第19話 俺、パーティに誘われる
宿屋へ戻り女将さんオススメの魚料理に舌鼓を打つ、俺とアーサー。
このあとどの技をアーサーに習得させるか、舌顎を人差し指と親指でさすりつつ考えていると、不意に後ろから肩を叩かれ、俺が振り向くとそこには見知らぬ剣士と盗賊の男達がいた。
「あの、ぶしつけで申し訳ないのですが、隣宜しいでしょうか?」
長い横1列のカウンター席に俺とアーサーは座っており、俺の左隣にアーサー右隣は空席となっている。特に断る理由も無い為俺は了承する事にした。
「どうぞ、全然構いませんよ」
剣士は俺の隣へと座り、盗賊の男は少し離れた柱に凭れ掛かっている。
「私の名はノイル。あそこの柱に立っているのは私のパーティ仲間であるイルゾールです」
柱の男を見るとクイッと軽く首を縦に振り挨拶して来た為、こちらも同じ様に返す。
俺がノイルへ目線を戻すと、申し訳なさそうにノイルは喋りだした。
「実は……その、貴方はとてもお強いですよね? 例のダンジョンで、そちらのお弟子さんとの修行をイルゾールが拝見したようでして、是非うちのパーティに参加して貰えないかなぁ……と」
「いやぁ、恥ずかしいなぁ」
何故か、アーサーが照れているが無視する。
「ダンジョンを出る少し前だが、誰かが俺達を監視していたのは気付いてた」
気付いたのはネメシスだけど。
「そんな……今まで誰にも気付かれた事ないのに……」
余程の衝撃なのか、盗賊は目見開き口をへの字に曲げ、凭れていた柱をズルズルと腰が落ちていき、そのまま尻もちを着いてしまった。
「で? 本題は?」
「2階に別室があります。本題はそこで」
ノイルが立ち上がりその後をイルゾールがついて行った為、俺達も立ち上がり2階の別室へと向かう。
部屋へ入るとノイル、イルゾールの他にも3人いた。
大きな丸い机に女性2人に男性1人が椅子に座ったままの姿勢で俺の顔を見ている。
先ず目に入ったのは、翠色のフワリとしたショートカットの魔術師だ。凄い青黒い中々年期の入ったローブを着込み、金色の宝珠が埋め込まれた杖を大事そうに持っている。
凄い髪色だなぁ。絵に描いた様なエメラルドグリーンだ。
かたや、もう一人の女性はとても長い金髪ストレートの髪に、胸元が少し空いた真っ白なローブを着込んでいる。壁に立てかけたメイスが彼女の武器だろう。恐らくヒーラーだろうと思った。 最後に右斜めに、座っている短めの頭髪に頬にデカイ傷がある体長2メートルはゆうに超える大男だ。後に同じくらいデカく頑丈そうな大盾がある。タンク職のシールダーで間違いないだろう。
「どうぞ、座って下さい」
俺とアーサーは開いている席へと座る。
「どうも、ゲインと言います。こっちの連れはアーサーです」
俺は軽くアーサーを含め、自己紹介する。すると、大男が口を開いた
「おい、ノイルこいつ本当に大丈夫なのか?」
「イルゾールから聞いた話だと凄まじい強さらしい」
大男は眉間にシワを寄せ頭をガシガシと掻きながら、俺を睨みつける。
「こいつの甲冑には一切傷が見当たらねぇ。どんなに手練だろうが、装備に傷1つねぇなんて有り得ねぇ。俺は反対だね」
アーサーが口出ししようとした為、手で遮る。
「アンタの言う通りだ。だが、俺の装備はちょっと特別性でね、そんじょそこらの攻撃じゃ傷1つ付かんぞ」
「なんだとぉ! この若造が!」
大男が身を乗り出し、俺につっかかろうと近づいて来た。もう数センチというとこで、ガタリという音が聞こえそっちを見ると、魔術師の女の子が立ち上がっており、カタカタと体を震わせながら俺を見ている。
