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第192話 俺、凍傷を治す

 ドーム状のバリアの横に突っ立っているゲキリンオーと、半壊状態の白鷹を回収するために腿を叩き、そこから出てきたケースを取り出す。ケースの蓋を開けると、即座に分解が開始され、歯車に戻る。それを拾ってケースに収め、腿のポケットに戻す。


「ビーディ、バリア解除。あと、パイロキネシスの準備をしておけ」


『うん、わかった』


 ドローンに火花が散り、破壊されると、バリアが解除された。どうやら全員無事のようだ。


『ところでさっきの、でっかい真っ青人間ってなに?』

「あれか? 魔王だ」

『魔王って、ロールプレイングで言うところのラスボスの?』

「よくわからん。何やかんやあって、俺の中に住んでる」

『けんちゃんって、何でできてるの?』

「血肉に決まってんだろ」

「ひどいよゲインくん! こんなブリザード吹きすさぶ中、放置するなんて! みんな凍りつくかと思ったよ!」


「わかってる! お前ら、今すぐこの国を出るぞ! 他の大陸に行きさえすれば、俺の機能が完全に回復するはずだ!」

『そもそもパッチ当てたんだし、今ここでキー回せば出られるんじゃない?』


 まったく、そんな都合のいいことがあるわけないだろ。


 俺はインベントリを開き、鍵を取り出してその場で回してみる。一瞬扉が出現したが、すぐに消え去ってしまった。


「ほら見ろ、やっぱできねぇじゃねえか!」

「ゲイン君! そんなことより僕の指を見てよ!」


 彼が俺に見せてきた指先は、真っ黒に変色している。


「んだよ大げさな。ただの凍傷じゃねぇか」

「なんで他人事なんだい!? 僕だけじゃなく、みんな凍傷にかかってるんだよ!?」


「みんな動けるか? 動けるやつは並べ」


 なんとか立ち上がった皆が、俺のそばへとやってくる。ほぼ全員が低体温症と凍傷にかかっている。


『凍傷かぁ。ロボットの俺には無縁だなぁ。どうするの?』

「ハガセン時代、ソロサバイバルで同じような状況になったことがある。そのときやった処理を行うだけだ」

「じゃあ今すぐ頼むよ!!」

「ああ、わかった。まずはアルジャ・岩本、お前からだ」


 俺はアーサーと戦ったときに持ち出したポン刀をインベントリから取り出す。


補陀落渡海(ふだらくとかい)? ま、まさか……」

「凍傷で腐った部分を切り落とし、エクストラヒールで元に戻す。これが最も手っ取り早くて、手間もかからない。どうせ痛みも感じないしな」

「聞かなきゃよかったよ……」

「文句を言うな。俺なんてニュービーの頃はエクストラヒールどころか、ハイヒールすら存在してなかったんだぞ」

「じゃあ、当時のゲインくんはどうやって治したんだい?」

「石を削って作ったお手製ナイフで腐った部分を抉って、普通のヒールと気合いで治した」


 アーサーとビーディを除く全員が、苦虫を噛み潰したような表情で俺のほうを見ている。


 アーサーだけは、俺を羨望の眼差しで見ているようだ。


 ほんと、わかりやすいなーこの子。


「前々から……思ってたんスけど先輩……どういうプレイスタイルでハガセンやってたんすか」

「お前らと俺とでは下地が違う。ここで話すことでもないしな。じゃ、処理……じゃないな、処置(・・)を始める。覚悟はいいか?」

「ゲイン君、僕まだ心の準備が……」

「――できてなくてもやる」


 俺は彼の腕を切断し、エクストラヒールを起動。切り落とされた腕は元通りになり、凍傷も消失する。


「おお……」

「どうだ、違和感はあるか?」

「ないよ。全然ない」


 よし、再現性はあると見た。


「さあ、次はリン、お前だ。神妙にしろ」

「いや、もう動く体力すら残ってないっすよ」


 彼女は左耳、両手、左足に凍傷が見られる。


 超感覚を起動し、黒くなった部位のみを一寸の狂いもなく切断。彼女の脳が痛みを知覚する前に、エクストラヒールで元に戻す。


「よし。おい、パイロキネシスを使って全員の体内温度を上げてやれ」

『いいよー』

「リン、動けるようだったら、他の動けないやつを俺の前に集めてこい」


 彼女の血色は元に戻ったが、どうやら動けないようだ。


「いや、さすがにちょっと……」


 ヒーローは全ジョブ中、最大の体力値を持つジョブだ。その彼女がこれでは、他のやつらはさらに体力の消耗が激しいと考えるべきか。


 俺は他のやつらにも、同じ工程を繰り返した。結果、ほぼ問題なしと判断。残ったのはアーサーとセリーニアのみとなった。


「じゃじゃ馬聖女とアーサーだな。大丈夫か?」

「ハイ、大丈夫です」

「アー君、無理しなくていいのよ! いいかゴキブリ! 私たちがどれだけ苦しい思いをしたと思ってんだよ!」


 極限状態での精神的疲労は半端ではない。ましてや、俺のようにパワードスーツを着ているわけでもない。そりゃ、こうなる。


「悪かった。どうしても外せん用事があった。今から治すから、そう邪険に扱うな」

「うっせぇ! アー君は私が治す!」

「そうか、なら勝手にしろ」


 あいつの体液は、たしかエリクサーになるという特異体質。それを使うのか。


「ライオン・ハート!」


 赤い魔法陣がアーサーの足元に顕現し、凍傷をあっという間に消し去ってしまう。


「ありがとう、セリーニア」

「アー君、よかった。この魔法が効いて……正直、不安だったの」


 なんだ? 今の回復魔法は?

 俺はヒーラーの回復魔法はすべて習得している。だが、今セリーニアがアーサーに放った回復魔法なんて、聞いたことがないぞ。


「その回復魔法、どこで覚えた?」

「このバリアの中で死にかけてるとき、急に変な声みたいなのが聞こえてきて……やってみたら覚えたんだよ!」

「ほう、なるほど」


 俺はじゃじゃ馬聖女の頭に手をやる。


「お前のステを見せろ」


 画面内に項目が現れた。レベル、年齢、ジョブ、そして持っているスキルの欄を確認する。

 そして、俺は発見した。彼女のエクストラスキル「涙香の聖杯」「月が如く」を目にする。だが、どの欄にも「ライオン・ハート」の文字列は確認できなかった。


 俺は彼女の手を離す。


「今でもそのスキルは普通に使えるんだな?」

「今さっきやったの見ただろ、ボケ!」

「そうだったな。おいビーディ。お前、バス持ってるか?」

『そら、もちろんあるけど?』

「俺の代わりに目的地まで送ってくれ」

『別にいいよ』


 鎮座していた青いロボットが崩れ去り、次々と歯車に戻っていき、マイクロバスが現れた。

 彼が手をかざすと、他の歯車は彼のケースに戻っていく。


「よし、周りを警戒しつつ、今度こそ次の大陸にイクゾー!」


 全員がバスに乗ったのを確認し、俺はビーディの隣に陣取る。


『えー、ご乗車ありがとうございま——』

「いいから早く発車しろ!」

『もー、余裕がないんだから』

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