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第8話「歪んでいる世界〜後編〜」

 職員室から出発し校内を一周したが副会長と桜香は何処にもいない。

 鏡夜達は見ていない体育館にまで足を運ぶ。

 体育館の分厚く重量のあるドアは開いていて中から刃と刃がぶつかり合う音が響いて来ている。

 ようやく見つかったか。細く溜め息をつき体育館に入る。

 鏡夜達が足を踏み入れた正しくその瞬間、副会長と桜香は体育館の中央でぶつかり合った。

 激しい鍔ぜり合いが続く中で、桜香は今にも泣き出しそうな、悲しく顔を沈ませていた。

「……一つだけ聞いていい?」

「なに?」

 先に口を開いたのは桜香で、副会長は聞き返す。自然と二人の力が弱まる。

「さっきまで確信は持てなかったけど、あんた。アキ……神菜秋誠かみなあきまさね?」

「ふっ。何処かで見た顔だと思ったがやはりあの時の泣き虫か……確か御船桜香だったな」

 副会長はさして驚く様子もなかったが、その瞳に宿った色は職員室で見た冷たく強い色ではなく、まるで妹を慈しむような優しい色に変わっていた。

「お前の事が心残りだったがその様子だと俺があいつの代わりに心配しなくても良いようだな」

「……詩織さんは?」

「あいつは…………」

 初めて副会長が返答に詰まり、顔から冷笑が消える。

 それだけで桜香には充分だった。

「二年前……ニュースで詩織さんの名前を見たわ。人を助けようとして事故に巻き込まれたって。その時は必死に名前が同じだけだって否定したけど……」

 遠巻きに見守っていた鏡夜達にも二人の会話は聞こえた。しかし、その会話が今回のことと何の関わりがあるのか。

 三人は一様に真顔で聴き入っていた。

「……学生の世界の在り方ってどうゆう意味?」

「……二年前。詩織が命を掛けて助けたのは同じ中学に通う同級生だった。執拗ないじめを受けていて自殺を計った現場に詩織が偶然に居合わせ助けた。しかし、次の日、詩織が助けた男は自ら命を絶った。

 しばらくして俺は男が虐められるようになった原因を徹底的に調べた。知りたかった、どうして詩織が死ななければならなかったのか。どうしていじめられるようになったのかを」

 副会長はそこで一度、言葉を切り一息つく。

「自殺をした奴と同じクラスの人間から時には暴力に任せて聞き出したこともあった。だが、それでようやく真実が見えた。いじめが始まった原因は何てことない。ただ顔が悪かった。いじめていた奴ら風に言えば『キモい』からという理由だった」

「……」

「とにかく今の人間は外見と容姿で総てを判断する。痩せ型で顔が良ければ優遇され。個性的、特徴的、つまりは一般的にそぐわない顔と太った体型をした人間は蔑まれ笑われ、いじめを受け身動き出来ずに絶望し自ら命を絶っていく。

 そんな歪んだことが半ば日常になっているのが今の学生の世界だ」

「……そんな……」

 ようやく声を搾り出した桜香の声はかすれて小さい。

 淡々と語っている副会長は表面こそ涼しい顔をしてはいるが内面でどう思っているのかは計りしれない。

 副会長が言うように近年のニュースを思い出しても確かに学生がいじめを苦にして自殺をするのは多発している。

 歪んだ世界……そうなのかもしれない。だが、それと答案泥棒に何の関わりがあるのだろう。

「人が今のままで有る限り理不尽な仕打ちは続くだろう。歪んだ世界に絡めとられ身動き出来ずに何人もの罪のない人間が死ぬだろう。そして時に優し過ぎる人間も犠牲になるだろう。あの時の詩織のように。

 悲劇を繰り返さない為に俺は過去にいじめを受けた経験がある学生を集め行パソコン部という隠れ蓑を造った。今回もその一環でしかない」

 パソコン部とは名ばかりで身を護る為に武術を教え、勉学で馬鹿にされないように勉強も副会長が教えているという。

 泉川学園には特進クラスという制度がある。学年は関係なく成績が非常に優秀な者が割り当てられる教室だ。

 特進クラスにはいじめを行う人間はいない。それが特進クラスになった副会長が出した結論だ。

 何より特進クラスには泉川学園。生徒会会長が在席している。

 副会長と一緒に居た三人は次の試験で良い成績を取れば特進クラスの資格を得られる。だが、試験に自信がないと三人は言い出し万全を期す為に忍び込んだ。

 それが真相だ。正直、自分の利益だけで忍び込んだ桜香がとやかく言える筋合いではない。

「……スーパーボールの事もどうでも良くなったし、くだらない事は止めにしない?」

「ふっ。どちらかと言えばお前が一方的に突っ掛かって来たんだがな……お前達はどうして泣いてるんだ?」

 剣を納めた二人は鏡夜達に振り返り、副会長は泣いている男子生徒三人衆に歩み寄る。

 男子生徒三人は涙で顔面全体がくしゃくしゃになり副会長に何かを訴えようとしているがまったく要領を得ない。

「…………」

「どうかしたの桜香さん?」

「えっ……?」

「羨ましいそうな顔してた」

「……少しだけよ」

 副会長達を見つめていた鏡夜と桜香は自然と笑みが零れていた。

「神菜さんか。クールだけど良い人みたいだね」

「そうね――――」






 後日の話になるが、男子生徒三人衆は結局、自分の力だけで試験を受けた。

 あの夜に初めて副会長の想いに心を打たれ副会長に心配を掛けないくらい強くなろうと決めたらしい。

 無事、特進クラスに編入される事も決まり自信がついたのではないだろうか。

 さて、桜香の方はというと、事前に入手した答案をバッチリやり込み見事に満点を叩き出した。

 流石の副会長も少し呆れたように笑っていた。

 最後に鏡夜の順位になるが、今回の結果に鏡夜はお払いでもしようかと本気で考えたらしい。

 鏡夜の順位は中間と同じ四十四位だったとさ。

長くなってしまったので前後編に分けさせて頂きました。どうも作者です。少し暗いお話になってしまいましたね。この物語は勿論、フィクションですが、私自身、学生時代に三年間に渡りいじめを受けていましたので、いじめられる人の気持ちやトラウマは良く解ります。後書きまで暗くなりそうですので、最後に一言だけ。本当にいじめという行為が消えて欲しいですね。ではでは、ラノベな季節をお読み下さりありがとうございました。今後とも過度な期待はしないで見てくださいね(みなみけ?)

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