第39話 俺、vs零影
試合開始の合図と同時に、俺は瞬歩を使い零影の後ろへ瞬時に移動し、零影の首をネックブリーカーの様な体勢で掴む。
「試合中で悪いが、どうしてもあんたに聞きたいことがある!」
「ホホッ! 面白い。聞いてやらんでもないぞ」
「あんた! ハガセンプレイヤーか!」
「面妖な。お主が何を言っておるのかさっぱりじゃ」
「何ッ!? じゃ、じゃああんたは!? どうやって零影に!? いや、どうやって忍者になった!?」
俺の予想と反し、目の前の忍者はハガセンプレイヤーではなかった。という事はこの世界にアナザージョブを教える人物もしくは、何かがあるとそう思った刹那、零影の首が180度回転し俺を睨み付ける。
「誠、見事なり。儂の後を獲った。それは賞賛に値する。儂に勝てたら教えてやろう」
「な――」
俺は動転し、束縛を緩めてしまう。すると、見る見るうちに零影の姿形は水と化し、地面へ吸い込まれていった。
「本体は一体何処だ!?」
俺が本体を探していると、突然地中から零影の手飛び出し、足を掴まれ見動き取れなくなる。
「クッソ! 地中か!」
「残念。上じゃよ」
俺が上を見上げると、ありとあらゆる暗器が俺の目の前に迫っていた。俺はガード体勢に入り、全て受けきる。
「ほぉ、儂の暗器を全て受けて傷1つ付かぬとはの。しかし、これはどうじゃ? 擬態爆破の術!」
俺の足元に散らばった全ての暗器が紅く発光し、大爆発を起こした。その影響を俺は諸に受け空中へ投げ出されると、零影が急降下し俺にピッタリとくっ付くき、胴体を背後から抱きかかえて拘束し、逆さまに落下して俺は脳天を地面に叩きつられた。
「ふぅ、しんどいわ。儂の必殺飯綱落としじゃ。擬態爆破の術で全身をズタボロにし、首の骨と脳天を一挙に破壊したのじゃ。もう生きておるまい。儂のか――」
「あ~、いってぇ。この世界に来て初めてのダメージだわ。びっくりした」
俺は首をさすりながら、徐ろに立ち上がる。
「何故ッ!? お主何者じゃ!? この技を食ろうてきている者など、おる筈がない!」
「何者って、ただの勇者の従者だけど? いや、俺さぁ忍者ってどうもスキル構成が好きじゃなくって、全部スキル習得し終わってないんだよね。飯綱落としっていうの? めっちゃ格好いいじゃん! 最後まで習得しときゃ良かったな」
「化物が! 良かろう! 儂の最大最強の術を持って貴様を葬ってくれる!」
零影が俺から距離を取ると、人の形をした紙ぺらを取り出し空中へ放ると大声で叫びだした。
「いでよ! 餓者髑髏!」
紙ぺらが禍々しい紫の炎で包まれ、上半身だけの巨大な骸骨が姿を現す。
「餓者髑髏! 奴を叩き潰せ!」
20メートル程あるだろうか? 巨大な骸骨が腕を振りかぶり俺を殴りつけてきた。流石、零影の切り札だ。凄まじいスピードでラッシュを仕掛けてくる。
「ええい! うっとおしい!」
俺は餓者髑髏の左手を砕こうと殴りつけた――筈だった。鉄拳を見舞った瞬間、俺の右手が空を切った。見ると餓者髑髏の左手が透けていたのだ。
「驚いたか! 儂の餓者髑髏は幽体と実体を自由に切り替えて攻撃できるのじゃ! このまま御主を一方的になぶり殺してくれるわ!」
「幽体と実体を切り替え出来る? ふーん、あっそう」
「な、何じゃその反応は?」
「ちょっと爺さん悪いんだけどさ。実験に付き合ってもらうぞ」
「実験……じゃと?」
俺は背中のブーストを起動させ3メートル程上空へ飛び上がる。インベントリから黒い瘴気の様なものを纏った弓を取り出す。
「さぁ、【魔弓屍鬼】のあれがどう出るか」
魔弓屍鬼を引き、自動的に緑色の毒々しい矢が生成された事を確認すると、餓者髑髏に向かって放つ。
「愚かな! 霊体になってしまえば弓矢なんぞ――何!? どういう事だ!?」
矢が霊体状態の餓者髑髏に命中し醜悪なグールへと姿を変え、もがき苦しみ始た。
「儂の餓者髑髏に一体何をした!」
「魔弓屍鬼ってネタ武器があってさ。こいつは魔弓の癖に大したパッシブスキル持ってないんだよね。こいつにはある設定があるんだけどさ。その設定ってのが矢で射った者を問答無用で屍鬼にするって感じなんだけど、どうやらこの世界じゃ設定がそのまま生きてるみたいだな。魔剣は魔剣で魔弓は魔弓って事か」
「あれはもう、儂の餓者髑髏ではないのか」
「どうする?」
「餓者髑髏を呼び出した時点で、もう魔力はすっからかんじゃ」
「じゃ、あれぶっ倒せば俺の勝ちで良いな?」
「好きにせい」
俺は全ブーストを起動させ30メートル程上空へ上がる。そして再びインベントリを開き今度は肉切り包丁の様な大剣を取り出す。
「【大包丁 羅刹】でぶった切ってやるぜ!」
大包丁 羅刹は形こそ肉切り包丁だが、その刃渡りは全長10メートルを越える。超巨大な大太刀である。俺はそのまま急降下し、もがき苦しむグールと骸骨の中間のモンスターとなった餓者髑髏を真っ二つに斬り伏せた。
「おし、倒したぞ? どうよ爺さん」
「全く誠面白い男よ。アヤメ! 儂等の負けじゃ! 戦闘行動をやめい!」
「そんな! じっちゃん! 私まだ負けてない!」
見ると、赤い忍装束を着た少女が上空に逃げたエルを倒そうと暗器を延々と投げ続けていた。
「何だありゃ?」
「元々この大会に参加した理由は、あの小童の訓練の為よ」
「ふーん」
「やめいと云うとるのがわからんのか!」
零影が放った鎖鎌の鎖が、アヤメと名乗った女の子をグルグル巻きにする。
「はぁ、改めて云う。チームブルーは決勝戦を放棄する」
《おおーっと! チームブルー突然の試合放棄です。これにより決勝戦勝利したのはチームパープル!! チームパープルにはエキシビションマッチとしてチームジェミニスターライトへ挑戦して頂きまーす!!》
会場全体から歓声が聞こえる。大賢者を見ると目を閉じながら拍手しているのが見えた。
「ふぅ、一時はどうなる事かと思ったが、勝てて良かった」
「私、何もしてない……」
かくして、決勝戦は俺達チームパープルの勝利で幕を閉じたのである。




