第25話 俺、アーサーとエルメンテをギルドメンバーへ招待する
朝になり俺は、ギルドルームから出で背伸びをする。
「今日もいい天気だ~! さて、アーサー居るかな~?」
宿屋待ち合わせ場所の宿屋の方を見ると、座り込んでいるアーサーの姿が目に入った。
「うわ、だいぶ辛そうだな。大丈夫か?」
「頭が痛すぎて死にそうです……」
俺は、すぐさまエクストラヒールをアーサーにかけてやる。
「ありがとうございます! 昨日、本当に辛くって死ぬかと思いました」
「わかるよ、お前どんどん飲まされてたもんな」
「もう暫くお酒は飲みたくないです……」
どうやらアーサーはお酒がトラウマになってしまったようだ。
「最後に、女将さんに挨拶していくか」
俺とアーサーは宿屋へ入り、カウンターへと向う。
「女将さん飯大変美味しかったです。俺達そろそろ次の街に行きます」
「そうかい。私はずっとこの街に居るからね。また来るんだよ! 港はここから左へ真っ直ぐ行けばすぐだよ」
「お世話になりました。じゃあ!」
俺とアーサーは港へと歩き出し、暫くすると船場が見えてくる。よく見ると船場の入り口に見覚えのある女の子が立っていた。
「エルメンテ、何やってんだこんな所で」
「私も……付いていく。ルギームは私の……故郷。だからきっと……役に立つ」
「俺は有り難いけど、アーサーどうする?」
「仲間が増えるのですね!? 勿論、大歓迎です!」
アーサーはエルメンテの手を取りブンブンと握手している。
「そういや、永劫の探求者の面々はどうしたんだ?」
「皆故郷へ帰った……みたい。少なくとも、ノイスとイルゾール…はそうだと思う。ニーピアとガニーはわから……ない」
聞いた所で汽笛が鳴り響く。
「お、どうやら出港の時間みたいだな。船に乗ろう」
手早く手続きを済ませ、船の甲板へと俺たちは向う。
「ふ~、暫くはのんびり出来るな」
俺は海をボーッと眺めていると後ろに気配を感じ、振り向くとエルメンテが立っていた。
「聞きたい……事がある。昨日……入って行った……扉の中はどういう空間に……なっているの?」
「ギルドルームの事か? ありゃ、俺ん家だよ。俺はホームって呼んでるけどな」
言った途端、エルメンテの目が輝き出した。
「是非! 是非! 中を見てみたい!」
「お、お前そんなキャラだったっけ? う……う~ん、いいっちゃ良いんだけどちょっとなぁ」
ギルドメンバーは設立者合わして30名のみ登録出来き、登録は許可制で例外はない。今俺のギルドメンバーはハガセン時代のメンバーで全て埋まっている。消してしまうと前世の繋がりが完全に消えてしまう為、躊躇したのだ。
「ダメ?」
エルメンテは首をかしげながら俺を見据える。
「――良いよ、分かった」
俺はルームキーに付いているエメラルドの様な宝石を2回押す。すると、全ギルドメンバーの情報を削除しますか? y/nの表示が目の前に表示され、俺はyを押し新たにエルメンテとアーサーの名前を入力する。
「よし、これで何時でも何処でも入れるぞ」
「アーサー……呼んでくるね……」
暫くするとズダダダ! と音がし、アーサーが走りながら近づいてきた。
「ぼ……僕も……ハァ……お師匠様の家見てみたいです! ハァハァ……」
「お、おう。もうお前らの登録は済ませたし、何時でも行けるんだが」
「「今すぐ行きたい(です)!」」
「アッハイ。じゃけん、人気のないとこ行きましょうね」
俺達は船の中へと入り、適当な空いてる個室を見つける。
「よし、ここで良いか」
俺は客室らしき入り口に立つと、ルームキーをインベントリから取り出し、空間へ向かってキーを回す。すると、白い大きな扉が現れ、俺はドアを押す。眩い光に一瞬包まれると、そこは既に俺のギルドのエントランスだった。
「ッうわぁ~、凄い綺麗なお部屋ですね!」
「言っとくけどエントランスだからな。俺の部屋とかじゃないから」
アーサーのボケを尻目に見つつツッコミを入れ、今度はエルメンテの方を見ると上へと登る螺旋階段の横へ設置してある純金で出来た女神像をジッと見つめていた。どうやら、女神像の手にはまった銀の指輪を見ているようだ。大小の紫やオレンジ色の宝石が散りばめられている。俺はエルメンテの横へ立つと、女神像から指輪を抜き取り、エルメンテへ渡す。
「なんだ? この指輪が気になるのか? ほれ。欲しいならやるよ、それにこいつはお前の持ってる杖の上位互換みたいなもんだし、お前なら扱えるだろ」
「い、良いの!? こんな凄いものを!?」
「パッシブスキルはまぁまぁってところだな。消費MP半減70%と自動レジスト確率50%と物防アップ+3500だったっけ? そいつはマジックミスリルって特殊鉱物で錬成しなきゃならん。中々の技物だぞ? 杖より魔力伝達率が比べ物にならない位には上だ。おまけに杖みたいに邪魔にならないのが強みだな。名前は【魔導女神の指輪】だ」
