第97話 俺、vsリン
ひぐらしの鳴き声を背に聞きながら、コロッセオの中央で腕を組み待ち続ける。
「ネメシス、俺がここに着いてから何分経った?」
「ゲイン様がここに降り立ってから20分が経過しようとしています」
「長くなぁい? まさか温泉に浸かったまま寝てるんじゃねぇだろうな?」
「その可能性はないかと」
「なんで?」
俺が顔を顰めると画面右上部にミニマップが表示され、紫色の斑点がこちらに向かって来てるのがわかった。
目線を正面に戻すと遥か上にある入口から人影が飛び出し、ツヤツヤした紫のツインテールを揺らし、茶色の普段着を着た待ち人が俺の目の前へと着地した。
「いや~、申し訳ないッス! 髪整えるのに思いの外時間かかちゃって!」
「結構待った。通しで良いんだよな?」
「いっすよ! 通しってタイマンの格ゲー形式のことッスよね!」
通しとはハガセンに於ける1対1のデュエルの事である。
ライフゲージとパワーゲージが表示され、ライフを削り切った方の勝ちとなる。
パワーゲージはスキルを使用すると減っていき0になると全てのスキルが使用不可となる。なお、対戦相手を攻撃することで回復が可能である。
閑話休題
「じゃ、始めっか。デュエルスタート!」
「絶対負けないッス!」
俺と彼女の上下にそれぞれゲージが横に展開された。
俺はリンから少し距離を取り、ファイティングポーズを取る。
「おっしゃ! 来いやオラァ!」
「ちょ! ターイム! ターイム!」
始めようと構えを取った瞬間、彼女は両手を振りながら声を張り上げた。
「何、折角やる気になってたのに」
「先輩の体力ゲージおかしいッスよ! なんすか白って! 普通緑色の筈ッスよ!」
「あ、これ? 別に俺の体力がゲージとして表示されてるだけだよ。バグとかじゃないから」
「いや、そういう事を言ってるんじゃないッス! なんで真っ白なんすか!」
「俺体力の値がでかすぎてその分重複してこうなってんの」
「先輩……体力どんだけあるんすか」
「聞きたい? どうしよっかな~? 別に教えてあげても良いけど戦意喪失しちゃうかもだし~」
「むッ! そんな事起きないっす! ただ体力どの位か聞いてるだけッス!」
「俺に勝てたら教えてやるよ」
「上等ッス! 先輩がどんなに体力が多かろうが勝ってみせるッス! 下剋上こそヒーロー物の醍醐味ッス! メタモルフォーゼ!!」
ピンクの眩い光が彼女を中心に発生し、光が収まると同時に紫のヒーロースーツに身を包んだ彼女が俺に向かって真っ直ぐ突っ込んできた。
炎に包まれた両拳を凄まじいスピードで繰り出してくる。
「先手必勝ォォォ! 炎神裂翔拳!」
俺は状態を反らしつつ、両手で彼女の攻撃をいなし、右足を彼女の腹部に当て脚部のミニマムブースターを一瞬だけ最大出力で起動する。
足の裏から水色の炎が上がるとリンは後方へ吹っ飛んでいき、彼女はコロッセオの壁に叩きつけられた。
「がッ!?」
「何かしたのか? 蚊に刺されたのかと思ったぜ。おら、打ってこい打ってこい」
彼女が叩きつけられた影響でコロッセオの壁は半壊し、小規模ではあるが土煙が充満しているのが見て取れた。
「なんだ? もう終わりか? サレンダーするならするって言えよ?」
俺が軽く煽りを入れると突如、充満していた土煙が風に掻き消され、リンが天高く飛び上がりきりもみ回転をしながら俺に向かって急落下し飛び蹴りを放ってきた。
「閃風蹴牙!」
「――そんな見え見えの攻撃喰らうわけねぇだろうが!」
遥か上空から繰り出されたリンの足を俺は右手で引っ掴むとそのまま地面へ彼女を叩きつける。
何度か叩きつけた後、手を離しむせている彼女を尻目に足を横たわる彼女の腹部にサッカーボールを蹴るが如く足の甲で蹴りを放つ。
「うげっ!」
「何が下克上だ! 今のお前じゃ俺に指一本触れることなんか出来ねぇよ! 片腹痛いわ!」
「ま、まだ勝負は――」
俺はリンの横に立つと身をかがめ、首を掴み上げる。
「さて、次はどんな攻撃を見せてくれるんだ? ん? 言っとくけど、お前がどんな攻撃しかけてこようが無駄だぞ? お前が覚えてる技は当然俺も覚えてるんだからな。諦めてサレンダーしな」
「ぜ――全部覚えて……ぐッ」
「至極当然の話だ。温泉でも言ったが俺はヒーローとロボットを極めた男だからな」
「ハ、ハハハハハ参ったッスね……」
「諦めたか? とっととサレンダーして――」
「で、出来ることならこれだけは使いたくなかったッス……。イア……」
「何を言っ――」
いつそこに居たのか?
