第87話 俺、タンクに徹する
ポータルを使い、俺達は50階層へ来ている。
暗く土臭いダンジョン内部をアーサーを先頭に俺、エスカ、エルの順番で進む。
「良いかアーサー? 俺が雑魚のヘイトを稼ぐから、その隙きに弾銃とキクリヒメを使って敵をぶっ倒せ。まずは弾銃を呼び出してみろ」
「ハイ! わかりました! 来い!」
アーサーが叫ぶと彼の目の前にワイヤーフレームが現れ、銃身の切り詰められた金色のド派手な上下2連ショットガンが生成された。彼はそれを左手でしっかりと掴む。
「よし、そいつの特徴を簡単に説明する。本来銃は弾を発射し、離れた敵に物理ダメージを与える為生まれた武器だ。だが、弾銃のタイプの銃はその本来のコンセプトと真逆の道を進んだ銃だ」
「ど、どういう事でしょうか?」
アーサーは首を傾げながら俺の方を見る。
「弾銃は至近距離で撃つ為の銃って事だ。一度に撃てるのは2発まで。リロードする度に魔力の1割を消費する。MAX状態で20発撃つことが出来る」
「え、えっと……」
アーサーは混乱しているのかあたふたし始めた。
「難しく考えるな。リロードは自動で行われるし、属性毎の特殊なバレットを使用でもしない限り弾を一々込め直す必要もない。お前の指に掛かっている引き金を引くと敵が蜂の巣になる。最大で20発しか撃てない。この2つだけ頭に入れとけ」
俺が話し終わるとダンジョンの奥から小柄な緑のゴブリンが2体現れた。ボロボロの胸甲を着込み、粗末なナイフを振りかざしながら俺に近づいてくる。
「ほら、何事もまずは経験。俺に向かってゴブリンが近づいてきているな? 弾銃をゴブリンに向かって撃ってみろ」
「ハイ!」
アーサーはゴブリンに向かって弾銃の引き金を引く。
けたたましい発砲音がダンジョン内に響くと同時に黄色いエフェクトの散弾が銃口から発生し、ゴブリンの右腕に命中した。
ゴブリンの腕は衝撃で千切れ飛び、肉塊と化しす。
片腕が無くなったゴブリンは声にならない悲鳴とも叫び声とも付かない声をあげながらアーサーヘ向かって走り出した。
「うまく当りませんでした!」
「言っただろ? そいつは至近距離で撃つ事で真価を発揮するんだ。丁度キレた奴さんがお前に向かって来てる、今度は至近距離でドタマぶちかましてやれ」
ゴブリンがアーサーに向かって飛びかかる。
「ギャアアアアアアア!! ギ――」
アーサーは飛び掛かってきたゴブリンの顔面に弾銃をお見舞いした。
光の散弾が命中し、ゴブリンの舌顎から上が弾け飛ぶ。首なしになった胴体がダンジョンの床に叩き付けられるかの様に落下する。
「すごい! これなら剣で戦う必要なくなるんじゃないですか!?」
「いいや、そんな事は絶対にない。それぞれの武器には必ず優劣がある。こいつだって確かに至近距離での破壊力はお前にやった魔剣での斬撃を大きく上回る。
だが、弾数は2発ずつしか撃てず魔力を消費し、リロードという名のディレイがある。その時は1発も撃てなくなるし隙を晒す羽目になるんだぞ? だったら剣でぶった切った方が早いだろ?」
「確かに……。では、何故僕にこの弾銃を使えと?」
「魔力の管理を覚えてもらう為だ。一心不乱に剣を振るだけでは強くなれんからな。それにお前、攻撃系の魔法覚えてる癖に使ったの俺に初めて会ったあの時だけじゃん」
「あんまり、魔法って得意じゃないので……」
アーサーはしょんぼりしてしまってた。
「まぁ、しょげるな。別に責めてる訳じゃないんだ、とにかく武器には優劣があるってこった。魔力の管理を覚えたらまた新しい装備やらスキルを教えてやる。それにお前は間違いなく銃のセンスがあるぞ? 今ので確信したお前のエイム力は大したものだ」
「そ、そうですか!? えへへへ」
アーサーは一瞬で目の輝きを取り戻した。
現金な奴だな〜、本当に。ちょっと遊ばせて見るか
俺はアジュラスⅦ式のスキルであるリクリエイトダンジョンを起動させ、モンスターのポップを設定する。すると、ダンジョン奥から土塊で出来た少し大きめの人型モンスターが3体現れ、ゆっくりと俺に近づいてくる。
「あれ〜? 新種のモンスターが出てたぞ。あれはクレイドールだな。ゴーレムの出来損ないだ。さ、君達全員でやっておしまい」
「遂に新しいモンスターが!? 行きます!」
「私も行かせて貰おう! 次にお兄様に褒めて貰うのは私だー!」
「じゃ、残った方は……私が……やる」
各々自分が定めたクレイドールに向かって攻撃を開始した。
――しかし一向にクレイドールの撃破には至らず、いたずらに時間だけが過ぎていった。
「な、何故だ!? 何度も斬りつけているのに手応えがまるでない! 斬り落としてもすぐに再生するとは!」
「調子に乗って撃ってたら10発切っちゃいました! 剣で斬っても斬っても倒せません! 一体どうしたら――」
「クレイドール……ゴーレムのなり損ない……。ゴーレムの弱点は確か……」
アーサー達の叫びを俺は少し距離を置いた所で見守る。
「いい具合に地獄絵図ってるね〜。お?」
エルがAEWを使い背に浮いているすべての武器をクレイドールに向かって投擲し、炎を纏った剣が左足に突き刺さると同時にクレイドールは朽ちていき、砂の様になってしまった。
「弱点……わかった! 左足を攻撃して!」
「左足か! ハッ!」
「くらえ!」
皆一様にクレイドールの左足を攻め始める。エスカのニーベルングスレイヤの伸びた剣先が足を突き、アーサーも同じく剣先を足に突き刺した。
ほぼ同時に2体のクレイドールは砂と化す。
「ナイス連携。いや〜中々早かったな、次は――」
俺が次のモンスターを召喚しようと準備しているとダンジョンの奥からまた一体クレイドールが出てきた。
え? もうダンジョンが最適化したの? いやに早いな? おまけに小さくないか? 人間とほぼ変わらんサイズなんだが?
