第86話 俺、朝飯を喰う
「んぁあ〜、くっそ……、ふざけんなよなマジで。まさか腰痛みを緩和する為だけにヒールを使う羽目になるとは。
おまけにエルの奴は散々あの体位がどうのとか、一々指示してきやがって……。何で48手の事知ってんだよ、この世界の性知識どうなってんだ……」
俺はベッドから躰を起こす。
隣ではエスカが寝息を立てながら眠っている。昨晩のこいつのハッスルでぐちゃぐちゃになったベッドは寝ている間に綺麗に直され、脇には同じく綺麗に畳まれた服が置いてあった。
俺は微かに花の匂いが香る服を着てそのまま目を閉じ、一旦息を調えて口を開く。
「外着」
躰に軽い衝撃が走り、目を開けるとアジュラスⅦ式への着装が完了していた。
「おはようなのじゃ。お前様」
「イザナミ、おはよう。ダンジョン内はどうだ? 冒険者達の調子は?」
「うむ。お前様があ奴等に知識を与えたことで少しだが、変化が見られれるようになったのじゃ。まず、ダンジョンそのものによる隠し部屋の発生。そして50階層からスカルナイトが出没する様になったのじゃ」
「スカルナイトかぁ。もうちょい強いのが良かったなぁ。でも、知識を与えて1日でこの変化は素晴らしいな」
俺は腕を組みうんうんと頷き、作戦が上手く行っていることに嬉しくなった。しかし、イザナミは対照的に首を傾げる。
「しかし解せんのじゃ。隠し部屋が自生された、これはわかる。じゃが、スカルナイトが出没しだしたのは何故じゃ?」
「わからないか? 良いか? 俺は冒険者にハクスラの醍醐味を教えた。それはズバリ、アイテムの獲得。いわば、運否天賦に身を任せたギャンブルをやってる様なもんだ。隠し部屋を仲間と協力して発見し、激レア装備を発見した時の高揚感と中毒性たるや、パンパンに水の入った水風船が破裂した瞬間の如く、頭ん中の脳汁が弾け出る! この快感を知ったらもうやめられない止まらない」
「それがスカルナイトの出現とどう関係がありのじゃ?」
「単純な話よ。皆50階層行く前に飽きてやめちまってた。ただ、それだけ。ハクスラの魅力に気付いたから皆深く潜る様になって、スカルナイトが日の目を見る事と相成ったという訳だ」
イザナミの目が白黒している。
「それだけ?」
「まぁ、俺の持論だけどな。ぶっちゃけ俺達には関係ない話だろう。アーサー達には朗報だろうがな。そろそろ一緒に行動しても良いかもしれん。まぁ、場合によってはまた独断専行させて貰うけど。さて、エスカをか起こすか」
俺はエスカの枕元まで行き肩を揺する。
「エスカ朝だぞ〜? 起きろー」
「ん……お兄様ぁ」
半眼を開けたエスカが俺に凭れ掛かってきた。
「おっと、役得〜。いい加減起きろー」
「なななな何故こやつは全裸なのじゃああ! あたいに抱き付くなぁ!」
「まぁ、昨日よろしくあったから多少はね?」
エスカは昨晩ハッスルした後にそのまま気絶する様に寝てしまった為、今の彼女は何も履いていない。
イザナミの病的なまでに白い顔がピンク色になっていく。
「破廉恥なのじゃ! 不潔なのじゃ! ガッデムなのじゃああああ!」
「え、お前花魁さんみたいな格好してるのに裸とか苦手なの?」
「こんなの得意であってたまるかぁ!? あたいはナイーブなのじゃああああ! とっとと起こしてくれええええ!」
「自分でナイーブって……。ああ、もうわかったわかった」
キャンキャン喚き散らすイザナミを無視し、俺は指を鳴らす。するとエスカが目を覚ました。
「ん、お兄様! おはようございます。 今日も頑張りたいと思います」
「おはようさん。悪いけどすぐ着替えてくれないか? とり憑いてる妖精ちゃんが、お前のナイス過ぎるプロポーションに嫉妬しててうるさいんだ。おっぱい大きくて羨ましいだって」
「ありがとうございます。こんなものあっても特に意味はないと思いますが?」
