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第10話「生徒会会長」

 第二体育館は今は閉鎖されている。部活や授業で使われるのは第一体育館と第三体育館であるからだ。

 何故、使われないのかは生徒達の間でも噂になっている。

 老朽化が激しいとか第二体育館は小さいから使用用途がないとか。とにかく色々な噂話があるが、使用されない本当の理由は誰も知らない。

 使われていないとは言え施錠はされていない。いや、使われていないからこそ放置されているのだろうか。

 体育館側面のドアをスライドさせ、鏡夜と光輝は外履きのまま体育館内に入る。

 鏡夜が先頭、その後ろに光輝。中は照明がついていない為か薄暗い。

 ドアを閉め、体育館の中を横切り用具室を目指す。

「ん……?」

 用具室のドアを開けようとした鏡夜が何かに気付き手を引き、ドアに耳を当てる。

 鏡夜の奇怪な行動に光輝が訳が解らないと言いたそうにしていたので、

「中から声が……」

 と小声で補足しておいた。

「閉鎖された体育館……人が来ない場所……夏休みの昼下がり……もしかして『あれ』か!?」

 小声だが興奮気味の光輝もドアに耳を当てる。

「……『それ』でないことを祈るかな」

 もし『そう』だとしたらまずいような気がしないでもない。

 それきり二人は黙り込み、中の音に全神経を集中させる。

「あ〜もう、怠い、怠い、怠い! 優等生ぶるのも楽じゃないのよねぇ。一日中、笑いを造って、良い子を演じて……あたしのキャラじゃないのになぁ。

 あたしだってねぇ、制服のスカートを短くしてみたいと思う訳よ。あたしが我慢して生きていて利益が出るのはハゲだもんやってらんないわ。

 ……ちょっと聞いてる!? お〜い、馬鹿兄貴聞いてますか〜? ちっ寝たか、役立たず!」

 用具室の中に居るのは多分、女子生徒。携帯で話をしていたみたいだが、口の悪さは桜香と良い勝負だ。

 それに何処かで聞いた事があるような声だ。同級生か、同じクラスかもしれない。

 光輝を見るとどうやら光輝も声に聞き覚えがあるようで難しい顔で何かを考えていた。

 そしてとんでもない事が起きた。

 突如として大音量の君の為に(アニソン)が流れ始めた。

 発信元は言うまでもなく光輝の携帯。

 用具室の中からは何かから人が落ちたような馬鹿でかい音。

 二人は突然の急展開に焦りながら別々の行動を取った。

 鏡夜はドアが開くと死角になると思われる位置の壁に張り付き、光輝は何を思ったか携帯を取り出した。

 案の定、ドアが物凄い勢いで内側に開く。

 そう。内開き式のドアだった。もはや万事休すと鏡夜は諦め、光輝は携帯を床に落とした。

 そして用具室の中からその人は現れた。

 後ろ髪が肩にかかるかかからないくらいの黒髪のショートヘアー。

 くりくりとした黒い双眸。鏡夜より背が高く光輝よりは少し低い。

 出てる所は出て痩せ型。つまりはスタイルが抜群。

 そして泉川学園の夏の制服を身に纏っている。

 学年を問わず泉川学園に通う生徒なら知らない者などいないくらいの超有名人で地元の商工会などにも顔が効くと言われていると噂される程の権力者。

 鏡夜と光輝の表情が幽霊でも見たように驚愕の色に染まる。

 信じられない。しかし、女子生徒の右腕の腕章が全てを語っている。

 疑いようがなかった。夏休みの昼下がり、閉鎖された体育館で悪態をついていたのは聖人君子として認識され、泉川学園一の優等生で知られている。

「せ、生徒会長!?」

 二人分の動揺している声が重なる。

 泉川学園生徒会会長で二年生の泉川ユキナは無表情で光輝と鏡夜を順番に見た。

「……なにか聞いた?」

 抑騰のない声の方が逆に恐ろしかった。

 ぞっと寒気を感じて何故か足が震える。

 二人は出来る限りの速さで首を横に振って否定した。

「な、何も聞いておりません。今、来たばかりですので」

 ナイスだ光輝と鏡夜は親指を立て光輝も頷く。

「……そう。仕方ないよね……処刑しても」

 物騒極まりないことをさらって言ってくれる。

「くっ……! こうなったら!」

 光輝は素早く身構えると全身全霊を持って、

「ごめんなさい! 出来心だったんです! 別に会長の秘密を掴んで脅そうなんて思っておりません! 偶然だったんです! 許して下さい!!」

 土下座をした。

「えええぇ!? ちょ、光輝く〜ん?」

「馬鹿!! 早くお前もしろよ!」

 そんな屈辱的な事をしなくてはならないのか。

 どうしてこちらは悪くはない勝手に用具室で悪態ついてる会長が悪いのだ。だから謝るな。

