第188話 俺、煙臭い都市を出る
早く来いよ。いつまで待たせんだよ。ったくこれだからエレベーターは嫌いなんだよ。
チーンという音と共にエレベーターの扉が開く。俺は扉に手を挟み中に入る。
「お前ら早く来い! とっととこの国から出るぞ!」
他の面々がエレベーターに乗り込み、俺は手を離す。ドアが閉まりひとりでにエレベーターが動き出す。
「あのぉお師匠様……」
「ん? なに?」
俺の横にいるアーサーは何やら俺に伝えたいのか、伏し目がちになっている。
「腹でも減ったのか? よし、この国出たらラーメン食べような! お前の好きな醤油ラーメン!」
「ありがとう御座います……。でも、そうではなくて……」
「そうか、まず風呂だな! その次に食事な!」
「あっあの!」
軽い揺れを躰で感じチーンという音に扉が開いた。
「おし、お前等出ろ出ろ! レッツゴー! イクゾー!」
ゾロゾロと皆が出た後最後に出ると向こうから錆びついた銅像が近づいてきた。
「兄貴〜! お疲れだニャ〜」
「パルチか。俺達もうこの国から出るわ。それはお前にやるよ。達者でな」
「そうかニャ……。兄貴達には本当に世話にニャったニャ。この御恩は一生忘れニャい。お嬢さん、あの時人質にとったりしてごめんニャ」
エルが抱きつきすぐに離れた。
「バイバイ猫ちゃん……」
「名残惜しいが、これでお別れだ! イケイケー!」
「名残惜しい感じゼロじゃないか……」
「うるせぇインド人! 俺はこの陰気な都市からとっとと出たいんだよ!」
「前から言ってるけど、生粋の日本人だから! クォーター!」
「わかったわかった。そうなんだ凄いね。歩みを止めるな! 皆歩け!」
『もー相変わらずせっかちだなぁけんちゃんは』
皆揃ってポータルに触れ、地上へと舞い戻る。
インベントリを開き、地図を確認し真っ直ぐ北に行けば出入り口があるのがわかった。
「この道真っ直ぐ! イケー! 走れ!」
「あの! お師匠様! 僕の話を聞いてください!」
「ちょっと待ってアーサー! その話この国出てからでいい!?」
「えっ!? それはそのぉ困りますぅ……あの悪魔を倒さないと……」
「悪魔……ハッ!?」
すっかり忘れてたー! やべーどうしよう。今すぐ悪魔呼び出さないと。 よかった地獄の元締めシメといて。
「ちょっとごめん、トイレ」
『行けって言ったりトイレに行ったり、ほんと忙しいなぁ』
いつもの如く銃を取り出しヘッドショットをかましてから、皆から離れちょうど良さげな裏路地に入る。
「おい、ルシファーいるか?」
「はい、我が主ここに」
俺の腹からルシファーが顔を出した。
「ここにいる悪魔をだな。あのーでっかいハンマー持ったやつ居ただろ? あいつに変えて、この都市から少し離れた場所に送ってくれ」
「承知致しました。我が主全てこのルシファーにおまかせ下さい」
「頼んだぞ」
ルシファーは俺の腹の中へと戻っていく。
「フゥ~危機一髪」
『けんちゃん、何今のは。あれが世に言うオメガバースってやつ?』
声のした方向を見るとビーディが側に来ていた。
「え、もしかして見た?」
『けんちゃんのお腹からアーサーきゅんにそっくりな子の頭が出てて、会話してた』
アーサーの事きゅん付けするその文化なんなんだ。ってそんな事よりも、がっつり見られてしまった。まぁ見られたのがこいつなのが不幸中の幸いか。
「実はな」
『アーサーきゅんの子供身籠ったの?』
「ふざけんな。ちげーよ。マジで1回殺すぞ。耳かせ」
俺は事情を手短に話した。
『え? けんちゃんは故意に地獄に落ちて、ケルベロスに懐かれて、地獄の領主を殺して。んでもって地獄の王になったの?』
何でわざわざ全部声に出して言ったんだこいつ。
「そういう事だ」
『えーなにそれぇ。めっちゃ面白そうじゃん。何で誘ってくれなかったんだよぉ』
「色々忙しいんだよ俺は」
『地獄に行ったら好きなだけ人撃ち殺し放題じゃん。いーなー。俺も地獄に落ちたい』
