第38話 決勝戦開始
ギルド長と会話してから2日がたった。今日は闘技場で決勝戦が行われる日だ。俺達はすっかりお馴染みとなった、リーメルの喫茶店で朝食を摂ろうとカウンターに座っていた。
「あ、リーメルいつもの頂戴」
「いつものって何よ? 私も一応は魔術師だけど、サイコメトリーなんて高度なスキル持ってないんだからね? 具体的に言って」
「浪漫のわからん奴だな~」
「あのねぇ……ここは喫茶店でバーじゃないのよ?」
「冗談だよ。パンケーキとコーヒー。エルとアーサーの分も頼む」
「ええ、わかったわ。貴方はブラック、アーサーはミルクで、エルは砂糖とミルクね」
「んだよ、わかってんじゃん」
俺が文句を言うと、一瞬舌をピロッと出してリーメルはカウンター奥へ足早に消えていった。
「エルちょっと聞きたいんだが、決勝は何時から始まるんだ?」
「お昼前……位に闘技場へ行……けば大丈夫」
「ふーん、じゃ朝飯喰ったらそのまま行こう。道案内頼むぞ」
「うん」
暫くして朝食が来た為、朝食を摂りちゃっちゃと料金を払い店を出る。
「じゃ、行くか。アーサーは応援よろしく!」
「勿論です! お師匠様! 頑張って下さい!」
俺達はアーサーと別れ、闘技場を目指し歩き始めた。
エルの後ろに付いて歩き、10分程度過ぎた頃それらしき建築物の前に俺は立っていた。見ると然程大きくないが立派な闘技場だ。俺はホームのコロッセオを思い浮かべる。比較対象がキチ○イ地味ている為に、どうしてもしょぼく見えてしまう。
「こっち……が入り口」
俺は引き続きエルに付いて行き、闘技場内へと歩を進める。内部は人でごった返していた。
「うわぁ、すげぇ人だかりが出来てんな」
「あ! 妖怪ワッペンむしりだ!」
俺の声に反応したのか、2人の子供達が俺の元にやってきた。
「兄ちゃん! 応援してるからさ、頑張ってね!」
「妖怪ワッペンむしり! 俺にあのゴーレムくれよ!」
「ゴーレム? マシン・ギアの事か? ありゃ、俺しか扱えないからダメだ。応援ありがとうな」
俺は両手のガントレットを解除し、子供達の頭をガシガシとくちゃくちゃに撫でる。撫で終わると再びガントレットを装着する。
「すっげぇ! 兄ちゃんのガントレットがひとりでに消えてまた現れた!」
「妖怪ワッペンむしり頑張ってね!」
子供達は俺を激励すると、嵐のように走り去っていった。
「元気だなぁ~」
「ゲイン手続き……済ませた。選手の入り口あっち……だって」
「すまんな、ありがとう」
俺はエルが指差した方向へと歩いていき、選手控え室へと入る。中は狭く椅子と小さなテーブルがあるだけだ。俺は椅子に座り呼ばれるのを待つ。そうして待つ事10分後、闘技場の職員に呼ばれそのまま付いていく。
「闘技場にはどうやって上がるんだ?」
「こちらの昇降機で上がって頂くだけで結構です」
職員が横のレバーを押し上げると、足元に魔法陣が現れ、身体が上へと上がっていき俺達は闘技場のバトルフィールドへ駆り出された。相手側はまだ来ていない様だ。と思った瞬間、聞き覚えのある声が闘技場全体に響く。
「さぁ、やってまいりました! 決勝戦! 今回の決勝出場者である、チームパープルのゲイン選手はなんと前代未聞の399枚のワッペンを集めた猛者中の猛者でありまーす! そのおかげで、第一予選が終わったと思ったらまさかの決勝! 私も長い事実況をやらせて頂いておりますが、いきなり決勝戦は流石に初めての事でありまーす! 実況は引き続き、私バレインが務めさせて頂きまーす! そしてそして! 解説を担当して頂くは大賢者様です!」
俺は会場を見渡し、大賢者を探すが人が多すぎて見つける事が出来ない。しかし、そんな事は想定内だった。俺は簡単な敬礼をすると、すぐにやめもう一度敬礼する。これはハガセンにおいて所謂【ナメプ】のサインであり、非常に嫌われる行動の一種だ。ハガセンプレイヤーでこの事を知らないのは初心者だけである。効果はすぐに現れた。闘技場の最も上の閲覧席に白いローブを着た人が徐ろに立ち上がったからだ。
「見つけたぞ。大賢者様だ。アルテミス、あの白いローブを着た奴の顔を確認したい。視認能力の倍率を上げてくれ」
「了解よ」
白いローブの人間の驚いている顔を見て俺は確信する。まず、あまりにも整っている顔立ちだ。中性的過ぎて男なのか女なのかわからない。そして手に持っている虹色に輝く女神が象られた杖、あれは【ゴッドオブスタッフ】という杖であり、魔術師に於ける最強装備の1つだからだ。あの杖のスキルはリザレクションという死者を蘇らせる効果を持つ。ハガセンでは基本的に死者を救う方法はないに等しいが、2つだけ方法がある。まず1つ目は超希少アイテムであるハイエリクサーを使う事。そして2つ目がゴッドオブスタッフに付属されているスキルであるリザレクションを発動させる事である。
「お~、相当狼狽えてんな。それにあの無駄に派手な杖はゴッドオブスタッフだ。間違いない。あのイケメン美女大賢者様はハガセンプレイヤーだ」
「大賢者様が……何?」
「いや~、何でもない。」
俺がエルの質問をはぐらかすと、向かいから2人の人間が現れた。俺はその格好に見覚えがあった。 一体は白と黒もう一体は赤1色の忍装束に身を包んでいたからだ。
「おいおい、マジか。ありゃ侍のアナザージョブ忍者じゃねーか。しかも片割れは零影か? あいつもハガセンプレイヤーなのか? 不味いな、本気を出さざるを得ないかもしれん。アナザージョブはいないと思っていたが、そうでもないらしいな。全くなんなんだこの世界は」
「強い……の?」
「少なくとも白と黒の奴はヤバイな。エルが挑んだら……たぶん一瞬であの世行きだ。お前は赤いのを頼む。」
「白いの……私のユニークスキル……効かない。赤いの……はわかる」
「そういや、そんなスキルあったな。便利で良いな」
俺が呑気な会話を展開していると実況が喋り出した。
「さぁ! 両者も揃い踏み! ではぁ、第197回魔術大会決勝戦! 開始ーッ!!」