「さ、さぁ、それはどうでしょうかね。俺は堪能させて頂きましたが」
「お兄様に喜んでいただけたのであればそれで……」
「そ、そう? いや〜何か悪いね」
「いい加減早く離れるのじゃあああ! もう我慢の限界なのじゃああああ!!」
俺が照れていると顔をピンクから真っ赤になったイザナミが涙目になりながら訴えかけてきた為、流石にやり過ぎたと思い、俺はエスカから離れる。
「じゃ、朝飯作って待ってるから、着替えたらバーに来てくれ」
「わかりました」
俺はエスカの部屋から退出し、階段を降りる。ロビーには誰もおらず静寂が支配していた。俺はそのままバーへ直行する。カウンターへ立った俺は手を翳し、詠唱を開始する。
「クッキングクリエイト! 朝飯Aコース!」
俺がそう言うと虹色の光が発生し、大きめの皿に乗ったまるパンが3つずつ、それに黄色と赤色の液体が入った小瓶が出現した。
「あいつ等の分完成! よし、次! クッキングクリエイト! M.U.T.K.G定食!」
虹色の光が再び発生し、木目調の箸、水色の茶碗に入った白米、赤いお椀に入ったワカメの味噌汁に黒い小瓶。そして俺のもう片方の手には卵が現れた。テーブルの角に卵を軽く叩き、トロリとした黄身を熱々のご飯の上に落とし、箸で黄身を溶かす。
程よく溶けて液状になったところで小瓶を手に取り、醤油をかける。
「よし、仕上げだ」
俺はインベントリの調味料タブからかつお節を取り出し卵かけご飯の上にふりかける。
目を閉じ、意識を集中させ手を合わせる。被っている帽子を外すとペストマスクと顔面を覆っている鉄仮面が液体になり、服の中へ溶け込んでいくかの様になくなり顔面が露わとなった。
帽子を隣に置き、カウンターに立ったまま、俺は茶碗を持つと箸を使い一気に口の中へとかき込む。
立ち食いである。
口の中で高カロリーの波状攻撃が行われているのを感じながら一心不乱に卵かけご飯を喰らい、ワカメと豆腐を浮かべた味噌汁を飲み、一気に胃袋へと流し込む。この工程を4回程行い、俺の戦いもとい、朝飯は終了した。
再び手を合わせ、高らかに宣言する。
「ごちそうさまでした」
帽子を被ると俺の顔面は再び鉄仮面に覆われた。ペストマスクも自動的に現れ、鉄仮面に着装される。
ペストマスクが着装されたその時、物音が聞こえ、その方向を向くと、アーサー、エスカ、エルの3人が入口で俺の方をガン見していた。
「なんで入ってこないの?」
「いえ、何かとても入っちゃいけない雰囲気だったので……」
アーサーが申し訳なさそうにこちらへ近づいてきた。それを歯切りにエルとエスカもバーへと入ってくる。
「いや、別に良いよ。お前達用の朝飯も作ってある。まるパンだけど良いよな? ストロベリージャムとマーマレードとバターがある。好きなの付けて喰ってくれ」
3人は席に座ると好き好きに朝飯を食べ始めた。
なお、M.U.T.K.Gとはめっちゃ美味い卵かけご飯の略である。
ハガセンにおいてM.U.T.K.Gは早い安い美味いの3つでコスパ最強の料理であり、別名3種の神器と呼ばれている。
朝食も終わり、一息付いている3人を前に俺は口を開く。
「お前らに言っておくことがある。今日から俺もダンジョン攻略へほんの少しだけ参加させてもらう事にした。ただし、俺は一切モンスターに手を出さない。言うなればヘイト稼ぐだけのタンクをやろうと思う。」
「本当ですか!? 嬉しいです!」
アーサーがテンション高めに俺の方を見ている。
「少し確かめたい事が出来てな? それにお前に伝授させた弾銃とファランクスの特性や使い方について詳しく教えてやる」
「ハイ! よろしくお願いします!」
「よろしくされました! そうと決まれば、いざ往かんダンジョン攻略へ!」
俺達4人はホームの出口へと意気揚々と向かっていくのだった。