「心配すんな。お前はもう確定済みみたいなもんだろ」
『なんで?』
「いやなんでって……。あーそうか。お前そういう奴だったな。とにかくだ。今悪魔の出現位置をちょっと調節してもらったから、とっとと行くぞ」
『ねね、次地獄行く時は俺も誘ってね』
「あぁ、わかったよ」
『絶対だよ? 約束してね?』
「お前ぇも今の話誰にも言うなよ」
会話を切り上げ、俺達は皆の元へと戻る。
「あ! お師匠様聞いてください! 悪魔の出現位置が変わったんです!」
「え〜ほんと〜? どこどこ〜?」
「ハイ、この都市を出てて少し行った所です!」
「そっかぁ外か〜! 早速出ようか! カーッ外なら早く行かなきゃなぁ! カーッ!」
そうして門の様な所に行くと、ドワーフが側に立っていた。
「あんれ、あんた様、神様でねぇかい?」
「そうだ。この都市を出たい」
「へぇ、すぐに開けますでよ」
門が開くと同時に鋭い冷風と雪がお出迎えだ。
「おい非致死性バリア張ってやれ」
『いいよ』
ビーディを中心に半透明の白い膜が発生し俺達を包み込んだ。
門を出てて階段を降り、そのまま視界不良の道を行く。
しばらく歩くとアルジャ・岩本が口を開いた。
「いやー流石に凄いね。全然前見えないね」
「この吹雪だからなぁ」
「この吹雪ってさぁ、何なんだろうね」
「そういう気候なんだろ」
「そうかなぁ、何か怪しいよね」
そんな下らない話をしながら歩いていたら、アーサーが立ち止まった。
「皆さん止まってください! 来ます!」
突如、紅く光る魔法陣が現れ、そこから戦鎚を持った羊の頭をした悪魔が徐に出現した。
「我が名はデルモス! いざ尋常に勝負!」
『悪魔なのに名乗っちゃったよ』
「いいから黙っとけ」
アーサーがバリアから躍り出ると、デルモスに向かって剣を抜く。
「僕が勇者アーサー! お前を倒す!」
「アーサーきゅんかっこいいッスよ!」
「アー君やっちまえー!」
「フハハハ! 相手にとって不足なし!」
デルモスは巨大な戦鎚を肩で担ぎ、笑い声を上げならアーサーを睨めつける。
「ミラージュスラッシュ!」
一瞬の静寂のあと、アーサーは剣を構え、姿が一瞬ブレたかと思うとデルモスの躰は一瞬で細切れになっていた。
「相変わらず凄い斬撃スピードだね……」
「そうだな……」
素人目には速すぎて何が起きてんのかわかってないんだろうが、俺にはわかる。太刀筋に更に磨きがかかっているな。原理は単純そのものだが、仮に俺があの技をやったとしてクオリティを維持できるだろうか。
真っ白な雪原が悪魔の肉片と赤い血溜まりの中心で佇むアーサーは俺に向かって手をふる。俺右手を上げて応えると、俺の元に小走りで向かってきた。
「お師匠様!どうでしたか!?」
「あぁ、よくやった」
「技名決めたんです!」
俺は頭を撫でてやる。
こいつはどこまで強くなんだろうか。こいつの進化速度は俺の範疇を超えているのではないか。そんな気がする。
「フッ……」
「えへへ、お師匠様? どうしたんですか?」
「いやなんでもない。ナイスキル。ところであのー丸っこい玉なかった?」
「いえ、ありませんでした。何か僕失敗しましたか?」
「いやいや、なければないで問題なし。さぁ用事は全部済んだな。いざ行かん。ニューワールドへ!」
「で、ゲイン君どこ行くんだい?」
「ここまーっすぐずっと歩いてりゃ港町に着くんだよ」
「えー、この雪の中を歩いていくのかい?やだよ。ねーバスで行こうよ〜」
「チッ……うっせぇな。わかったわかった」
俺は腿を叩き中に格納されたケースを取り出し、中にある歯車を1つ選びその場に放る。
白いバスが完成し、独りでに扉が開く。
皆乗り込むのを確認し最後に乗り込み、運転席に座る。横っちょにある小さなレバーを引くとピピーと音が鳴りドアがしまった。俺は再度ブレーキを上げてギアをセカンドに入れて左足でクラッチを半分踏み右足でアクセルを踏む。
バスは真っ直ぐ港町まで走り出す。