第56話 俺、ガイドウと一騎打ちをする
「そうさぁなぁ、かくかくしかじか。色々あったんじゃ」
「もうね、明らかに面倒くさがってるよね」
「うっさいわい! 儂はあれこれ考えたり喋ったりするのは苦手なんじゃ! さぁ、愛弟子よ! 抜けい!」
ガイドウはバックステップし、俺から距離をとり何本か立てかけてある中から一本の剣を取り、構えたまま動かなくなった。
「さぁ、死合おうぞ」
「しまらねぇな」
「何じゃと?」
「しまらねぇつったんだよ。やっぱガイドウの爺さんならこっちだろ」
俺はインベントリから二本の刀を取り出し、一方をガイドウへ放り投げる。
受け取ったガイドウは鞘から刀身を抜き、しげしげと見た後ニヤリッと笑った。
「良い刀だ。かたじけない貰っておこう」
「ああ、良いぜ。とっとと始めよう。一発勝負のデュエルで良いよな? 攻撃をぶち当てたほうが勝ちな」
俺達は互いに刀を握り、構えを取り、ジリジリとずり足で微調整しながら間合いを取り合う。
俺はガイドウが完全に間合いに入ったのを確認し、火蓋を切る。
「ガイドウ流剣術奥義 神域・裂斬」
神域・裂斬は前方に対し、完全無敵状態になったまま敵に突貫するという一騎打ちに最も適したガイドウ剣術の技の一つである。
「ガイドウ流剣術奥義 後牙一閃」
ガイドウと俺の刃が交差し火花を散らす。一瞬の静寂、突然俺の背中から縦に血が吹き出した。
「何をぉぉぉぉぉぉッ!?」
「まだまだ青いの。間合いから既に神域・裂斬を狙っておったのがまるわかりじゃったからの。後ろを取らせてもらった。精進せい」
「わかった! わかったから出血を止めてくれ! 背中じゃ手が回らねぇからエクストラヒールかけれねぇんだよ!」
ガイドウは俺の後ろに回るとエクストラヒールを詠唱し俺の傷をあっという間に完治させた。
「後牙一閃は抜刀からの斬撃の余波を背中に伝え、前方にいながら後ろを取ることが出来る儂の編み出した新技よ。正直、汎用性は皆無に等しいが一騎打ちやハッタリに効く。どうじゃ?」
「どんな技でもいつか役に立つ時が来る。教えてくれ」
「うむ、その通りじゃ。流石、我が愛弟子。ガイドウ流剣術奥義 後牙一閃、貴様に伝授する」
ガイドウは俺の前に経つと、俺の額に手を当て、すぐに手を離した。
「確かに伝授したぞ。さっきも言ったが、精進せい我が愛弟子ゲインよ。久々に面白い死合いであったぞ。ではさらばじゃ」
ガイドウが刀を鞘に戻し壁に立てかけ目を閉じふらつくと、既にアーサーの親父さんに意識を渡したのか、尻もちをついた。
「――うわッ! いきなりタッチしないでくださいよ! びっくりするじゃないですか!」
タッチ? 一体どうやって意識変えてるんだ……?
土埃を払いながらは立あがろうとする親父さんに、俺は手を差し伸べる。
「ありがとうございます。いや~素晴らしい太刀筋でした。僕には死んでも真似出来ないでしょうね」
「え? 意識乗っ取られてるとかじゃ?」
「乗っ取られてますよ? ただ視ることだけは可能みたいなんです。あ! 申し遅れまして大変申し訳ない。ローリンです。よろしく」
ローリンはメガネをクイッと上げながら、俺に向かってナイススマイルで微笑む。
「どうも、こいつはご丁寧に」
「さぁ、ゲイン殿。家内が料理の支度をして待っている筈です。参りましょう。自慢じゃありませんが家内の料理は中々美味ですよ」
俺はアーサーの親父さんローリンの後について行き、地下室を後にした。