 理性は確かにそう言うのだ。しかし、人は恐怖に直面した場合には理性の通り行動しない。従って。

「ごめんなさい! もうしません! 許してください!!」

 全身全霊を持って土下座をする二人を見下ろしていたユキナは土下座をしているから踏んでみる。というような感じで光輝の後頭部を踏む。

「SMプレイ!?」

「待て、光輝! それ以上の発言は自主規制の対象になる!」

 何の自主規制だよと聞き返す光輝に鏡夜は胸を張り自信に満ちながら知らんと答えた。

 何で知らねえんだよ。そもそも自主規制ってなんだよ。えっ、ヤバイ発言? あぁ例えば(自主規制)とか(自主規制)とか(自主規制)とかか? 馬鹿だな発言のフリーダムは誰にも妨げないぜ。例えゴッドにもな。

 爽やかな笑顔で熱く光輝は語った

 二人のやり取りを見ていたユキナは大声で腹を抱えて笑い出した。

 呆然としている鏡夜と光輝をよそにユキナは笑い続け、最後に一言で締め括った。

「あなたたち、馬鹿でしょう?」

 否定出来ないのが痛い所だ。

「はぁ、なんかばれたのがあなたたちならいいや。噂話なんか広めなさそうだし。脅されるくらいなら消そうかとも思ってたけど。

 ところで何年生? どうしてこんな場所に来たの?」

「えっと……一年三組の天河鏡夜です。実は副会長が……」

「一年三組、相田光輝です! 惚れました!」

「……はっ?」

 鏡夜の言葉を掻き消すように光輝の大声が体育館に響き渡る。

「……馬鹿はほっといて、実は俺達……」

 副会長達とソフトをやる事や第二体育館からその為の用具を運ぶために来たことを告げた。

 黙ってそれを聞いていたユキナがふっと笑った時の顔を鏡夜はきっと忘れないだろう(多分、光輝も)。

 良いストレスの発散方法を見つけたと言わんばかりの寒気のする笑顔だった。

 ソフトボールで使う用具を一通り持ち出し、第三グラウンドに行くと、凄惨な光景が出迎える。

 何があったのかは知らないが、メンバーの殆どがグラウンドに転がっていた。立っているのは副会長と桜香。藍の三人だけだ。

 取り敢えず近くに転がっていた岡野に事情を聞くが、

「ウッダラダラダ」

 しか繰り返さない。

「う〜む……重症だぞこりゃ」

「おっそいのよ、キョーヤっ! あたしこれっ! ほら行くよ藍!」

「わっわ、少し待ってよ〜」

 嵐のようにやって来た桜香は鏡夜の背中を手加減無しで叩いた後によさ気な黒いグローブを二つ掴み、一つを藍に投げ渡し、左手でボールを持ちそのまま駆けて行った。

 この暑い中、よくもまああんなに元気になれるものだ。いつの間にか藍とも仲良くなってるし。

 少しだけ鏡夜が疎外感にも似た感情を抱いている時、後ろでは光輝が変な事を言ったのかユキナの回し蹴りを食らっていた。

「遅かったな」

「あ、すいません副会長。実は……」

「どうしてお前がここにいる?」

 鏡夜がユキナの事を説明する前に副会長がユキナを見つけ、険しい表情をする。

「そんな……ただ、生徒会長として何かお手伝いが出来ればと思っていましたのに……ぐすん」

 あからさまに悲しんでいる演技だなと鏡夜と副会長は同時に思う。

 生徒会の両雄による話し合いは副会長が折れてユキナの参加を認める形で収束した。

 意外にも本格的な練習で鏡夜は散々な目にあった。

 キャッチボールをすれば球を零したり顔面に当たったりもした。

 大体、生まれて初めてやるキャッチボールの相手が手加減知らずの桜香というのがまず間違っている。

 光輝が器用にこなす様を見て無駄にへこんだりもしていた。

 パソコン部の六人はと言うと少しのキャッチボールだけでも息が上がっていたようだ。

 長らく運動らしい運動をして来なかったのだ。この調子ではフル出場はまず無理である。

 恐らく副会長が人数を集めさせたのはパソコン部の部員を交代しながら使って行く為だろう。

 鏡夜は練習をこなしながら横目で集まったメンバーを盗み見る。

 光輝に岡野、武部はまあいいとして問題は次からだ。

 桜香とユキナに副会長。藍はどちらとも言えない気がする。

「あっ! 馬鹿キョーヤ!!」

「えっ……? へぶしっ!?」

 桜香の声と共に顔面を激痛が襲う。

 一瞬でも気を抜くとこれである。

 顔面を押さえながら二日間生きて行けるのかと不安になる鏡夜だった。






 そんなこんなで試合の日が訪れた。

 一部は満身創痍集団。一部はやる気充分集団。

同じチームでも天と地ほどもあるテンションの差である。

 さて、試合が無事には終わらないと思うのは何故であろうか。

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