第59話 俺、大衆酒場に行く
「じゃ、俺もちょっくらぶらぶらさせてもらおうかな」
「僕部屋で待ってます。着替え整理したいですしとてもじゃないですが、このリュックを背負って歩く自信がありません」
「わかった。まぁ、昼寝するなり運動するなり好きにしててくれ。見られるとヤバイから速攻で入ってくれ」
俺は辺りを見回しキーを回すと扉を出現、アーサーは足早に中へと入っていった。
「よし、幸い見られなかった様だ。俺も行動開始しよう」
俺は足の踵を2回コンコンと叩く。すると脛が開き小さく白い蜘蛛の様な物体が手のひらに乗る。
「エクステンションスパイダー。こんなのが役に立つ時が来るとは。流石異世界。ハガセンじゃスーパーネタガジェットだったからなぁ」
コンコン、コンコンと何回か地面で踵を叩き、エクステンションスパイダーをどんどん手のひらに載せていく。
「まずはこの広場だな。5機位で良いだろう。行け」
おれが命令すると5機の蜘蛛の形をした小さなロボットは、広場に散らばっていく。
「良し、じゃあ次は住宅区に行こう」
俺は独り言を言いながら歩き、住宅区へ向かう。アーサーの家族が住んでいるのがその辺りだ。
「出戻りみたいでなんかかっこ悪いけど1番ばら撒き安そうだし仕方ない」
暫くして家々が見えてきた。
「よっしゃ。こっからが本番だ。」
俺は住宅区道をゆっくり歩きたまに立ち止まっては踵を叩き、エクステンションスパイダーを出して家々に放っていく。
「よしよし、良いぞー。どんどん家に入っていけ」
エクステンションスパイダーの体は液体金属で出来ており、小さ過ぎて入れそうにない隙間でも問題ないのだ。
住宅区を隈なく周りどんどん放っていく。住宅街を周り終わる頃には日が傾き始めていた。
「やっべ。夢中になり過ぎて知らんうちに夕方になってた。もうちょいやりたいな〜。ネメシス、近くに人が集まる所ないか?」
「300メートル程東に行ったところに多くの人の反応が見られます。恐らく大衆酒場かと」
「大衆酒場! 良いねぇ。んじゃ、さっそくいきまひょ。いざ、鎌倉」
俺は早歩きで大衆酒場へと向かう。大衆酒場はとても大きな木造の建物だった。ドアを開けると、いかにもなケルト風の音楽が奏でられており、皆騒ぎながら飲み、食べ、語らっているのが目に入った。
俺は酒場へ入り適当な席へと座る。そして踵を叩き、何体かが散らばっていくのを確認する。
「良し、折角だし酒でも飲むか。あのすんませーん!」
「はい〜! ちょっと待って〜。今行くから〜」
俺の声に反応した店員さんが俺に近づいてきた。店員さんはオレンジの髪を三つ編みにし、鼻の少し上辺りにソバカスをしたタレ目のおっとりとした雰囲気の女性だ。胸のがっつり開いた赤い服を着ており、下はフリフリの水色スカートを履いている。
「いらっしゃ〜い 。何にしますかぁ〜?」
「んとね。ビール頂戴」
「ビールだとジョッキしかないんだけど良いかしら〜? あとシェフ長が今日はファイアーベアーのステーキがオススメだって言ってたの〜。」
「じゃあ、ビールとそれで頼んます」
「あっ、追加でサービスするけど〜? どうします?」
「サービス?」
俺が首を傾げると店員さんはクスリと小さく笑った
「うん。ここね〜? 娼館も兼ねてるの〜。1番最初にビール頼むのはその暗号みたいなものなの〜。どうする? する〜?」
「いや、俺は良いよ。そういう気分じゃないしね」
「そう。わかったの〜。ビールとファイアーベアーのステーキ1つね〜? ちょっと待ってて〜」
店員さんはカウンターの奥へ歩いていった。
「なるほどね〜。だからあんなエロい服来てるんだな〜。しかし言っちゃなんだがアホっぽさ満点の女の子だ。大丈夫なんだろうか?」
暫くして店員さんがステーキとジョッキに入ったビールを持ってきてくれた。何故か頼んでいないが水の入ったコップも持っている。
「は〜い。お待ちど〜。熱いから〜気をつけてね〜?」
ファイアーベアーは文字通り炎を纏った熊のモンスターだ。今現在も肉は赤い炎を発している。
「ファイアーベアーの肉なんて食おうと思った事ねぇな。どうやって食べるんだこれ?」
店員さんは俺の顔を見てクスクス笑っている。
「お客さん。知らないんだ〜? 教えてあげる〜。あのね〜? 水あるでしょ〜? これを鉄板の周りにドバーッてするといいんだよ? やったげる〜」
炎を発している肉の周りに水を店員さんがふりかけると、炎が収まり旨そうな匂いと弾けるような音とともに肉汁が肉から溢れ出した。
「おお! これは美味そうだ! いや待てよ確か――」
俺はエルは親父さんの家での一幕を思い出していた。確かにこのステーキは頗る美味そうではある。しかしこの異世界ローゼスでは調味料や香辛料の文化がないに等しいのだ。
「店員さん、付かぬお伺いしますが塩コショウなんて……ないよね?」
俺が恐る恐る聞くと店員さんが俺の隣にいきなり座ってきた。
「凄〜い! なんでシオン・コーションの事知ってるの〜? 料理長がモモンガシュッパツって言ってたのに〜!?」
「モモンガシュッパツ? あ! 門外不出か」
「なんかね〜? 何処かの凄い商人さんが新しい料理に使う魔法の粉を手に入れたんだって〜! ここの料理長がね〜? その凄い商人さんの幼馴染らしくって、レシピと材料を格安で譲りうけたんだって〜! その粉を振りかけるとお肉が凄く美味しくなるの〜! ここのオーナーの奥さんがその粉がかかったお肉を泣きながら食べてたから良く覚えてるの〜!」
間違いなくその商人とはエルの親父さんの事だ。ごく一部の様だが、どうやら俺のレシピと調味料等が広まりつつある様だった。
「へぇー、そっかそっか。教えてくれてありがとう」
「あ! 言っちゃた〜! 内緒にしてね?」
「もちろん。誰にも言わないよ」
俺がそう言うと店員さんが俺に覆いかぶさりキスをしてきた。
「――!??」
「本当にしなくても良いの〜?」
「お、お気持ちだけで結構です……」
「今日は受けが悪いの〜。皆喜んでくれるんだけど〜。そういえば、お客さん以外にもう一人同じ様な人がいたの〜! なんか変な格好した人で紐みたいなの腰にぶら下げてた〜! 顔に変わった刺青してたから良く覚えてるの〜」
紐みたいな物、変わった刺青と聞いて俺は一人の人物を思い浮かべた。
ほう、例の彼無事王都に入れたみたいだな。ざる過ぎる。いや、そんな事はどうでもいいか。
「そいつ、もしかしたら知り合いかも。何処に居るか教えてもらっても?」
「イイよ〜。2階の1番奥のテーブルに案内したの〜」
「そうか。ありがとう店員さん」




