第72話 俺、後任の儀に向かう
俺は画面下部に映るデジタル表記の時計をちら見しながら全速力で走っていた。
「あんの司教とか言う奴に絡まれたせいで時間がない! 10時まで後4分弱!! ネメシス! 城までの最短距離を割り出してマップに表示しろ! これだからカルトは大嫌いなんだ!」
「承知しました」
俺がそう言うと地面に赤い線が浮き出るように表示された。
「よし、ちょっと本気だすか」
俺は脚部のミニマムブースターを起動させ地面を滑るようにして加速し、線にそって地表すれすれをかなりのスピードで滑空しながら進む。
ネメシスが示してくれた最短距離のおかげで城の城門はすぐ俺の前に現れた。
俺は勢いそのままにエルとアーサーを抱えたまま、城の城門前でジャンプし城門を飛び越え城の敷地内へと入る。後方を見ると口をあんぐりと開けた門番が目に入った。
「すまん、門番くん! のっぴきならない事情があるのだ! お勤めご苦労!」
門番へ対し陳謝の言葉を述べながら城内へと入った俺はエスカの居場所を聞くため、適当なメイドに肩ポンする。
「メイドさん、エスカから10時に来いと言われたんだが何処に居るか知ってる?」
目の前のメイドさんはピンクのボブカットに、前髪が青いメッシュの入ったドギツい色した髪の女性だ。
「はい、存じております。王立騎士団の皆様は大広間で10時から後任の儀を行う予定です」
「大広間ってのは何処にあるんすか?」
俺がそう言うとメイドさんはある一方を指を差し出した。
「西の通路を進み、7つ目の扉が大広間になります」
「サンキュー、メイドさん!!」
俺はメイドさんに感謝の意を述べ、そのまま7つ目の扉の前へと進んだ。
言われた扉は何の変哲もない木製の扉だった。
俺は脇に抱えていたエルとアーサーを降ろし、恐る恐る中を確認すると大広間には左右に別れ、同じ甲冑に身を包んだ騎士達が並んでいた。奥の方に純白ドレスの王女様、それに跪く紅い甲冑を身に着けたエスカが見える。
「やっべ、これ出遅れたんじゃねーか? なんかスゲー雰囲気なんだけど」
「今すぐ入りましょう!」
アーサーの提案に意を決し俺は扉を開け大広間へと入る。大広間の内部は大きめの体育館一個分程のデカさがあり、殆どが騎士団の人員で埋まっていた。
予想よりかなりの多さだったため、俺はあっけに足られてしまい歩を進める足が止まっていた。
「機甲騎士ゲイン、私の前へ」
王女様の一言で我に返った俺は再び歩を進め、エスカの隣で足を止めそのまま跪く。
俺達が跪くと後ろの方からの騎士達のヒソヒソ話が漏れ聞こえてきた。
『かの御仁が噂の機甲騎士か、ほんとに全身漆黒の鎧とは』『あれが勇者アーサー。何でも反逆者のロンメルを討ち取ったのは彼らしいぞ!』『まことか!? まだ少年ではないか……にわかには信じ難い』
アレぇ!? ロンメル倒したのアーサーの功績になってるー!? 俺はー!? いや、トドメ刺したのアーサーだけどさぁ!?
俺が内心驚いていると王女様が一歩前に躍り出たため、皆押し黙り一気に静かになった。
「只今からエスカの後任式を執り行います。剣をこちらへ」
王女様がそう言うと、大広間の隅に居たバッハっぽい髪型をした白髪のおっさんが、物々しく柄にこれでもかと言うくらい宝石があしらわれた抜き身の剣を大事そうに両手で持ちながら王女様へと渡し、また隅へ戻っていった。
「エスカ、それに勇者アーサー並びに従者達よ、お立ちなさい」
俺は遅れまいと皆に合わせて立ち上がる。
王女様がエスカの前に立つと剣を差し出し、エスカはそれを両手で恭しく受け取り後ろを向いたかと思うと、天高く剣を掲げ声を張り上げる。
「今この時より私は王立騎士団を脱退する! 王立騎士団に栄光あれ!」
「「「王立騎士団に栄光あれ!」」」
左右に別れた騎士団の面々も一糸乱れぬ動作で剣を天に掲げたかと思うと、エスカと同じく剣を掲げ、空気が振動しているかのような錯覚を受けるほどの大声が大広間に響き渡る。
それを見届けたエスカは一歩前に出ると、剣を胸の辺りまで引っ込める。
「名を呼ばれた者は私の前へ! ファース!」
「ハ、ハイ!」
左の列から一人の騎士が小走りで現れ、エスカの前へとやってくる。
彼はいつもは顔を顔を晒しているようだが今回は皆と同じく甲冑を身に着けていた。
エスカは剣をファースへ渡そうと差し向ける。
「ファース、受け取れ。お前が次の副隊長だ」
「僕なんかが……副隊長なんて……」
「自信を持て。ファース、お前は決して弱くない。お前は自分の強さに気付いていないだけだ。お前ならできるよ」
ファースがエスカから剣を受け取ると、騎士団の面々がファースとエスカを取り囲み、もみくちゃにされていく。
「いや~、青春だな~」
「機甲騎士ゲイン様? お時間宜しいでしょうか? 一段落したら私の部屋へ勇者アーサーやエスカ達を連れて来て欲しいのです。部屋の場所はエスカが知っています」
知らぬ間に俺の隣には王女様が立っていた。
「うお! あっはい、勿論。別に用事とかありませんし」
「約束ですよ」
そう言うと王女様は一人で大広間から出ていった。




