第12話
半年以上空いてしまいました。。。
仕事忙しさなど色々理由はつけれますが、言い訳ばかりのため自粛(汗)
文書クオリティも以前相当か自信がありませんが、書いていかないことにはエタるばかりになりそうですのでどうにか書いてUPしてみました。
今後見直して修正したくなったらこっそりいじるかもしれません(苦笑)
輝け、栄光の三つ鱗 第12話
---西暦1544年(天文13年)2月
「松千代丸様、失礼致します」
机に向かって押しかけ傳役からの課題に取り組んでたところ部屋の外から聞き覚えのある声が聞こえた。
「富永直勝でござる、松千代丸様にご紹介したい御仁が御座い罷り越しました」
俺も数えで7歳になった。
最大課題だったこの時代の文字も読めるようになってきて、今日は課題である孫子を読みながら写本作業をしているところだった。
「富永殿、どうぞお入りください」
俺は課題に使っていた道具を整理して声の方に身体を向けて座り直した。
いつも丁寧で俺たち子ども勢に対してもいつも穏やかに接してくれる富永殿はいつだって大歓迎だ。
「では、失礼致します」
そういって部屋に入ってくる五色備え・青を率いる御仁。
相変わらずプロレスラーかというごつさで一瞬圧迫感を受ける、しかしいつもの笑顔で安心感を醸し出している富永殿。
「ご無沙汰しております、松千代丸様におかれましてご健勝そうで何よりでござる」
そして、続けて入ってくる背の低い白髪まじりの老人。
富永殿が紹介といっている以上、当たり前だが今まで見たことの無い人物だった。
「松千代丸様にはお初に御意を得まする。宇野定治で御座います」
宇野定治。
外郎家の長で、薬作りの家にして菓子作りの家の長。
そして、実のところ北條家における上方への外交官である。
『酒伝童子絵巻』、現在では東京のサントリー美術館に保存されている絵巻がある。
実はこの絵巻物は爺ちゃん、つまり北條氏綱が製作に取りかからせたもので当時の一流文化人の協力を得て完成している。
絵は狩野元信、文や詩は当時の太閤近衛尚通を始め法務大僧正公助に尊鎮法親王。
奥書は三条西実隆が請け負うという当時の一流どころの協力を得ている。
その交渉や取次ぎを行っていたのが目の前の老人、宇野定治だ。
京都の外郎家とのつながりもありこの頃の上方方面への外交官としては非常に強い存在感を持っている。
「宇野殿、初めまして北條松千代丸で御座います。今後どうぞよろしくお願いします」
この御仁に今のうちに面識を得れたのは大きい。
将来的に外郎家には色々と動いてもらう必要が絶対に出てくる。
そして何より……お菓子を食べれる確率が上がる!!
「手前にもご丁寧に恐れ入りまする。こちらこそ是非よしなに願います。以前富永殿から新九郎様、松千代丸様が当家のういろうを大層気にいって頂けたと伺っており一度お目通りさせて頂こうと思いつつなかなか上方の方の所用などかございまして遅れ遅れてしまった次第でして誠に申し訳ございませぬ」
「いえいえ、とんでも御座いません。新九郎兄上にはもう会われましたか?」
兄上と一緒にういろうを食べたのはもう随分昔の話だ。
富永殿は紹介してくれると言っていたが肝心の宇野殿がどうしても小田原にいないことが多く長らく実現せずたびたび富永殿からはお約束したのにままならず申し訳ないと謝られていた。
外郎家の仕事を考えると仕方ないし富永殿の責任でもないのに律儀な方だと思っていたものだ。
また、ちらほらとういろうを差し入れてくれて餌付けされてるんじゃないか?って気もしていたのは秘密だ。
「はい、先ほど。凛々しく聡明であらせられる御方でございました。北條家の将来も安泰で御座いますな」
笑みを浮かべるとしわが目立つが、それが愛嬌として受け取れる気分の良い笑顔で答えられた。
自慢の兄が褒められるのは自分も嬉しい限りで思わず口元がゆるむ。
「宇野殿、兄上をお褒め頂きありがとうございます!私としても自慢の兄上でしてお褒め頂くと自分のこと以上に嬉しい気持ちがございます」
「松千代丸様はほんとうに新九郎様のことを慕っていらっしゃるんですな、いやはや家中が仲良いというのは非常の素晴らしいことで御座いまする」
「宇野殿、誠に左様でございますな。松千代丸様、宇野殿。まずはご一服を。こちら白湯にござる」
いつの間にか富永殿が白湯の準備をしていた。
もちろん、本人ではなく富永殿の指示で小姓が準備していたのだが。
皆、とりあえず湯呑をとって白湯に口をつけた。
「ところで、宇野殿。実はちょうど貴方に相談させて頂きたいことがございました」
宇野殿が白湯を一口飲みおわったところで俺は口を開いた。
前々からどうにか進めておかないといけないことがあったのだが、よくよく考えると今目の前にいる老人ほど北條家中において適任者がいないことに気づいたのだった。