「また現れましたね! 覚悟!」
アーサーが剣を振り下ろした瞬間、クレイドールが上体を反らしそのままアーサーへ覆いかぶさる様にタックルしたように見えた。
「何だあの動きは!? あんなクレイドール俺は知らんぞ!? 亜種か!?」
「あれはモンスターではないの。あれは恐らく人間じゃ。どのモンスターともデータベースに一致しないのじゃ」
「何!? ストーップ! アーサー! ストーップ!!」
俺はクレイドール(?)の下敷きになっているアーサーの元へと急ぐ。
「お師匠様助けて下さい〜」
「何やってんの……お前」
何故かアーサーはクレイドール(?)にガッチリホールドをくらい抜け出せなくなっていた。
「離れてくれないんです〜。おまけに僕の匂いを嗅いでるみたいなんです〜」
「どういう事なの……。えぇい、1回離れろ! クリーン!」
俺は汚れきった全身をクリーンで綺麗にする。目の前には紫のツインテールをした女の子がアーサーに抱きついていた。
「お、お前は!?」
「もう何スか? 綺麗にしてくれたのは有り難いッスけど、いきなりクリーンぶっかけるなんて非常識ッスよ。一言言って欲しいッス。ん? あー! その声先輩じゃないッスか! やっと会えたッス!まさかアーサーきゅんに出会えたと思ったら先輩も会えてラッキーッス!」
アーサーに抱きついていたクレイドールは王都で出し抜いた筈の、あの紫ツインテールの町娘だった。
◆◆◆◆◆◆
巨大な教会の内部に薄水色のローブを着用し、目の辺りだけ黒く塗られた白い仮面を付けた幾人もの人が手を合わせる。
その先には金色の眼に水色の水滴のマークデカデカと描かれた真っ白なローブを着込む豚の様に肥えた男性とその隣には同じくシンボルマークがデザインされたアイマスクをし、口に薄水色のギャグボールをはめた少女が立っている。
そんな異様な雰囲気が支配する教会内で1人の信者が2人前に姿を表した。
ピンクのロングヘアーに前髪が青いメッシュの入った髪をした信者は2人の前に跪く。
「偉大なる教王様! 教王様から授かったお言葉を私めは無下にしてしまいました! 死してお詫び致します!」
信者は懐からナイフを取り出すと自らの首に突き立てる。赤い鮮血が噴水の様に吹き出ると信者はそのまま2人の前で事切れた。
「おぉ、何たる事か。聖女様は貴女の全てを許して下さいます。あぁ、皆さん! 見てください! 聖女様が泣いておられる!」
男は聖女と呼ばれる少女に伝っていた涙を指で救うと、血溜まりの上で事切れている信者の首に手を伸ばし、涙をぱっくりと開いた傷口に付けると、みるみるうちに傷が塞がっていき信者の口が動き出す。
「わ、私は……」
「迷える子羊よ、さぁ立ち上がるのです。貴女は聖女様の奇跡によって復活したのです」
「教王様! 聖女様! この御恩は一生忘れません!」
信者は自分の元いた位置へ戻っていく。
「さぁ、今日は聖女さまの予儀の日です。皆さんと新たな未来を切り開きましょう!」
男が聖女のギャグボールを外すと口を動かし聖女は喋りだした。
「く……黒き姿……破壊……の……権化来たりし時……全て……は水泡となる……であろう」
教会内がにわかにざわつく。
「せ、静粛に! これは……そう! 計画を早めよとの聖女様からの警告である! さぁ、皆で浄化計画の第一歩を歩もうではありませんか!」
「「「「教王様! 聖女様! 万歳!! 教王様! 聖女様! 万歳!!」」」」
信者達の合唱が不気味に響き渡り続ける教会内で、男と聖女の後方に全長70メートル程ある、超巨大な白き鋼鉄の天使が皆を見守るが如く鎮座していた。




