第68話 俺、再び宝物庫へ行く
人気のない裏路地へ入り、ホームへと戻った俺はパンパンと手を叩き集合をかける。
「は~い、お前ら全員俺の前に集まってー」
暫くしてアーサー、エルの二人が俺の前に現れた。
「ん? エスカはどうした?」
「それがエスカさん、先の戦いで何もできなかったのが相当悔しかったのか、あの日からずっと自室に篭っているんです」
「はぁ? 何だそりゃ? しょうがねぇなぁ」
俺は螺旋階段を昇りエスカの部屋の前に行き、扉をノックする
「おい、ダークエルフのお嬢さん? 君が来ないと話を始められないんですがね?」
「お兄様ですか? 申し訳ありません。今、手が放せないので、入ってきて頂けますか?」
「え? お、おう。お邪魔しま――」
俺が扉を開けた瞬間、汗臭いような埃臭いようななんとも言い難い異臭を感じた。
「ぐ!? なんだこの異臭は!?」
「湯浴み……と言いますか、どうも昔から水に濡れるのが嫌いなんです」
エスカの今の格好はくすんだ色のズタ袋を無理やり引き裂いてパンツとブラにしたような物を身に着けている状態でヒンズースクワットをしていた。
見ようによってはスポーツブラとホットパンツを履いた姉ちゃん見えなくもないだろう。だが――あまりにも臭すぎた。
「お前臭すぎィ! 今すぐ体洗ってこい!」
「と言われましても、湯浴みする場所など何処にも……」
「ほう! では、洗う場所があれば良いんだな!? ちょっと待ってろ!」
俺はエスカの部屋を出ると足早に螺旋階段を降りて自室へ入り、壁に備え付けられたコンソールを起動させ施設管理タブをタップしそこから温泉を追加する。
地面全体に揺れを感じた為外を見ると、ロビーの一角に赤と青色の大きな暖簾が出現した。赤色の暖簾には女、青色の暖簾には男とデカデカと書かれている。
「施設管理用のコンソール弄るの久々だわ。今となってはハガセン時代の金貨は貴重な代物なんだが、仕方がない」
アーサーとエルが騒いでいるのが目に入ったが無視し、再び螺旋階段を昇りエスカの部屋へ突撃する。
「お兄様! あの揺れは一体!?」
「さぁ! お前のために風呂を作ってやったぞ!」
「ふ、風呂ですか!? ちょ、ちょっと待って下さい! 心の準備が!」
「問答無用!」
俺は騒ぐエスカを無視し担ぎ上げ、そのまま部屋を出て女風呂に直行し巨大な湯船にぶん投げた。
「全メイド俺の下に集まれ!!」
俺がそう叫ぶとホーム内にいる全メイドたちが瞬時に集まった。
「一人二人残して、今風呂に入ってるエスカの体を頭の上から足の先っちょまで完璧に洗い上げろ! 残ったメイドはエスカの部屋の清掃だ! 行け!」
メイドたちは一切表情を変えず、コクリと頷くとエスカへ殺到していく。
残ったメイドはエスカの部屋へと向かっていった。
俺はメイド達にもみくちゃにされようとしているエスカを尻目で確認し女風呂を出る。
「ふぅ、エスカは置いといて。ハイ、今度こそ集合!」
アーサーとエルが再び俺の前に集まる。
「お師匠様これは?」
「これか? これは温泉だが?」
「急に……出来るからびっくりした」
「いや、驚かせて悪かったな。あまりにもエスカが臭ったもんでな。何なら暇な時にお前らも入ると良い。年中無休でやってるからな。温度はずっと適温だし、一切汚れないから掃除する必要もなしだ。まぁ、そんなことはどうでも良い事だ今からお前らに新しい防具をやるからな。もう前回のような失態は冒さないぞ!」
アーサーが目をキラキラさせながら俺を見ている。
「新しい防具ですか!?」
「そうだよ~。じゃ、宝物庫行ってくるからそこで待ってるように」
俺は螺旋階段を降りていき、黄金で出来た巨大な扉の前に立つ。すると、男の声が響き渡った。
『この宝物庫の前に立つ者は――』
「クソ不味い。すまん、急いでるんだ。マキで頼む」
『あ、ハイ』
宝物庫の扉が開かれ、中からタートルが現れた。
「お久しぶりですな。今日はどういったご用件で?」
「おう、タートル。今回はなんでも良い、全耐性の防具を持ってきてくれ」
「なんでも、でございますか? 男女共用、別々を含めますと軽く見積もっても1000種類以上に渡ってしまいますが?」
「えっと……じゃあ、オススメで良い」
「ふむ、宝物庫の並び順を効果毎に変えまして、ゲイン様が直にお選びになったほうが宜しいかと存じます。どうぞお入り下さい」
