第7話
前が更新時間かかりすぎたので今回は慌て気味でしたが、急いで書きあげました!
輝け、栄光の三つ鱗 第7話
---西暦1542年(天文11年))10月 小田原城 多目周防守元忠
最近は寒くなるのが早くなってきたな。
この分ではまたどこぞ不作のところが出てきそうだ。
昨年に春松院様(氏綱の戒名)が亡くなられ、病気がちにされていた為昌様も今年の6月には亡くなられてしまわれた。
為昌様の玉縄北條家の名跡は綱成殿が為昌様の養子に入られる形で引き継がれて、ひとまず落ち着いている。
暗い話ばかりでも無いな。
昨年、殿に4人目の男子である乙千代丸様が誕生なされた。
跡取りの心配が無いというのはこの戦国の世の大名家にとっては大事なことだ。
家臣としても安心が出来るというもの。
あとは将来お家騒動など起こさぬように我ら重臣一同が気をつけていかねばならんな。
他国の情勢も長綱様と協力して情報を集めていかねばならんな。
美濃の方では斎藤山城守利政なるものが美濃の守護である土岐氏を追いだしたとう非常に驚くべき事態になっておる。
斎藤とやらは父親の頃から土岐史に仕えていたと聞くが、父親はもともと油売りをやっていた等と言う話もある。
まさに下剋上よのう。
昨年から今年にかけては本当に各国で動きが多い。
春松院様を始め、名の通った大物が亡くなられている。
まず、出雲の尼子経久殿。十一州の太守とも謀聖とも謳われた御仁だが、後継者の詮久殿も祖父の名があまりに大きいと大変であろうな。
どこの家中でもあまりに偉大な先代の後は大変なものよの。
当家も気を付けて皆で殿を盛り立てねばな。
何分、春松院様も大変偉大な方であったゆえ。
もっとも、我らが殿である氏康様は初陣においても見事な活躍をなされておる。
まずは、安心といったところかな。
他に近江で名前をとどろかせていた浅井亮政に、河内の守護代で権勢を誇っていた木沢長政。
そして、信濃の諏訪頼重。
昨年、甲斐で武田信虎が長男の晴信に追放されたかと思えばまたたく間に晴信が諏訪家を滅ぼしてしまった。
武田晴信、まだ若いのになかなか戦上手のようだ。
しかし、このまま信濃に目が向いているのなら代が変わったこともあるゆえ当家と和睦も考えられるのではないかな?
晴信とて周囲の敵は減らしておきたかろう。
一度、長綱様に提案してみるとしよう。
まぁ、晴信が若いなりに戦上手とて当家とて負けておらん。
氏康様もあの御年の割に戦上手であるからな。
ただ、当家の状況を考えると上杉に集中してあたらねばなるまい。
四方を敵に囲まれる事態というのは流石に厳しいゆえ。
まずは、上杉と里見を対策しつつ周辺の協力勢力を探さねばなるまい。
幸い殿はお子が多いゆえに例えば藤菊丸様や乙千代丸様を他家の養子にという選択肢もあろう。
奥州の伊達家などはそれで勢力を大きくしていたな。
ただ、しがらみが増えすぎて失敗して伊達家当主の稙宗殿が嫡男の晴宗殿に幽閉されるという事態に陥っておると聞く。
ああいう事にだけはならぬよう注意が必要よな。
もっとも、優秀であるなら他家に出すのは勿体ないというのもあろう。
まだ、先の話ゆえ急いで考える事でも無いな。
長綱様との話の折に雑談の一つくらいで考えておこう。
そうだ、優秀といえば次男の松千代丸様は興味深いな。
あのお年ながら受け答えもはっきりしていて会話も良く分かっておるようだ。
嫡男の新九郎様も優秀だが松千代丸様のそれは少々異質よな。
昨年、松千代丸様が考案された転球もあの御年であのような遊戯を思いつく奇抜さ。
実に面白い。
松千代丸様に軍略を覚えて頂きたいものだ。
あの奇抜な発想からすれば他の者では思いもつかない戦術などを編み出してくれるのではなかろうか?
もちろん、ちゃんとした指導を受けた上で順当に経験を積めばというところであろう。
そういえば松千代丸様は傅役もまだ決まっておらんので拙者が殿に願い出てみようか?
いや、こういう面白そうな話なら大藤殿も乗ってこよう。
まずは、大藤信基殿と話をして乗ってくるようであれば我ら二人で傅役志願ということで殿と長綱様に願い出てみるとしよう。
あ、今は出家して栄永殿であったな。
よし、そうと決まれば早速にも大藤殿のところへ赴くとしよう。
いやはや、楽しみであるな。
---西暦1542年(天文11年)11月小田原城
見た目は子供、頭脳は大人でどこかの名探偵みたいな松千代丸です。
5歳になりました。
しつこいようだけど、数えなんで現代日本的にいえば4歳くらいだろう。
昨年に爺ちゃんが亡くなって悲しい思いをしていたところ、今年には長らく調子の悪かった為昌叔父上も亡くなられてしまい悲しい思いの多いこの頃。
ただ、やっぱりまだまだお子様の身。
出来ることといえば、ボウリングこと転球で新九郎兄上と遊ぶくらいだな。
最近、ようやく2~3本は倒せるようになってきたぜ!
新九郎兄上は新記録の7本まで達成していたけどな……
あとは藤菊丸の様子を見にいったりしているくらいか。
藤菊丸も段々と動けるようになってきたんで可愛いったらないね!