「実は、先日お爺さま。いえ、春松院様(北條氏綱の戒名)が私の夢枕に立たれたのです」
「なんと、春松院様が!?そのことはもう殿にはお知らせされたのでしょうか?」
「いえ、私もただの夢なのか本当に春松院様が意図あって夢枕にでてこられたのかが確証が持てずまだ誰にも言っておりませんでした。ただ、本日医師であり薬師である宇野様がいらっしゃった事でお話してみるべきかと思った次第でございます」
「左様でございまするか。承知致しました、医学薬学に関わることでございましたら手前でも御役にたてるかもしれませぬ。心して伺いたいと思います」
「ありがとうございます、宇野殿。では、話をさせて頂きます。戦で傷がついた際など人や馬の尿などをかけておりますな」
現代から考えると驚く話ではあるが実際に、この時代消毒に人尿・馬尿・馬糞などが利用されている。
なんでも合戦時に怪我をした人に尿をかけれる人は、戦の時に人に向けて尿を出せる豪胆な者だと褒められたというからわけわかんねえ。
「左様ですな、それを貯めておく尿筒などもございますれば」
「これがどうも、あまり効果が期待できないようなのです。ただ、それに変わる方法があるそうで春松院様は死後の世界で薬師如来様から教えられたものの北條の人間に伝えねばおちおち成仏も出来ぬと誰かに伝えることが出来ないかと試みていらっしゃったところ偶然私の夢枕に立てたと仰っておりました。ただ、私もにわかに信じがたい話で戸惑っておりました。ただ、今日ここへ薬学に強い宇野殿がいらっしゃったのも何かの思し召しと思い話をさせて頂いております」
「なるほど……、申し訳ございませんが失礼なことを伺います。松千代丸様は夢枕に立たれたのがなぜ春松院様だとおわかりになったのでしょうか?」
少し考えた後で宇野殿はこう尋ねてきた。
なんで確信を得たんだ?って意味合いでの質問だなと判断して用意しておいた内容で回答する
「そうですね、見た目は私の記憶にある元気なころの春松員様だったことが1つ。そして決定的だったのは夢枕に立たれた間変わりの方法を教えて頂く間に4回も里見の外道どもだけは絶対に誅滅すべしとしつこく申されていらっしゃいましたゆえ……」
ごめんよ、爺ちゃん。成仏されたはずの人をまだ俗世執着あるように言っちまって。
でも……、あの世でも言ってそうなんだよなー。
「むむ、そ、それは確かに春松院様と納得してしまいます。失礼致しました。それでは方法というのを伺ってよろしいでしょうか?」
おいおい、宇野殿も納得しちゃったし。
「はい、何で作った酒でも良いそうなのですが酒を熱してその蒸気を集めたものを液体にするそうです。これを蒸留というそうなのですが、一度蒸留して集めた液体をさらに何度か蒸留することで非常に酒精の強い液体ができあがるそうです。この液体を傷口にかけるのが破傷風の対策などにも効果があるようなのです」
消毒用アルコールだね、これはなんとしても初陣までに実用化したい。
だって、嫌だよ……。怪我して小便かけられるのなんて。
「なんと、蒸留!?そのような方法があるとは寡聞にして存じ上げませんでしたがどのような設備があればできるのかもちと想像もできませぬな」
実は蒸留器はランビキという原始的なのが16世紀中頃に入ってくる。
江戸時代説も含めて諸説あるもののすでに世の中には存在していて琉球あたりなら存在しているはずなんだ。
「それが、実は南蛮の方ではすでに使われている技法だそうで琉球の方などにはあるのでは無いかとの事で御座いました」
薬屋にして外交官、色んなところに伝手のある宇野定治。
この人以上に早期に蒸留酒の開発が出来る人が北條家中にいると思えない。
とはいえ、多忙なこの人がこんな胡散臭い話を対応してくれるかどうか……。
「なんと!すでにそのような設備が存在しておりまするか。なるほど、承知致しました。時間がかかるやもしれませんが伝手をあたって調べてみたいと思います」
「ありがとうございます!正直に申しあげまして宇野殿に断られたらどうしようかと心配しておりました。快諾頂けて肩の荷が下りた心地で御座いまする。宇野殿が御多忙なことは重々承知しておりますゆえ、お手すきの時にでも動いて頂ければ何よりでございます。どうぞよろしくお願い致しまする」
この会談から1年の後、宇野殿は見事にランビキを入手しさらにその1年の後には蒸留酒の開発に成功する。
開発した蒸留酒は傷の消毒用として開発される一方、蒸留回数の少ないものは飲用酒として使用されていくこととなりそのことが北條家の予定を大きく変える一因になるがそれはまた別の話である。
せっかく小江戸川越まで行ってきたので早く河越夜戦を書いてみたいのですがなかなかハードルとプレッシャー高くなかなか手がつけれそうにありません。。。