閑話 王立騎士団や冒険者の皆さんと共同戦線します!
僕の名はアーサー・クレイドルと言います。今地元である王都にて、王立騎士団の皆さんや王国内に滞在していた冒険者の皆さんと共同戦線を張るため王城を出て、鬱蒼とした森林の中を隊列を組み先頭を騎士団、真ん中を冒険者、後方を騎士団と冒険者の魔術師さんで進行中です。
僕は王立騎士団の後ろについています。超感覚を使用し空気の流れや音が明確に理解できます。こうしていればグリフォンが出てきたら即座に攻撃に移れる筈。
そんな事を考えていると前の方から声が耳に届いた。
どうやら超感覚による強化された聴力によるものの様です。
「時にエスカ副隊長殿、お主は王立騎士団に入る前グリフォンを討伐したと聞く。如何して退けたのか」
「特別な事はしていない。あの時はとにかく王女様を護る事しか頭になかった。私の剣の刃が届く範囲にいた事が幸いし、結果論だが王女様が傷付かなかった事が最良であった」
「うむ! エスカ副隊長殿が入れば我が王立騎士団は安泰であるな。ガハハハ! な、ファース!」
「ハイ、その通りです!」
「お前達は私を買いかぶり過ぎている。あの時は運が良かったのだ。それに今回現れたグリフォンと前回のが同個体という確証はどこにもない」
「流石エスカ副隊長殿である! 初志貫徹! まさに騎士の鑑であるな! な、ファース! ガハハハ!」
「ハイ、僕もそう思います! エスカ副隊長は本当に素晴らしい人です!」
「全くお前達は……。時にアンドリュー、前々から気になっていたのだが、何故お前は私を副隊長殿と呼ぶのだ。おかしいではないか。お前の方が地位も役職も上なのだぞ」
「某は種族や人種、出自で判断しないである! 大切なのは中身である!」
「お前はその着ている甲冑の様に黄金に輝く精神を持っているのだな。私もそう有りたいと思う」
「ガハハハ! 照れるのである!」
「うるせぇぞアンドリュー! グリフォンに気取られたらどうすんだダボが! 大声で笑うのやめねぇかボケが!」
「おぉロンメルか! かたじけない! 癖である故許せガハハハ!」
「ちっクソが!」
王立騎士団の面々は凄く個性的な面々なんだなと思いました。厳格なイメージがあったので少し驚いていると進行が止まりました。
「アンドリュー団長、400メートル先に敵性反応があります」
「うむ、流石はファース。お前は本当に役に立つのである」
「えへへ、ありがとう御座います。これから王立騎士団の為に頑張ります!」
「緊張感持てバカ犬が! 魔法隊、俺が合図したらファイヤーボールを放て!」
魔法隊の隊長が声を張り上げると火球が勢いよく飛び出し着弾した音が聞こえると、それを皮切りに後方にいる魔術師さん達が次々と魔法を詠唱しはじめ、色鮮やかな光が次々と僕達の頭上を越えてまだ見えない敵に向かっていきました。
遠くから鳥類特有の金切り声が聞こえ、前にいる騎士団の人達が騒がしくなりました。
「出たぞぉー!」
前の空間が広くなりました。
騎士団全員が一気に走り出したからだと気付くのに僕は少しかかりましたが、周りにいる冒険者の皆さんが騎士団につられ声を上げながら走り出します。
僕も遅れまいとお師匠様から頂いた剣を鞘から抜いて走ります。
接敵した騎士達が攻撃を加えますが、とても大きなグリフォンは羽をはばたかせ発生した強烈な風で剣や槍を持った人達が巻き上がった土煙や砂利と共にこちらへすごい勢いで飛んできます。
後ろにいる冒険者へ激突するのを見て僕は横を突っ切って森林へと入り道なき道を行きます。
正面から攻めるのはダメだ。側面から攻めればきっといけるはず。
翼を動かす大きなグリフォンの位置を目視しつつ僕は距離を詰めていく。
そんな事を思っていると横から人が近づいてきました。
真紅の甲冑を着た細長い耳に褐色のエルフ剣士さんでした。猛々しい姿から騎士だとすぐにわかりました。
