第53話 俺、晩餐会に赴く
俺達は晩餐会の会場に来ていた。長テーブルには絢爛豪華な食器や美味しそうな食べ物がこれでもかと並んでいる。
「お兄様どうされました?」
「いや、俺さぁダンスとか一切出来ないんだけど大丈夫なのかね」
エスカはクスクスと笑い出した。
「失礼しました。お兄様大丈夫ですよ、晩餐会は貴族と親睦を深め合ったり料理を食べたりするだけで、ダンスをしたりはしません。それは舞踏会の方ですね」
「あっ、そっかぁ。無駄に心配して損した」
俺が胸を撫で下ろしていると、向こうから黄金の甲冑を着込んだ人物が近づいてきた。王立騎士団隊長のアンドリューだ。
「これはこれは、御二方、某も会話に混ぜてもらっても宜しいかな?」
「いいとも。アンドリュー、改めて紹介する。私の最も尊敬する人、ゲインお兄様だ」
エスカが一歩下がり片手を俺の方に向けると、間にアンドリューが入ってきて手を差し伸べてきた。
アンドリューは2メートル以上ある巨体だ。手もかなり大きい。俺はそのでかい手をガッチリと掴み握手に応じる。
「――ふむ、やはりかなりの修羅場をくぐってきたと見える」
「そうかい? そいつはどうも。あんたもこの世界の人間にしちゃ良いからだしてるよ」
「この世界?」
「――ッ!? いやいやいや、口が滑ったこの国の間違いだ。気にしないでくれ。HAHAHAHA!」
俺が言い訳をしていると、クラシックの様な音楽が聞こえてきた。
「どうやら晩餐会の準備が整ったようだ。アンドリュー、お兄様、ドレスアーマーに着替えてきますので、失礼致します」
「うむ」
「ああ、わかった」
エスカは俺達に一礼し、去っていった。
「なぁ、ここだけの話。王立騎士団ってどういった組織なんだ?」
「どういったも何も、そのままである。王都に起きる厄災から民を守るために組織されたのが王立騎士団である」
「ふーん、お前が隊長なのは一番強いからか?」
「そうだ――と言いたいところではあるが、残念ながら戦闘力で言うのなら、そなたの妹君であるエスカの方がずっと強いのである」
アンドリューは腕を組み直し一呼吸入れる。
「エスカが王女様をお救いになり、副隊長に任命された。本来であれば隊長になってもおかしくはない。何故副隊長に任命されたかおわかりか?」
「……いや、何故だ?」
「彼女はダークエルフ……亜人だからである。昔より良くはなったが未だ亜人の差別は続いているのである」
俺は頭を抱えたくなった。
「くそったれな話だ」
アンドリューは俺の言葉を無視し話を継続する。
「王立騎士団にはエスカの他に犬獣人のファースがいる。彼も本来であればそれ相応の立場にいるべきなのだが……」
「嘆かわしいな」
「誠に。某もそう思う。だが我らに常識を変える力はない。それを持つのは王だけである」
ウエイターが通り掛かった為、俺はシャンパンの様な飲み物を手に取る。
そのまま外格を解除し顔をさらけ出す。
「なんと……これは驚いた」
「ん? ああ、すまん。うるさかったか」
アンドリューは小さく首を振る
「そうではない。エスカの兄上と聞いていたものだからエルフだとばかり」
俺は飲んでいたシャンパンを盛大に吹いた。
「ブッーーーーーー!! え、えっとだなぁ、これはその~、あ! そういえばエスカが副隊長になる前は誰が副隊長だったんだ?」
「ロンメルである。あ奴は優秀な魔術師なのだが、態度が悪くおまけに勝手に行動を起こすため、何かとトラブルの種になっていた。困ったものである」
「ふーん。そういや、居ないな」
「また、どこかで油でも売っているのだろう。折角の王女による晩餐会だというのに……某だったら死んでも駆けつけるというのに」
俺は黄金の甲冑の奥の顔を透視機能をオンにし、覗き見る。そこにはブラウンの髪をし、右の頬に縦に一閃ガッツリ切り傷が付いたニヘラ顔で鼻の下を伸ばす美丈夫の顔があった。
「なるほどなるほど、王立騎士団隊長アンドリュー殿は王女様がお好きなのですねぇ~」
「なななんなななななな何をお主は言っているのだ!?」
アンドリューは声が完全にうわずっている。
「大丈夫、俺とお前の秘密だ。上手くいくかは知らんが応援している。とりあえず鼻の下を伸ばすのはやめた方が良いぞ」
「何故!? そのことを!?」
俺がアンドリューをからかっていると歓声のような声が聞こえた。
見ると入り口に黄色いドレスを着た王女様と、連れ添うように歩く白いドレスアーマーを着たエスカの姿があった。
「王女様、では私はこれにて」
「エスカ、エスコートありがとう。会場の皆様。晩餐会に来ていただき誠に嬉しく思います。今日は王都の危機を救って下さいました、機甲騎士ゲインに対する、せめてものお礼をと思い晩餐会を開きました。存分に楽しんで下さい」
王女が挨拶を言い終わると、皆料理に手をつけ始めた。
俺も適当な料理に皿に載せパク付いていると、エスカが俺元へとやってきた。
「おぉ、エフカ――ご苦労さん。その真っ白なドレスアーマーすごく似合っているぞ」
「ありがとうございます! お兄様!」
「俺は、お前さんみたいな綺麗な顔立ちはしてないからね。みっともなく写ってなきゃ良いが」
「そんな! とんでもございません! お兄様はどんな男性よりも素敵です!」
エスカは真剣な眼差しで俺に詰め寄ってくる。
「そ、そうか? あ、ありがとう」
「兄弟仲睦まじいですな!ガハハハ!」
「副隊長! 大変お綺麗です!」
いつの間にか俺達の隣にはアンドリューと犬の獣人のファースがいた。
「きみがファース君か、よろしく」
「ハイ! よろしくお願いします!」
ファースは尻尾をブンブン振り回しながら俺と握手を交わす。
ファースの犬耳はペタンと寝ているタイプだ。顔自体は普通の人と変わりがない。
手を見ると茶色い毛に覆われている。少々黒い爪を生やしているが指も5本あった。
こうやって見るとやっぱほとんど人間と変わらないな。
旨い舌鼓を打ち、談笑している内にあっという間に晩餐会はお開きとなった。
4時間後……。
俺とエスカはホーム内のコロッセオで対峙していた。




