴えていた。

 何が違うのやら。ユキナも智希の存在を忘れていたのではないか。

「鏡夜さん。僕の特技はステルスなんですよ。あぁ、でも神菜さんには話し掛けられました」

「お茶が入ったぞ〜」

 決まり悪そうに咳ばらいをした後にユキナが全員に向けて言う。

 車に酔ってしまい川を眺めていた藍もよろよろと座布団に座る。

 用意されていた茶菓子を食べながらお茶を啜る。日本だなぁ。と鏡夜は風情を感じていた。

「みんなぁ! お風呂の前に大富豪大会よっ!」

どうも。作者です。このお話から新しい第二章に入ります。第一章を読んで下さりありがとうございます。これからもよろしくお願いします。

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