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第189話 俺、リンvsサイボーグ

 バスを港町まで走らせて幾分か経った。


 眼前は完全にホワイトアウト。白銀の世界が続いている。代わり映えのしない風景。下に目線を落としスピードメーターを見ると60キロを指している。


 やべぇバリ眠いあまりに退屈だ。


白鷹(しろたか)あとは運転を任せる。然程遠くなかったはずだ。新しい町が見えたら入口付近で止まれ」

『承知しました。ゲイン様』


 俺は運転席から離れ、その辺の開いてる席へもたれる様に腰を下ろす。


「ゲイン君、通路にがっつり足出てるよ。態度悪すぎるって」

「うっせぇな、いいんだよ。俺のバスなんだから。今からちょっと寝るわ」

『ねぇねぇ、けんちゃん』


 こいつ俺の話聞いてた? 今の席から右斜め前にいるからがっつり聞こえたよな? 寝るって言った瞬間に話かけてくるか普通?


「なんだよ」

『あのお爺さんから貰ったパッチ当てた?』

「当てたっつーか半ば強制的だったろあれ。何か一瞬インジの画面バグってたけどそれがなんだよ?」

『別に』

「あっそ」


 いやまじでなんなのこいつ。


『ねぇねぇけんちゃん』

「んだよ、俺寝ようとしてるのわからん?」

『いや知らんけど、先からこのバスと並走してる変なのが見えるんだけど撃っていい?』


 ったくさっきから……あ?


「このバスと並走ねぇ? 確か時速は……」


 心臓の鼓動が高鳴り鼻先がちりつく。


「敵だ撃ち落せ!」

『よっしゃ! 撃つよ〜』


 ビーディは窓を開け、インベントリから対物ライフルを取り出し敵に銃口を向けあいつの躰が一瞬オレンジ色に光る。


『あれ〜? おかしいなぁ着弾してるのに効果がないや』


 何? 今あいつなんと言った?


