第190話 俺、ビーディvsフェザエル
たばこを吸いそっと鼻から吹く。煙が黒と白の連続する虚空へと消えていく。
『けんちゃん終わったよ〜』
俺は視界を戻し彼を見る。白い手は紅く染まりピンク色の小さな肉片がこびり付いている様に見えた。
「お前まずその手を綺麗にしろよ」
『えーやだよ。そんな事より情報だけどさ』
「おう、何かわかったか」
『——それがぜーんぜん駄目。特に有益な情報はない。ということがわかった。まぁどうでもいい情報ならあったけど』
まぁそんな事だろうと思っていた。あんなズタボロの脳みそではそうなるか。
「絶音界を解除」
俺がそう言うと俺達を覆っていた膜が消え去った。
「ノイズご苦労だったな」
ノイズはザーという音を発すると俺達の前から消えた。
足元には人だった物が転がっている。
「これ生かしておくメリットあるか?」
『ない』
俺はインベントリからデザートイーグルを取り出し、顔面に向けて1発見舞っておうかと思ったが引っかかりを覚えた。
「ちょっと待て。お前どうでもいい情報ってなんだよ」
『あぁ、こいつが元々は人間で、あのエルとかいう魔術師の女の子と戦ってた記憶がサルベージできたってのと、あと脳に花が咲いてた』
「何?」
エルとこいつは敵対していたのか。しかし彼女は俺がこの異世界に来る遥か以前から冒険者としてやってきている。偶然か? それと脳に花?
「気色悪い事しやがって。まぁなにしても生かしておくメリットはほぼゼロに近いな」
俺は無惨に転がった無機物を見る。
しかし改めて見ると歪なデザインだ。羽根の大きさは右より左の方が僅かに大きい。脚部の代わりなのかは知らんが付けられた銃器も銃口の大きさがバラバラだ。
タクティカルアドバンテージもへったくれもない。小学生が適当にアセンしましたって感じだ。美しさの欠片すら感じない。
イラつくぜ全く。
俺は引き金を引き、真っ白な地面に紅い花が咲いた。
他に情報を持ってそうな奴……あいつか。
「あーもうしょうがねぇ。とっととこの土地から離れるぞ。んで、別の大陸だかに近づいたら折を見て地獄へ落ちる」
『えー今すぐ落ちようよ〜』
「馬鹿かお前は。このブリザードの中を仲間放置しろってのかよ」
『えー大丈夫だよ』
「んな訳あるか」
『けんちゃんちょっと待って』
「なんだよ」
『高熱源体が接近中』
「クソが! どうしていっつも何かやろうとすると邪魔が入るんだ! ビーディバリアドローン射出しとけ!」
『はーい』
俺は腿を叩きケースを取り出し、中から歯車を拾って放り投げる。
続けてて彼はインベントリから水色の卵型の機械を手に取り放り投げる。
卵はすぐさま上部が割れてプロペラが生え、バスの方へと向かっていきバリアが生成された。
『んで作戦は?』
「俺とお前しかいねぇ。作戦はデスペラード一択だ」
『いつものね。了解。俺はファイヤーファックで行く』
「……好きにしろ」
ビーディも同じ様にケースを取り出すと一際大きい歯車を1つつまみ上げ、ケースを逆さまにして残りの歯車全てを足元に落とした。
歯車が無数に分裂し戦闘機や飛行機、戦車や乗用車等が組み上がっていき機械でできた山というべきか、子供が超巨大なおもちゃ箱をひっくり返したと形容すべきか、実に散々たる光景が広がっている。
「お前相変わらずだな。もうちょっと丁寧に扱ってやれよ」
『こいつらは道具。それ以上でもそれ以下でもないよ』
「お客さんも到着した様だ」
遠く離れた先に見えたのは全長10メートル程ある鳥型の巨大ロボットだった。
「白を基調とした鳥のロボット。やはり天使か。芸のねぇ奴等だな。じゃあ俺は先にいくぞ」
そういって完成したゲキリンオーにフェードインしようと思ったが、鳥から巨大なミサイルが発射された。
俺は機体の肩に乗りそのままミサイルに向かってジャンプ。
ミサイルに飛び乗り側面を引っ掴んで強制的に向きを反対に変え、鳥に向かっていった所で手を離す。
「パワードギアが起動途中に攻撃するとは無粋だぞ」
落下し始めた所で黄色い光が俺を包み、瞬時にゲキリンオーのコクピットへと転移する。
インジケータの武器欄に異常は見られない。
「よし、アイソレッドビィーーーム!」
両目から放たれた黄色いビームが鳥に着弾する寸前のミサイルに当たり爆発する。
武装自体もどうやら問題ないとみていいだろう。
「人間! このフェザエルで貴様をバラバラにしてやる! 覚悟しろ!」
どこかで聞き覚えのある声。あーあの鳥人とロボットのニコイチか。
「上等だ。見せてみな!」
「吠えたな! 行くぞ!」
そういうと上空へ舞い上がり姿前なくなった。
レーダーからも一瞬で反応が途絶える。
「ほう、あの巨体でこのスピードとは……やるな」
どこから仕掛けてくるか。絶対強靭ゲキリンオーは対地戦を得意とするタイプ。永続的に空を飛ぶには専用のギミックがいる。まぁこのまま空飛んで戦う事もできないことはないが……正直相性は良くない。