「お前は……まぁいい。貴様剣士だな」
「ハイ、そうです。僕は勇者です! 微力ながら協力させて頂きます」
そう言うと彼女が人差し指を立てて僕の口に押し付けてきました。
「静かにしろ。気付かれてはまずい。昔戦った奴よりも体躯が大きい。私の剣はあのタイプには特攻だ。先程攻撃したが前より明らかに浅かった。お前跳べるか?」
「んーんー!」
「あっすまない」
褐色の騎士さんが指を離してくれました。
「いえ、僕はお師匠様の様に空は飛べません」
「いや、つまりジャンプはできるかと言う事だ」
「それならできます!」
「良し。では私は首を攻撃する。私が合図したら勇者は私を踏み台にして剣を首に突き刺せ」
「承知しました。副隊長さんの指示に従います」
「私はお前に役職を名乗った憶えはないのだが……まあいい。私の剣は特殊で斬り付けるのは得意なんだが、刺突には向いてないのでな」
2人で姿勢を低くして森の中を進み、敵のすぐ側までやってきた。
黄金の騎士が自分の身の丈2倍以上もあろうかという銀色の大剣を振り回し、1人で2匹のグリフォンを相手取っている。
「ガハハハ! 某を吹き飛ばすには主らのそよ風程度では無理であるぞ!」
「流石だな、アンドリュー。では行くぞ!」
「待ってください! 3人で脚を攻撃して体制を崩してから――」
「その様な事をしている時間はない。言っただろう、私の剣はただの剣ではない!」
そう言って鞘から剣を抜き森から飛び出していったかと思うと、勢いよく剣を振り上げると刀身が伸びてグリフォンの首を切り裂きました。
「やはり浅いか!」
「おぉ、流石は副隊長殿!」
「行け勇者! 私の手に足を乗せろ! 私が飛ばす!」
僕は走り出すと副隊長さんは後ろに振り返り両手を握り、腕を下げてくれました。そのまま右足を彼女の手に乗せて踏むとそのまま自分の視覚がグンと上る。勢いに任せて飛び上がり、血で赤に染まった部位目掛けて剣を突き刺すとおびただしい量の出血で前が見えなくなりました。血で手が滑り柄を握った手を放ってしまい、躰が宙に浮く感覚が僕を支配しました。
「いかん!」
地面に叩きつけられるかと思いましたが、仄かに暖かさを感じました。気づくと黄金に輝く騎士が見えました。
「少年よくやったのだ。怪我はないか?」
「あなたは……?」
「某は王立騎士団の団長である!」
「ありがとう御座います。まだ1匹残っています! 協力して倒しましょう!」
「うむ!」
団長さんは抱えた僕を降ろしてくれました。仰向けに倒れたグリフォンはピクリとも動来ませんでした。刺さった剣を引き抜き、鞘へと収め副隊長さんのもとへ行きました。
「副隊長さん! ありがとう御座いました! どうして僕が走り出す事がわかったんですか?」
「あぁ、それは――」
副隊長さんが喋り出した瞬間もう一体のグリフォンが強烈な風圧が僕達に向けてぶつけてきました。
凄まじいソニックブームに僕は剣を地面に突き刺し、膝をついた。
団長さんと副隊長さんが声を張り上げているが風の音で聞こえない。
副隊長さんが剣を振り上げるが、ソニックブームに伸びた剣先が弾かれているようです。
まずい……。どうにかしてこの状況をなんとかしないと……。
打開策を頭の中で考えていると、突如として風がやみました。顔を上げると敵の胴体に銀色の巨大な槍の様な物が刺さりのたうち回っていました。
そして間髪入れず黒い塊がグリフォンにぶつかったかと思うと爆音と共に大量の土煙が上がったかと思うと、グリフォンの姿は消え去っていました。
僕は確かに見ました。漆黒に輝くお師匠様がグリフォンにぶつかっていくのを。
1体倒すのにあれだけ苦労したのに、お師匠はあっという間に残りのグリフォンを倒してしまったのです。
やっぱり僕のお師匠はとっても凄い人なのだと思いました。