「そうか? んじゃ、せっかくだしそうするか」
俺は宝物庫内部へ歩を進める。内部はありとあらゆる武器防具、アイテムの山で埋め尽くされている。
俺にとっては仲間たちと共に勝ち取った思い出の品々だ。
「んと、何処かな~。お、あった!コレコレ! 【終焉ヲ導きし者のローブ】これめっちゃ汎用性高いんだよな」
俺が手に取ったローブには全耐性は勿論、あるパッシブスキルが一つだけ付与されている代物だ。
デザインは血の様に紅く黒い血管の様なものが浮き出ている禍々しいデザインのローブだ。
「エルの防具はこれでいいな。次はアーサーだ。あいつにはアレを試してもらいたいんだよな。何処だ?」
俺は宝物庫を歩き回り、銀色の何の変哲もないガントレットを手に取る。
「あー、これだ。よし、アーサーの防具も仕入れ完了! 後はエスカだな。あいつの装備って俺が中堅時代の代物だからなぁ。女性専用の装備で全耐性か。――なんか良いのあったか? う~む、さて困ったぞ? 全耐性の女性専用装備で覚えているのが2つ位しかない……」
「どうです? 探しものは見つかりましたかな?」
俺が迷っているとタートルが不意に眼前に現れた。
「おお、タートル。あのさ、エスカに似合う防具ってないかな? 俺条件に合うの2つ位しか記憶に無いんだよね」
「ふむ、その2つの防具とやらの名は?」
「【リベリオン・ヴィシュヌ】と【ダークネス・デスペアー】」
「承知しました。では持ってきますのでここで待っていて下さい」
「了解」
暫くしてタートルが戻ってきた。左右には俺が言った2つの装備がフワフワと浮遊している。
「どうぞ、こちらになります」
「ああ、うん。ありがとう」
左にあるのは漆黒の鎧で【ダークネス・デスペアー】だ。
悪魔に呪われた様なデザインをしており、紫色で髑髏が浮き出るマントが特徴。
パッシブスキルは敵を90%の確率で即死させるデス・ブレイドという漆黒の大剣が召喚出来るというものだ。
対して、右にあるのは丸い後光の様な物が特徴の黄緑の甲冑【リベリオン・ヴィシュヌ】だ
着装すると手が2本増えて4本になる変わった機能が付いてる。
やろうと思えば4刀流みたいな攻撃方法や、杖を持たせて近・遠両方を攻める事も可能になるのが利点だろうか。
パッシブスキルはカリユガブレイクという名で効果は範囲内に入った者の種族を強制的に変更されるという意味不明なスキルが使えるようになる。
「……ないな。これはない。リベリオン・ヴィシュヌは最悪モンスターに間違われる可能性あるし、ダークネス・デスペアーに限ってはヤルダバオトⅧ式と色が被ってるし、何処からどう見ても勇者御一行って感じのデザインじゃない」
「では、いかが致しますか?」
「う~ん、――あ! そういや夏限定のイベで暇過ぎてやることなかったから乱獲した女性用のアーマーがあった筈! アレ確か全耐性持ちだっただろ!?」
「去年の夏に開かれた際、ゲイン様が持ち込んだアーマーでございますね。では持ってきます」
「おう、よろしく」
タートルを待つ間、リベリオン・ヴィシュヌを身に着けた影響で手が4本になったエスカを想像し、俺は首を左右に振る。
「いや~キツイっす」
「お待たせしました」
「乙~」
タートルの横には天使の羽根が2つ付いたバイザーに上半身がビキニ、下半身が足がギリギリ見えるくらいのスカート型のドレスアーマーになった甲冑が浮いている。
偶然にもカラーリングはドラゴニック・スケイスと同じく赤をベースとした甲冑で、【ヴァルキュリアメイル(常夏ビキニアーマーバージョン)】という。
この甲冑はドキッ!! ユニークモンスターだらけの水泳大会という夏限定のイベントで一定確率で手に入るヴァルキュリアシリーズと言われている防具の一つだ。
数あるユニークモンスターの中でもヴァルキュリアは特別人気があり、彼女をモチーフとした防具や剣はシリーズ化されている。
今タートルの横にある甲冑もその副産物だ。
「お~、ええやん! これならあいつに似合うと思う」
「気に入って頂けたようで幸いです。他にご用件は?」
「いや、もうないよ。悪かったな、長々と付き合わせちまって」
「とんでも御座いません」
「じゃ、用件済んだし戻るわ」
俺は手をタートルに手を振りながら宝物庫を後にした。
9/30日 加筆修正