「で……伝説……や、お伽話で出て……くる魔導神器の名前とい…一緒プクプク……」
そう言うとエルメンテは白目を向き口から、泡を吹いてビターン! と仰向けにぶっ倒れた。
「ファッ!? エルメンテ!? 大丈夫か!! エクストラヒール! ん!? 何故治らん! おい! エルメンテ!」
「恐らく、ただ単にショックで気絶しただけのようです。エクストラヒールが不発したところは初めて見ました。興味深いですね」
「ネメシス無駄に冷静な実況は良いから! ああもう! 仕方ねぇな!」
俺はエルメンテをお姫様抱っこし、螺旋階段を駆け上がり、すぐそこの空き部屋に入るとエルメンテをベッドに寝かせて部屋を出る。
「さてと、そろそろ外格をウルガイスⅥ式に変えるか。チェインジッ!! ウルガイスⅥ式ッ!」
「では、ゲイン様、またお会い出来る日を楽しみに待っています」
俺が声を張り上げると、ヤルダバオトⅧ式の全外格がバキャ! という音と共に、一斉に外れ俺の目の前で再び形造ると、俺に対し深々と礼をし露と消え去っていく。それを見届けた瞬間身体に軽い衝撃が奔ると、既に俺はウルガイスⅥ式を身に着けていた。ネズミ色のローブの様な物を羽織り、ノースリーブで腕は鋼鉄の腕まる出しだが、ローブは顔から足まで伸びている。顔面には青色の4つのモノアイが妖しく光る。
「よう、アルテミス。暫くの間世話になる」
「ヤダァン、ゲイン様。マジ久々よね!? 嬉しいわぁ! 暫くなんて水臭い! ず~っとでも、良いのよ? 」
「い、いや……良い……遠慮します。はい」
下へと降りていくとアーサーがジュースをメイドから受け取っていた。
「あ、お師匠さまって、誰ですか!? あなたは!?」
「俺だよ。ゲインだ。次の目的地、魔法大国ルギームはローブ羽織ってないと門前払いらしいぞ。ローブ渡しとくから、着ておけ」
俺はインベントリから、適当なローブを取り出し、アーサーへ放り投げる。
「はい! わかりました」
「ヤダァン、なに!? この可愛い坊や! すっごい好みなんですけど!」
ああ、やっぱこうなるのか。
こいつの性能もⅥの中じゃ群を抜いて優秀なんだけどなぁ。
絶対こうなると思ってたわー。絶対ロックオンすると踏んでたわー。
「えっと、新しいよ……妖精のアルテミスだ。仲良くしてやってくれ」
「新しい妖精さん!? 凄いです! よろしくお願いしますアルテミスさん!」
「妖精……ヒヒッ良いわねぇ。こちらもお願いするわね! 何ならもっと深い中になっても良いのよ?」
「頼むから余計な心配ごと増やさんでくれ……」
お前の身体は俺なんだからな!
2階の扉が開き、再起したエルメンテが降りてきた。俺を見るなりツカツカと早歩きで近づいてくる。
「それが、ゲインの……ローブ?」
「お、おう。そうだが、ダメか? これしかないんだが」
「正直、かなり……微妙……かも」
「んま! 失礼ね! 私のキューティクル&ダイナミックな外格が微妙だなんて!」
俺から別人(オネェ系で野太いダンディなおっさん)の声がしたため、フリーズするエルメンテ。
「え……えっと、エルメンテ言うの忘れてたけどさ。俺の甲冑特別製で妖精が宿ってるんだ。だから、俺から別人の声が聞こえるけど気にしないでくれ」
「格好いい! 私にも妖精宿る?」
アーサーとエルメンテは、どうやらお伽話やら伝説やらが大変お好みの様だった。
えぇ……食い付くんだ。これは予想外。
「ちょ……ちょっと無理じゃないかなぁ。ま、まぁ、仲良くしてくれ」
「フフフ、私を格好いいだなんて、いいセンスしてるわよあなた。女同士仲良くしましょ。わたしの名はアルテミス。よろしくね」
「よろ……しく、エルメンテ。女……の子同士???」
俺は無理やり話題を変えるため声を上げる。
「もう、そろそろルギームへ着くんじゃないか? 一度ルームを出よう。また何時でも来れるんだから! さぁ出るぞ!」
俺は有無を言わさずルームから出る為ドアを開ける。一瞬その場が光ると、入る時と同じ船の客室に戻っていた。小窓を覗くと、青や赤や緑にきらびやかに発光する都市。そしてその中で一際目立つ、とても大きな塔の様な建物が目に入った。
「あれが、例の塔か」
「うん、そ……う。私の故郷……」
エルメンテは腕をグッと握り拳を作る。薬指にはまった【魔導女神の指輪】がきらきらと輝いているのが見える。
船が港へ付いたのか、一瞬揺れを感じた。
「よし、どうやら停泊した様だな。エルメンテお前が頼りだ。しっかりな」
「エルで……いいよ。ゲイン」
「わかったよ、エル。さぁ、行くぞ」
俺達は船を降り魔法大国ルギームへと歩を進める。




