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第3話 俺、一悶着

 暫く歩くと、村が少しずつ見えてきた。


「おッ! 遂に初村人とエンカウントだな〜」


 しかし、何やら様子がおかしい。怒号のような声が聞こえる。


「何かヤバそうだな」

「早急にした方がいいと思われます」

「ああ、走るぞ」


 脚部に搭載されているミニマムブースターを使い、速度を急上昇させる。

 村へ着くと、盗賊が村を襲っていた最中だった。

 住人が縛られているのが目に入った。


「ヒャッハー! こんな所に村があるとはラッキーだったぜー! 金品と食いもんと女をよこせ!」


 某世紀末に出てきそうなセリフをはきながら、村長らしき初老の男性を足蹴している奴がいた。

 見つからぬように認識阻害系スキルのインビジブルを起動させ、周りの様子を確認する。


 見るとあっちこっちで略奪行為を働いている奴らがいた。初老の男性はモヒカン頭の野盗に足蹴にされ続けている様だ。


「お願いだ! もうやめてくれ! 私の命をやる! だからもう村の皆には手を出さんでくれ!」

「うぜぇんだよ! クソ爺とっとと死ねや!」


 モヒカン頭の野盗がさやから剣を抜き振りかぶる。

 俺はインビジブルを起動させたまま刀身を掴み、そのまま握り潰す。


「け、剣がいきなり潰れ――うがッ!?」


 俺はもう片方の手で首根っこを引っ掴み持ち上げる。


「ネメシス、サンダーボルテック」

「うぎゃああああああ!!」


 蒼い高圧電流が外格(がいかく)から発生し一瞬にして黒焦げとなった野盗は白い湯気を立たせながらその場に倒れた。


「一体……これはなにが……?」

「爺さん大丈夫ですかね?」


 俺はインビジブルを解除し、初老の男性の前に姿を見せる。


「ッ!?」


 初老の男性は俺に驚いたのか、足を震わせながら野盗が使っていた剣を俺に向けてきた。


「い、いつから!? 貴様も野盗の一味か!?」

「え、いやいや違う違う。落ち着いて下さい。俺は別にだな? え~旅人でして、偶然この村を見つけて立ち寄った所、何か一悶着あったみたいだったから助けた。ただそれだけ」

「ほ、本当か!?」

「本当も何も殺すつもりなら一々突っ立って話なんかしないでしょ?」

「た、確かに」


 初老の男性の手から剣が滑り落ちた。


「嫌アァッー!」

「今の声は!? 頼む! 村を救ってくれ! 何でもするから!」

「ん? 今なんでもするって言ったよね? よし、ちょっと待って下さい」


 俺は再びインビジブルを起動させ、声のした方へと向かう。


「初めて人を殺したが特にこれと言った感情はないな」

「働きもせず、村を襲う野盗に慈悲の心など必要ないのでは?」

「それもそうだな。RPGやっててわざわざエンカした雑魚に感情抱く奴なんていないだろうし」

「ゲイン様、お言葉ですが流石にそれはどうかと思います」


 えっお前が慈悲の心なんて必要ないって言ったのに、どういう事なの……。優秀なのは良いんだけどすっごい我が強いんだよなぁこの娘。拗ねると有無を言わさず電撃食らわせてくるし。まぁこの絶妙なポンコツ具合いが中毒性あって好きなんだけど。