「やめて! ガニー! その人が本気出したら、貴方いえ、ここにいる私達全員、一瞬であの世行きよ! 私……相手のステータスを目で見る事でわかるスキルあるの知ってるでしょ!? この人のステータス何もわからないの! 手練れとかそういう次元じゃない……お願いだからやめて」
パーティメンバー全員が目に涙を浮かべている魔術師の女の子を見て静止している。
「エ……エルメンテがそこまで言うなら……マジなんだろうな。元から殴る気なんてなかったさ。ちょっと、試したかっただけだ」
ガニーと呼ばれた大男は席へと戻る。それを見届けたノイルが口を開く。
「じゃ、じゃあ改めて自己紹介を。私はこのパーティ【永劫の探求者】リーダーノイル。そして、右から前衛並びに情報収集やサポート担当のイルゾール、中衛回復担当にニーピア、後衛担当のエルメンテ、そして最後に前衛の壁役ガニー以上5人パーティです」
「パーティメンバーの構成はわかった。で? 俺達に何をさせたいんだ? 俺達が仮にお前等のパーティに入るとバランスが崩れるんじゃないか?」
俺は素直な疑問をノイルへ投げかける。
実に模範的なパーティ構成だったからだ。俺達がこのパーティへ入ってしまうと前衛過多になってしまい、中後衛の仕事量が増え、結果的にパーティ全体の弱体化を招くのだ。
「流石、仰る通りです。しかし、今の私達では最下層のダンジョンの主、リヴァイアサンに勝つことが出来ないのです」
リヴァイアサンと聞き、俺は1つのアイテムを思い浮かべる
「エリクサーか」
俺がそうぼやくとノイルの顔付きが変わり、俺に縋り付いてきた。
「ご存知なのですか!? リヴァイアサンの鱗がエリクサーの材料なのを!? お願いします! 私にはもう時間がないんです!! 妹をどうか!! どうかお願いします!!」
「落ち着け。あんたの妹は、何か病に掛かっているのか?」
俺の質問に涙を拭い、ノイルはゆっくりと語りだした。
「はい、妹は7年ほど前、石化病を患ったのです。ありとあらゆる治療を試しましたが、一切に効かず途方に暮れていたある日、どんな病気も治るエリクサーという薬が存在しているのを知りました。私は血眼になって材料探し集め、遂にあと1つという所まで来ました。冒険者となったのは元々名声を高めんが為ですが、今は妹を助けるという目的のみで動いています」
「その最後の材料がリヴァイアサンの鱗って訳か」
「はい。その通りです」
リヴァイアサンは巨大な蛸と蛇が合体した様な魔物であり、その巨大な体積活かしたリーチの長さや毒のブレスこそ脅威だが非常にわかりやすい弱点があった。
「リヴァイアサンは雷属性の技に滅法弱い。雷属性の技なら魔法だろうが攻撃スキルだろうが、簡単に仕留められる筈だ」
ノイルの表情が暗くなる。
「私達のパーティに雷属性のスキルを持つ者は……いません」
「なるほど。色々わかったよ。アーサーどうする?」
アーサーはいつもみたく元気に答える。
「困っている人を見過ごすなど、出来るわけがありません!」
「――って、勇者様が仰ってるんで手伝いますかぁ」
「「「「「勇者!?」」」」」
声が綺麗にハモり、俺は苦笑する。
「悪いが、3時間だけくれ。アーサーに新しい技を覚えさせる」
「新しい技!? やった! お師匠様! 今度はどんな技を教えて頂けるんですか?」
「「「「「従者なのに勇者のお師匠様!?」」」」」
「忙しい人達ですね」
ネメシスが小声でツッコミを入れる。
「とりあえず、今からダンジョンの1階層で技を伝授するから3時間経ったら来てくれ」
妹かぁ。クソー、同じ妹持ちとしては助けるしかないじゃん。
俺とアーサーは部屋を出て女将さんに挨拶し、再びダンジョンへと向かった。