後の氏邦である乙千代丸も今年になって生まれてきてそっちも様子見にいったりするけど、なにしろ生まれたばかりだもんね。
何があるってことは無いけど乙千代丸も可愛らしい。
将来的に史実のようなDQNな気配のある氏邦にならず素直な良い子に育って欲しいもんだ。
さて、実は今日俺はあるおっさんどもに付け回されている。
まさかこの戦国の世でストーカー被害にあうとは思いもしなかったぜ。
いや、こそこそせず堂々と部屋に来ているからストーカーでは無いか。
付け回されているというより監禁被害か!?
今日から松千代丸様の傅役になりもうしたなどと訳の分からんことを言っているおっさん2名。
この時代ならではの傅役ってやつは大名の子息に有力家臣が指導することで子供の成長と、将来信頼できる家臣になるという戦国ならではのシステムだ。
新九郎兄上にも勿論ついている。
兄上には大道寺家と清水家から人がでている。
父上と長綱大叔父上と家老の皆さんが評定で決めたようだ。
それは俺に関係ない話だし、兄上も色々大変になりそうだなーと思ってたくらいでそれはいい。
だが、なぜ俺にももう傅役が来る?
早くねえか?
「松千代丸様、いかがいたした?」
木工職人、北條レンジャーブラックなちょびヒゲ親父が何か言ってる。
「いえ、周防守殿。なぜここへ参られた?先ほど、傅役とか聞こえた気もするけど気のせいではないでしょうか?
北條レンジャーブラックが応える前にもう一人のおっさんがずいっと前に出てきた。
「わっはっは、松千代丸様その御年で耳が遠くなるとは先が心配ですなあ。間違いござらんよ、我ら2名松千代丸様の傅役に本日より就任いたした!」
声がでけえ。
そして、北條家では数少ない上方なまりなイントネーション。
大藤栄永、いや有名な言い方で言えば根来金石斎殿。
根来衆出身で、将来的に北条家にその伝手から鉄砲をもたらず人物だ。
北條家では軍師兼、足軽衆という現在でいうところのゲリラ部隊のような部隊を率いている人物だ。
活躍を爺ちゃんに認められていて相模国中郡郡代に任じられて田原城(現在の神奈川県秦野市)の城主にもなっている。
他家だと足軽といえば普通の一般兵を指すが北條では工兵や隠密要素の強い特殊部隊のことを指している。
ややこしいから名前変えた方が良い気もするよなあ。
根来金石斎殿は外様ながら北條家では軍師であると共に、実績の多い武将の1人でもある。
そんな軍師コンビに詰め寄られている松千代丸君5歳。
「いやあ、拙者は松千代丸様の考案された転球にすっかり感じ入りましてな。殿、長綱様に願い出て松千代丸様の傅役に願い出た次第でござる。転球は今や家中でも大変な人
気でござるぞ?なにしろ鞠を転がし、木柱をなぎ倒す様が爽快、まして憎き上杉をなぎ倒す気分になれますでな」
それはあんたの木工のせいでしょうよう……
「さようさよう、某は周防守殿に誘われましてな。今や家中で人気の転球は松千代丸様が考案されたものと聞いてその発想の奇抜さに興味を持ちましてな。我ら二人が傅役と
なって軍略を教示できれば将来の北條家では東国一の軍略家になるのではないか?という多目殿の言葉に惹かれた次第で。御屋形様、長綱様からの許可も取っておりますゆえ
ご安心めされい。儂と多目殿の両名、本日より松千代丸様の押しかけ傅役となりますゆえよろしくお願い致しまする」
余計なお世話です、いやほんと。
俺が嫌そうな目で二人を見ているとちょびヒゲ親父が満面の笑みで口を開く。
「いやあ、少々早いかもしれませぬがそろそろ殿に願い出てなければ他の方に傅役の座を取られていたかもしれませぬゆえ。転球の人気からその発案者が松千代丸様というの
は徐々に知られており申す。先日も綱成殿が転球の発案者が松千代丸様と聞いて感心されておられた次第で」
思わずビクっと反応してしまった。
あのこわーーーい叔父上ですか。
「ここで我らが申し出なければ綱成殿に先をこされるやもしれぬと思いましてな、こうして慌てて傅役を願い出た次第でござる」
正直、傅役とかめんどくせえと思うけどこわーーーい叔父上に就任されるよりはこの2人の方がましか……
まぁ、前向きに考えれば北條家中ではこの二人というとかなり良い方だろう。
中身が大人な俺からすれば学ぶ必要があるのは軍略やこの時代ならではの常識、武家社会の実態などなど。
冷静に考えればこの2人に指導をもらえるというのは非常にありがたい話なんじゃなかろうか?
俺の安全な老後にも繋がるし、2人に頼んで家中のことや他国のことに干渉できるようになるかもしれない!
叔父上が怖いからじゃないよ?
ほんとですよ?
気持ちを切り替えると背筋を伸ばして二人を見た。
「周防守殿、金石斎殿、お気遣い誠にありがとうございます。北條松千代丸、本日より御二人のご指導を仰ぎとうございまする!今後、どうぞよしなにお願いいたす」
俺が頭を下げて礼を尽くすと2人も真面目な表情に切り替わった。
「我ら両名こそ、押しかけで申し訳ございませぬが松千代丸様を坂東一の軍略家に育てさせて頂きまするぞ!」
「左様左様、こちらこそ今後はどうぞよしなにお願いいたす」
こうして、俺は傅役の多目元忠・根来金石斎というこの世界での最初の先生を得ることになった。
今回、北條軍師の2人が傅役就任したことで氏政くんが大人の人に意見や相談を言える状況にようやくなりました。今後は2人の指導を受けながら色々と動いていくことになるでしょう。
もっと、キャラ立たせて文章のクオリティを上げていきたいところですがまだまだ時間がかかりそうです。
皆さま方のご指導誠にありがたい限りです。
今後もこつこつやっていきますので、どうかよろしくお願いいたします。