「君さっきと言ってる事違わな――」

「何か?」


 彼女のキリッとした目がジト目に変わる。


「いえ、何でもありません。お、ネメシスさん着きましたよ」

「そうですね。中には非武装の人間と武装した人間がいるようです」


 眼の前には小さめのログハウスの様な家があり、画面上のレーダーでは2つの青いアイコンと赤いアイコンが点滅している。

 扉を開き中へと入ると、あられもない姿になった女性が足を引きずりながら後ずさるのが見えた。


「ぐへへ、もう誰も助けに来ねぇよ。おとなしくしな」

「抵抗できねぇ女を裸にひん剥くとは許せん。――下衆が」


 俺はインビジブルを再び解除し、金髪のモヒカンに肩ポンした。野盗の動きが止まり俺の方をゆっくりと振り向く。


「おい、お前」

「チッ、うっせぇな何――」


 俺は野盗の振り向きざまに鉄拳をお見舞いする。


「あべぴ!」


 野盗は間抜けな断末魔を叫ぶと、あらぬ方向に首が曲がりそのまま絶命した。


「お姉さん大丈夫?」

「ひッ!」


 安否を気遣ったつもりが、どうやら怖がらせてしまったようだ。


「ゲイン様、この女性は足の骨が折れているようです」

「さっきの野盗か。酷いことを……大丈夫、すぐに治してあげます。エクストラヒール」


 俺は回復魔法で最も効果の高い魔法のエクストラヒールを起動させた。彼女の折れた足が逆再生されたVHSの如く、元に戻っていく。


「え……あ……ありがとうございます! お願いです騎士様! 村を……村をお救い下さい! このままでは、皆殺されてしまいます!」

「落ち着いて下さい。わかっています」


 怪我を治した事で警戒が解けたのか、お姉さんが追いすがってくる。


「良いですか? ここで隠れていて下さい」

「はい! 村の皆をお願いします!」


 この人が村長の娘さんだったのか。


「ネメシス索敵開始、位置情報を送ってくれ」

「承知しました」

「一気に片をつけるぞ。まず、ポイントアナライザーの感度を最大に引き上げろ。クイーンビー・デススティンガーを使う」

「承知しました」


 今自分は薄暗く狭い家内にいるが、ポイントアナライザーの機能で赤いシルエットが幾つも確認できる。


 俺は簡易武器インベントリを起動する。

 半透明の四角いボックス俺を中心に囲む様に現れ、あらかじめ設定されている12個の武器がゆっくり右へ流れていく。

 俺はボックスを指で右になぞるとルーレットの様にボックスが回りだした。それを目当ての武器のボックスで止める。

 すると眼前に蜂の迷彩が施された派手なアサルトライフルが現れた。



黒と黄色のラインが交互にペインティングされている。スプレーで粗雑に塗装された銃だ。どちらかと言うと虎柄の方が近いかもしれない。


閑話休題。


 俺は銃を手にとり、赤い標的の頭に狙いを付けトリガーを引く。

 黄色い銃弾が障害物を貫通し敵の脳天にぶち当たり、顔面が弾け飛んだのが視認できた。


「巣の完成だ。奴の躰を媒体にして、クイーンの子供達が行動を開始する」


 今し方絶命した頭のないシルエットがムクリと起き上がり、躰中から米粒の様な赤い物体が空へ散らばっていく。

 散らばっていったのはクイーンが奴の体内で産んだ子供達だ。


「子供は親の習性を真似するもんだ。今回は頭を撃ったからな。こいつ等に限っては同じ匂い(・・)を持つ奴らの頭に入り込み、そのまま頭パーンって感じか。やっぱ数だけの雑兵一気にヤルならこいつ1択だな。一発で済むし、何よりほぼ即死を狙えるってのがいい」


 次々とマップに表示された赤い斑点が消えていき、1つだけが残った。

 マップに表示された野盗の位置を確認しつつ、処理していき最後にボスらしきだけが残す。


 周りが急に静かになったためか、世紀末ボスは声を荒らげているようだ。


「おい! オメェ等どうしたなんで急に静かになったんだ!」

「さて、何故でしょうね?」


 インビジブルとポイントアナライザーを解除し、真後ろから声をだしビビらせる。

 ボスの見た目もやはりモヒカンだ。自己主張の激しいレインボー色のクッソ派手な色合いが正気とは思えん。


「ッてめぇか! どうやって始末した! 俺の仲間は30人は居たんだぞ! どうやって一斉に……」


 相当狼狽えているのか、冷や汗をかき目が泳いでいる。


「大丈夫か? 血圧がどんどん下がっていくな? お化けでも見たか?」

「し、質問に答えやがれ!」

「うるせぇんだよ雑魚が、せっかくの俺の第一村人発見を邪魔しやがってよ。全員首から上がなくなってんじゃねーの? 興味ねぇよボケが」

「怒るのはそこなのですね……」


 ネメシスがちゃちゃを入れてきたが無視する。


「バケモンが! ぶっ殺してやる!」

「ネメシス、左肩の簡易武装のロックを解除」

「承知しました。サブウエポンレッサーバーストガン、レディ」


 世紀末ボスがナイフを腰から取り出し俺に向かってくる。俺は腰をほんの少しかがめ、ヤルダバオトⅧ式に内蔵された武装が起動する。左肩の装甲がパックリと割れるように開くと2つの銃口が突起し、そこからけたたましい炸裂音と共に光が発せられた瞬間、世紀末の右腕が消え去っていた。


「――うぎゃああああああ! 俺の! 俺の右腕があああああああ!?」


 半狂乱になった男は無くなった右腕を左手で確認するかの様に、わきわきと動かしている。

 男に残酷な真実を告げるが如く、肩から白い骨が露出、心臓の鼓動に連動し地面に赤い鮮血が滴り落ちる。


「うっせぇな。腕の欠損くらいで騒いでんじゃねーよ。このスカタン」

「ひいいいいいいいい!!」


 情けない叫び声を上げながら男は尻もちをつき、小さなナイフを握りしめたままめちゃくちゃに振り始めた。


「く、来るな! 来るなああああああああ!!」

「どうした? 治さないのか? 精霊の輪舞曲(ロンド)でバリアを貼らないのか? エクストラヒールで腕の即時再生は? マスタリアンキュアーでのデバフの予防は済んだのか?」

「た、たす……助け……」

「んだよ、なんにもできねぇのか。もういいや話にならん」


 俺は男から距離を取り、村長の無事を確認しに行く。


「た、助か――」


 何か聞こえた気がしたが、右手の親指と中指で音を鳴らすと、無詠唱で設置しておいた単体向け火属性最強魔法であるインフェルノベインが発動し、野盗がいた場所に一瞬紅蓮の火柱が発生する。火柱が収まるのを尻目で確認すると、そこには何もなくただ強過ぎる火力により、黒く結晶化された地面が残っただけであった。

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