第30話 俺、魔法を教える&俺、エルの過去を見る
「愚かしき者共に、見えぬ楔を打ち込み地に伏せ果てろ。グラビティ・スタンプ」
俺はエルに教える魔法スキルをコロッセオの適当な所へ詠唱する。すると、1メートル程離れた地面が、突然陥没し2メートル大の穴が出来上がるが逆再生の様に直ぐに更地へと戻る。
「「凄い……」」
「驚いたか? どんな強力なスキルを放ってぶっ壊そうが、瞬時に元に戻るからな。幾らでもぶっ放せるぞ。これともう一つ魔法を教える。あ、そうだ。もう一つの魔法だが、せっかくだからアーサーにも覚えて貰おうかね」
「うん。わか……った」
「僕にも新しい魔法を教えて頂けるんですか!? やったぁ!」
俺は前準備の為にエルにアイテムを渡す。
「エル、修行を始める前にこいつを渡しとくな」
俺は、インベントリから【友情と努力の鉢巻】を取り出しエルへ手渡す。
「こいつを持っとけ。アーサーにも同じものを持たせてある」
「これな……に?」
「付けているだけで、強くなれる凄いアイテムだ」
「どうすれば……いい……の?」
「どこでも自分の好きなように付けろ。アーサーみたく、頭に括りつけるのが普通だな。嫌なら持ってるだけでも良いぞ」
「ん……わかった」
エルは鉢巻を左手に巻きつける。
「良し! じゃ、とっととやるか! アーサー、エルの隣に並んでくれ」
俺はエルとアーサーの額に手を当て、ギフトを起動させエルにグラビティ・スタンプを。そして、エルとアーサーにエアリアル・ダイブを伝授する。
「エル、俺に向かってグラビティ・スタンプをMP半分――じゃなくて、ちょっち疲れる程度になるまで放ち続けてみようか」
「え……いいの?」
「おうよ、思いっきりかませ」
エルは、眼を閉じ呼吸を整えると、俺に向かって、手を翳し詠唱を開始する。
「愚かしき者共に、見えぬ楔を打ち込み地に伏せ果てろ。グラビティ・スタンプ!」
周囲の重力が乱れ、俺を押し潰そうとするが一切動かずその場に立ち尽くす。
「何だ? そんなものか? お前この国の出身なんだろ? そんなんじゃ蟻も殺せないぞ? もっと本気を出せ。良いか、エル。お前には詠唱をキャンセルした状態で俺程とはいかなくとも、それなりの威力を発揮するまでになってもらうからな」
「クッ……! 愚かしき者共に、見えぬ楔を打ち込み地に伏せ果てろ。グラビティ・スタンプ!」
「だめだ。全くだめだ。お前の本気はその程度なのか? もっと殺意を込めろ。お前冒険者なんだろ? なら命の危機に何度もあってる筈だ。そんなんで良く今まで生きてこれたな」
俺はエルを延々と煽りながら、グラビティ・スタンプを唱え続けさせた。
2時間後……。
「最初よりはマシになった。だが、まだまだ足らないな」
「ハァ……ハァ……グ……グラビ……」
俺はインベントリからハイエーテルを取り出し、エルの方に放り投げる
「飲め。MPが尽きようとしてる。飲んだら少し休憩だ。エル、何故本気を出さない?」
「だって……ゲインあいつらと違って優しいから……」
優しい? 何の事だ? そういえば出発する前家族がどうのとか言ってたか。折角やる気になっているのに不安材料があっては後にトラブる可能性があるか。あれをやるか。少し残酷な気もするが。
俺はエルの頭に手を乗せ魔法スキルを発動させる。
「少し頭の中を、お前の記憶を辿らせてもらうぞ。サイコメトリー」
「え?」
数々のエルの姿が俺の頭の中へと流れこんでくる。
◆◆◆◆
――私の名はエルメンテ。エルメンテ・ド・シュビエル。
私はシュビエル家に仕えるメイドが生んだ娘としてこの世に生を受けた。
父も母も、私をとても可愛がってくれた。私は幸せだった。私には2人の姉がいた。アイーナとイクルナだ。アイーナは金色の髪にストレートロングヘアーが似合っている。イクルナも同じく金色の髪をしているが左右の髪が縦にロールしている。この2人にとって私は只の邪魔者ようで愛する父を取られるとでも思ったのか、ある日を堺に親のいないとこで、毎日のように虐待を受けるようになった。罵詈雑言は当たり前。魔法の杖を折られたり、引っ叩かれたり。その位何とも思わなかった。何をされようが無反応を貫いた。いつか飽きが来てやめてくれるだろう、そう思った。そう思っていたある日……母が倒れた。どんなに薬を飲ませても、治る事はなかった。母はどんどん衰弱していき、遂に亡くなってしまった。
魔法学校にいる時は何故か、接触してこなかった。トイレに篭もり考え事をしていたある日、姉達が偶然入ってきて、私は真実を知る事になる。
「フフッ、あの女の母親ようやく死んだわね」
「ええ、長かったですわねお姉様。食事何とか毒を仕込み、体調を崩してからも薬と偽って毒を少しずつ飲ませていったんですもの」
私は気が狂いそうになった。思わず叫びそうになった。あの2人が母を毒殺したのだ。絶対に許さない。いつか必ず復讐してやる。私は胸に誓った。
だから、勉強し続けた。早くこの牢獄から抜け出す為に。人との繋がりが希薄になった弊害か、はたまた心的外傷が原因か、いつしか私は大きな声の出し方を忘れていた。だが、些細なことだと気にならなかった。図書館に篭って勉強していたある日、私にユニークスキルが発現していた。相手を注視する事でステータスや、使える魔法、弱点までもわかるというスキルだ。
私は、このスキルを使い、ありとあらゆる授業で高得点を出し続けて、魔術学校を主席で卒業した。私は特例が認められ、最速で研究者へとなるか冒険者へなる事が認められた。私は冒険者へなる道を選んだ。この国に、いや、姉達の近くに居たくなかった。一刻も早く抜け出したかった。冒険者として実力と、経験を積み、なんとしても復讐を成就させる。その為に。
俺はサイコメトリー解除する。
「お前良いとこのお嬢さんだったのか。2人の姉に虐待を受け続け、母親を毒殺されその復讐の為に、今まで生きてきたと?」
「う……ん、あの2人は絶対に許さない」
「くだらんな。たかがそんな事か。良いか? よく聞け。俺は邪魔する者あらば蹴散らすつもりでいる。そうしなければこちらが殺られるからだ。魔術大会には、恐らくお前の姉も出場するだろう。その時に復讐でも何でも好きにすりゃいい。俺はあくまで大賢者に会う為に魔術大会へ出場する。その為には、お前にスキルを覚えて貰わなきゃならんのだ。最初に言ったな? 殺意を込めろと。今のままじゃ、復讐どころか逆に殺されるぞ。もう一度言う。俺にその姉達に向ける殺意を込めて、グラビティ・スタンプを放て」
「……愚かしき者共に、見えぬ楔を打ち込み地に伏せ果てろ。グラビティ・スタンプ!!」
俺の立っている地面が、音を立てて徐々にひび割れていき、1メートル程の凹みが出来た。
「良し。合格だ。今の感覚忘れるなよ? 最終的には詠唱を省略した状態でこれ位の威力が出せる様になってもらうからな」
「今から1週間これとAEW。そして、お前の覚えてる魔法スキルを全て俺に叩き込み続けろ。良いな」
「うん。わかった」