しかしあの巨体だ。レーダーに反応見せた瞬間、ギガンティック・バスターでドロドロに溶かしてくれる。
「死ねぇ! 人間!」
上を見ると急降下で俺の方へ向かってくる。
「バカが! 真正面から突っ込んでるとは愚策だぞ! ギガンティック・バスタァ!」
胸部から真っ赤な閃光のビームを照射。敵ぶち当たった。そのままノーガードでオレにぶつかり、腹部に鈍い衝撃を受け俺ごと空へ舞い上がる。
「何!? こいつ!?」
「ハハハハァ! ざまぁみろ! お前を空中でバラバラに引き裂いてやる! マッハ7の衝撃に耐えれるものなら耐えてみろ!」
なんつー推進力だ。
雲を突き抜けあっという間に空の上。雲が真下に見える。
ゲキリンオーのオーバーGはどれ程だったか。これは割とまずいかもしれん。武装は豊富だが必ず叫ばなくてはならない性質上どうしてもタイムラグがある。おまけに動作も重めだから小回りが利きづらい。
『けんちゃんお待たせ〜。どんな感じ?』
レーダー横の画面に合体が完了したビーディの愛機“強制合体複合ユニット阿僧祇”が地上に立っているのが映像に映っている。
全長20メートル程ながら本体の阿僧祇というリアルロボットはたった3メートル未満である。このユニットはリアルとスーパーの垣根が存在せずその名の通り強制的に合体させる、という奇妙な特徴があり、おまけに性能もピーキーな為余程の物好きしか使わない。ビーディはその性質を気に入りファイヤーファックと呼んでいる。
閑話休。
小さなヘッドパーツに赤いモノアイが妖しく鈍い光を放つ。変わらず不格好な機体だ。青が基調だが、両手にサイドワインダーが大小むちゃくちゃについているのが見える。脚部は戦車やキャタピラが幾つも連なって足の形を形成している。
あの脚部でローラーダッシュしようものなら、即バランスを崩してその場に倒れ込むだろう。
「俺は上空だ。こいつ恐らく俺を大気圏外まで吹っ飛ばす気でいやがる。阿僧祇で今すぐ助けてくれ」
『ファイヤーファックね。機体名。じゃあ、俺準備するからちょっと待ってね』
あいつの機体が片手を上げるとサイドワインダーが引っ込み戦車の主砲が次々と生えだしさながらガトリングガンの様な形へ変形し弾が上空へ発射された。
『良い子の諸君! ファイヤーファックって意味は英語のスラングでヤリチンって意味なんだ。勉強になったね!』
「何!? なんだあいつぅ!?」
「良い子の諸君って誰に向けて言ってんだよ……」
あのアホの事はともかく弾が着弾したのかバランスを崩した様だ。
ゲキリンオーが空中へ投げ出された。
「残念だったな鳥野郎。ギガンティック・バスター! ギガンティック・ドリルスマッシャー!」
ゴン太ビームと右手の握り拳を腹に向けて放つ。熱線が機体を焼き、超巨大なドリルが機体の真上ど真ん中に当たり風穴を開け火を噴いた所に地上から超高出力のレーザーが機体を真っ二つに裂いた。
「まだトドメには遠いか」
飛んできた右手は直ぐ様戻り、そのまま自由落下する。
体勢を立て直し地上へ降り立ち阿僧祇と合流する。
『殺した?』
「まだトドメ刺してねぇよ」
『ね〜俺が殺したい。殺させて? ね?』
「別にいいけど」
『やった〜。あいつには世話になったんでね』
「あぁそういうことか。んじゃ好きにしろ」
『じゃあ好きにする』
阿僧祇の機体がどんどん崩れていく。
合体を解除した? どういうつもりだ?
急にコクピット全体が赤く光だしエラー音が鳴り響く。
「なんだ? また敵か?」
正面の画面に文字が表示され、規格外のユニットが強制接続されました。の文字とアナウンスが繰り返される。
横の壁が突如爆破され、黒いコードにまみれたビーディが現れた。
「——てお前かよ!! このエラーもしかして」
『合体中だけど?』
「俺の許可なく勝手に合体すんな!」
『いいじゃーん。先っちょだけだから。ね?』
両手を合わせて俺の方を見ている。ラブホのエントランスでゴネるおっさんみたいな台詞吐きやがって。あとお前がその仕草やっても微塵も可愛くねぇんだよ。
エラー音が鳴り止み、赤い光も合体完了の文字と共に消えた。
『さぁ逝ってみよ〜。これぞスーパーとリアルの両方の特性を併せ持つ。スーパーリアルロボット!! 名付けて絶対強靭ゲキリンオーファイヤーファックだ!』
「名前長過ぎだし、下品なんだよお前の名付けセンス!」
『細かい事は気にしない! ほらー俺がジェネレーターになってあげるから、あの紙飛行機宇宙にぶっ飛ばしてやろうぜ。バックパックと化したファイヤーファックは一味違う』
「うるせーばか」
俺達は鳥野郎の機体を両手で持つ。
「阿僧祇を背中に背負って宇宙に行けるのか」
『俺がジェネレーターになってるから余裕で第一宇宙速度まで到達可能だよ』
「何言ってんのかさっぱりわかんねぇ」
『宇宙に行けるよって事! さぁ行こう。地球は青かった』
「この地球が青いかどうかはわかんねぇけどなぁ」
俺達は宇宙に向けて飛び立つのだった。