「ビーディ俺にお前の視覚を寄越せ!」


 右半分の視界が切り替わり、敵の姿が映し出された。


 顔は人間だが、歪に出上がった銀の羽根。両翼の真ん中には突起物。手はなく両脚部に足の代わりと言わんばかにり機銃が付けられている。


 ビーディが放つ対物ライフルの弾は跳ね返されているのがわかった。


「あの剛性は……」


 羽根にあった突起物がバスに放たれた。


「ビーディガードしろ!」

『もうやってるよ』


 あいつを中心にバリアが展開されるが、爆風によりバスが横転する。


 躰が宙を舞う瞬間、超感覚を起動。飛び散る窓ガラスを手で退けながらこの中でシートベルトをしていないのは俺、ビーディ、リンの3人である事がわかった。


 俺は椅子を蹴って、リンの元まで行き彼女に抱きついた。

 ポールや椅子にぶつかりながら、フロントガラスに叩き付けられやがて静寂が訪れた。


「いって〜なクソが」

「先輩なんすか……今の?」

「敵だ」

「敵? てか先輩近いッスよ! ブレーク!」

「お前な、命の恩人に対してその態度はってそんな事はどうでもいい! 全員無事か!?」

『怪我してる人はいないけど俺達以外皆気失ってるねぇ』


 マジかなんてことだ。


「ビーディ! バリアの出力を最大してそこで待機! リン! お前は俺と来い!」

『まぁしょうがないかなぁ、いいよ』

「あたしが行くンスか!?」

「当たり前だろうが! 俺とお前でヤツを叩く!」

「マジで言ってんすか!?」


 ヒビが入ったフロントガラスを叩き割り、俺は外に出る。


「先輩あの、躰大丈夫ッスか?」

「え? ああ、こんなのなんでもねぇ」

「どんだけ硬い躰してるんすか……」

「俺の事なんてどうだっていい。まずいぞこれは……」


 ブリザードが吹きすさぶホワイトアウトの中で戦わなければならない。


「おいリン、お前極限状態で戦った事あるか!?」

「ある訳ないっしょ!? つーか生身で寒くないんすか!?」

「あぁ、この位の寒さならどうってことない」

「マジ先輩化け物じゃないっすか」

「いいか、ここで奴を迎え撃つ!」

「迎え撃つってどんな敵かも分かんないのに!?」

「敵は恐らく飛行ユニットを搭載したロボットだ。俺も一瞬しか見れなかったが、間違いない。超感覚を起動し俺の背中に合わせろ」

「分かったっすよ……メタモルフォーゼ!」


 リンの躰が光に包まれ、ブレイクハートへと変身し俺と背中を合わせる。


「先輩耳が痛いッスよ……」

「いいか、神経を集中させろ。余計な音を切り捨てるんだ。超感覚はただ体感の時間を遅らせるだけのスキルじゃない。上手く使えば無敵のスキルなんだ」

「そんな無茶な……」


 ま、そらそうだわな。俺もこれが出来るようになるまで2日はかかった。改めてあいつ(アーサー)の異常性が身に沁みて分かる。


「リン、好きなマスクドブレイバーのOPを心の中で歌え。落ち着け、難しい事じゃないんだ。いらない要素を少しづつ切り捨てれば——」


 眼前に光るものが見えた。風切音を放ちながらこちらへ近づいてくる。


「来たぞ敵だ!」

「そんな! 心の準備が!」


 俺の足元に銀の突起物が突き刺さる。俺は即座にそれを蹴り上げ空中で爆発した。


「頭が……頭が痛いッス」


 やはりリンでは荷が重いか。


 リンが膝をつき、両耳を手で押さえたかと思うと、手を離し徐ろに立ち上がった。


「ハァアアァアァ……」

「リン? 大丈夫か?」


 まただ。姿こそリンだが、今俺の後ろに立っているのは彼女ではない。それが何故かわかる。


「リン……ではないのか」


 それ(・・)は俺から離れると右手を天に向かって突き出した。手の平から紫に光る(いばら)の様なものが次々と出現し、触手の様に動き出した。茨は伸びていき、そして止まったかと思うと一気に手の中へと戻っていく。


 茨に絡め取られた敵が俺の前で制止した。


 人の頭を持つがやはり躰……いや、機体と言うべきか。胴体に巨大な羽根を付けられた様なデザインだ。


「飛ぶ飛ぶ飛ぶ飛ぶ飛ぶ飛ぶ!」


 うわ言の様に同じ言葉を繰り返し、俺達を睨みつけている。


 なんだこいつは……。


 頭を触ってみると、鉛の様に冷たいが皮膚の感触があった。


「こいつ……人間だ。サイボーグ化されてやがる」


 (うごめ)いて俺に近づこうとする。降り積もる雪の中から極小の茨が奴に幾つも突き刺さり、動きが止まった。


「ハアアアアアアアァアァ……」

「待て殺すな! 言葉が通じるかわからんが、待ってくれ!」


 俺の言葉が届いたのか、かざしていた手を下ろし下を向いて黙っている。


「あれ? 先輩倒したンスか?」

「リン元に戻ったのか。お前というか、恐らくお前の師匠がやったんだ。俺は何もやっていない」

「へぇ〜そうなんすか。多分ハウンドドッグ師匠っすかねぇ。わんちゃんみたいな格好してて可愛んスよぉ。ってかそのツルツル頭の羽根生やした人が敵なんすか?」

「そうだ。お前は戻って他の奴の面倒見てくれ」

「分かったっす」

「おい、ビーディこっちこい!」

『何〜けんちゃん』


 リンと入れ替わる形でビーディが俺の隣にやってきた。


「どう思う?」

『ん〜俺がいた時こんなサイボーグみたいな奴はいなかったね。軽くスキャンしてみたけど頭は完全に人間のものが使われてる。1つ奇妙な点があるけど』

「奇妙な点?」

『こいつ、クロイツフェルト・ヤコブ病患者みたいに脳みそが穴だらけになってるね』

「何?」

『恐らくあいつらがこいつをいじった時に脳みそも弄りまわしたんだろう』

「そうか、こいつの頭から情報を抜き取ろうかと一瞬思ったが……」

『ちょっときつそうだね〜。まぁできないこともないだろうけど』

「そんな事が可能なのか? 脳みそ穴あきチーズになってんだろ」

『頭切り開いて直接海馬から情報抜き取ってみようか。前に何回かやってるから出来ると思うよ』

「流石だな……。とても俺にはできる芸当じゃねぇ」

『褒めても何もでないよ〜』

「褒めてねぇよドアホ。じゃあ頼む。一応絶音界を起動させとくか。いでよノイズ!」


 俺の呼びかけに反応し空中に人を模した黒い砂嵐状の物体が出現。


 ザーという音と共に俺とビーディを中心に黒い膜が出現し包み込む。


『便利だよねこれ。ヒソヒソ話するのに最適』

「いいからとっととやってくれ」

『へへ〜見る?』

「ざけんな誰が好き好んで見るか」

『じゃあ、終わったら終わったって言うね。あとムービー記録していい? 後でおかずにするから』

「好きにしろよ……」

『でもさぁ戦ってる時は普通に臓物とか見てるじゃん』

「戦闘時は俺はあの〜あれだ、一種の無我の境地ってやつに軽く入ってるからな。今はもうオフだから」

『いや、意味わかんないだけど』

「うっせぇな。いいだろ別に」

『まぁいいや、さぁ始まりました。アナーキストの幼稚園異世界編。これから俺のおかずになってくれるのは、この悲しきサイボーグ君。では、レッツエンジョイ!』

「何がレッツエンジョイだよ……」


 俺はしばらく上を向きキュイイイインという嫌な音と骨を外した様な音を聞き、合図がくるまで待ち続けた。

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