気付くとリンの右肩にはコウモリの羽を生やした紫色の蛸の様な物体がふわふわと浮いていた。
「な、何だ!? その変な生物は!? 新手のモンスターか!?」
「この蛸みたいなのはあたしの師匠ッスよ」
「はぁ!? 師匠だぁ!?」
「グレートオールドワン・クトゥルフ」
リンがそう言うと、彼女の背中から8本水色のタコ足が生成され、俺の体に纏わり付いた。
「こけおどしか!? 背中からタコ足生やすのがお前の師匠の技かよ! うわああああああああ! 頭がああああああああああ!」
「あたしの勝ちッスね。先輩サレンダーして下さい。さもないと頭がおかしくなって死んじゃうッスよ!」
「はぁ!? 何ふざけた事をぬかして――うわあああああ!! くそぉめちゃくちゃ痛えええええええええええ!!」
「先輩! 早く!」
「ふざけんなあああああああ! ネメシス!!」
「承知しました。リン様失礼致します」
「え? あああああああ!!」
ヤルダバオトⅧ式から発せられた高圧電流をリンはモロに受けてその場に倒れた。
リンが倒れると同時に肩に浮いていた謎のマスコットと蛸の足は消え去っていた。
「ハァハァ……何だったんだ、あれは」
「ゲイン様」
「あぁ、そうだな。サレンダーする」
俺がそう言うとファンファーレが鳴り響きながら、画面中央部にリンの顔と無駄にキラキラしたエフェクトの付いた金色のWINNERという文字が浮かび上がった。
俺はそれを見届けるとリンのそばへ行き、軽く方を叩く。
「起きろー? 朝だぞー?」
「ん、んあ? ハッ!? 勝負!」
「いや、もう降参した。あれ何だったんだよ」
「あれは私の師匠ッスよ」
「マジで言ってんの?」
「本気と書いてマジッスね。あ~来た。あ~最悪ッス……」
彼女は徐ろに立ち上がると頭を擦り始めた。
「なにどうしたの?」
「いや、何故か師匠達呼んだ後だと必ず頭痛が起きるんスよ」
「待て、お前師匠達って言った? あの蛸の他にもいるの? 確か掛け持ちはできなかった筈だが」
「えっと、あたしの師匠たちはちょっと変わっていて複数居て1つの師匠なんすよ」
「何だそりゃ!? チートじゃねーか!」
「先輩に言われたくないッス……。他にもあと3体位いますよ。あ~……」
「そういえば師匠とずっと一緒にいると影響を受けるはず。だがお前には化け物っぽい要素はないように見えるんだが」
「あ~、それならヒーロースーツの色と髪の色ッスね。ぶっちゃけ最初は両方共ショッキングピンクだったんスよ。
でも、師匠に無理やり弟子入りさせられて徐々に髪の色とかが紫になっていったんス。最初はめっちゃ嫌だったんですけど今はもう諦めたッス」
「そう……。で、どうする? 俺の体力どんくらいか聞く?」
「いや、もう良いッスよ。それより頭痛くって……、部屋で休憩しててもいいっすか」
「アッハイ。ドウゾ」
リンは頭を擦りながらコロッセオを後にした。
「アーサーの件どうすんだ。本人行っちゃったよ」
「保留で宜しいのではないでしょうか」
「これもうわかんねぇな。さてと、じゃじゃ馬聖女様の様子を見に戻るとするか」
俺もリンに引き続く形でこの場を去る事にしたのだった。




